第7章 第70話 新章突入──書き手なき物語
俺、高野一朗。
今、王都の大通りで屋台の焼きそばパンを持ちながら「記録王様〜!」と手を振られている。
……どうしてこうなった。
事の発端は、ログレスが消えたあとだった。
記録スキルの暴走は収まり、因果喰らいは封印され、神記層の脅威はいったん去った。でも、その代償として俺の手帳──つまり、俺のこれまでのログはまっさらになった。
つまり、“ただの俺”に戻ったわけだ。
……が。
「一朗さん、一朗さん! うちの井戸の記録、誰が最後にバケツ落としたか調べてください! いま喧嘩中で!」
「ログ取ってねぇ!? マジか!?」
そんな感じで、気づけば王都の人々が俺のところに“記録の民間トラブル”を持ち込んでくるようになった。
きっかけはたぶん、先週やった“近所の猫が誰に懐いてるか”記録からの“懐きログランキング”のせいだ。3位の雑貨屋の婆さんがやたら嬉しそうだったから、変に広まってしまったらしい。
「一朗さんがいれば、国の書類もすっきり片付くって話ですわよ」
と、妙にノリ気な王城の事務官もいたりして、なぜか俺、王都の行政の記録部門みたいな仕事を任され始めていた。
「いやいや、俺はただの元派遣社員! 書類の山はトラウマなの! 過去に月末で12連勤の後にタイムカード打ち忘れて無賃労働になった男なの!!」
「むしろそういう人にお願いしたい」
「どんな論理だ!?」
ということで、俺は仕方なく「王都記録整理協力員(仮)」という、なんとも微妙な立場で記録管理に関わることになった。
スキルは完全に暴走も止まり、新しい記録は安定して残せるようになってきたし──
なにより。
「一朗くん! 新しい紙ログシート届いたわよ!」
「クラヴィスさん、昼食のカロリー記録と職員の残業記録、突き合わせておきました」
「わたし、ログダンスの練習してきたよ! モチベーション向上用♪」
仲間たちが、俺の記録スキルに巻き込まれて……いや、支えてくれていた。
「……なんか、悪くないな」
誰かの記録を預かるって、責任重大だ。でも、面白い。人生ってこうやって、ページをめくるんだなと実感する。
そんなある日。
王都の広場で、妙な集会が開かれた。
『一朗さんに王様になってもらおうの会』
「……なにこのゆるいネーミング!?」
だが、広場には市民が集まり、「記録王様!」「記録便利すぎる!」「なんか顔も覚えやすい!」という謎の理由で支持されていた。
「ちょっと待って、待って!? 俺、まだ税金とか未納あるし!? ていうかそんな大役無理でしょ!?」
「よろしい、では来月投票だ」
「だから早いって!!」
こうして、俺の“記録支配者”への第一歩が、意図せず始まってしまったのである。




