第68話 記録戦争──ログVSログレス
戦いの号砲が鳴ったわけではない。
でも、確かに空間が震えた。その瞬間、俺たちは本格的に“因果喰らい”とのバトルに突入していた。
「記録スキル発動──!」
俺が叫ぶと同時に、手帳が眩い光を放ち、空間に数十本の因果レイヤーが浮かび上がる。未来の選択肢が、まるで帯状に編まれていくように連なっていた。
「うおっ……これが“多層因果記述”の本領……!」
クラヴィスが驚きの声を上げる。
「これ、俺が全部選ぶの? マジで? オンライン通販より選択肢多いんだけど!?」
その隣で葵が優雅にロッドを振るい、光の楯を幾重にも張っていく。
「今は慎重に選んで! いっそ“明日休みになる選択肢”とか選べば!?」
「それ世界線変わっちゃうからッ!」
“因果喰らい”がにゅるりと触手を伸ばしてきた。触れるだけで、周囲の記録層がざざっとノイズを走らせて崩れていく。
「ログ消去攻撃!? バックアップ取ってないぞ俺の人生ログ!!」
「今すぐクラウドに同期して!」
「そんな便利機能ないわ!」
ロクの声が響く。
「高野一朗! “ログレス”を召喚せよ!」
「ログレス!? なにそれ新種のメカ!? ロボ!? ファンタジーっぽい名前だけど!? むしろガンダム寄りじゃね!?」
「違う! お前自身の記録の守護体。選ばれし記述者が“記録の結晶”から生み出す分身戦士だ!」
俺の手帳から、金色の羽が舞い上がる。
その羽は集まり、閃光となって異形の姿を形作る。
六本の腕に羽根のような装飾を持ち、頭部には仮面と複数の目が輝いている。その姿は神話と機械が融合したような──人の形をかろうじて保った“記録の守人”だった。
「我はログレス──記録を守る者。
この因果の蠢き、決して書き換えさせぬ」
「……え、なにこのセンス!? めっちゃカッコいいじゃん!? あれ、俺ってもっと地味な存在じゃなかったっけ?」
「お前の“記述の可能性”が具現化した形だ。最も効率的かつ象徴的な守護存在」
「なんか見た目だけで敵がビビりそうなんだけど!」
ログレスは六本の腕のうち二本で“記録の剣”を、残りで魔法陣と防壁を同時に展開しながら突進した。
“因果喰らい”の目玉が無数にログレスに襲いかかるが、ログレスは光の斬撃とデータの盾でそれを受け止める!
ビリビリと記録層が反応し、俺の手帳にもダメージのログが刻まれる。
「すっげぇ……あれ俺のログの守護者!? ハイスペックすぎて逆に不安になる!!」
「語彙が迷子になってるよ一朗くん!」
ユグが後方で、キラキラしたリボンみたいな魔法を唱えながらくるくる回っていた。
「やっぱ踊りって大事。戦意上がるよね~♪」
「バフ系の応援歌だ!?」
“因果喰らい”が巨大な記録の触手を振り下ろす。ログレスが六本の腕でそれを受け止めるが、空間がねじれた。
「だめだ! このままじゃ記録がもたない!」
「じゃあ、もう一段階進化させるしかない!」
俺はスキルを再度起動する。
「ログレス、オーバーインプット!」
光が爆発的に広がり、ログレスの姿が変化していく。
今度は、背中に大きな書架が出現し、そこから本の翼が展開する形態へ。
まさに“記録の使徒”。その存在だけで、周囲の記録が安定していくのがわかる。
「うおおおおおっ!!」
ログレスが光をまとう剣を振り下ろすと、因果喰らいの身体が一部崩壊した。
「やった! 効いてる!」
だがその直後、因果喰らいが一気に霧化して消えた──そして俺の背後に。
「一朗くん危ない!!」
葵の叫びが響いた。
その時、ログレスが俺の前に立ちはだかる。
──バシュッ!
衝撃。
「ログレス……!」
「我が記録は……君の未来に……託す……」
ログレスが光の粒子となって崩れていく。
「ちょっと待って!? ログが消えたら俺の自己肯定感も危ないんだけど!? ログレスーッ!!」




