表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/86

第30話 記録拒否者の村──過去を消して生きる者たち

“未記録の塔”の内部は、これまでのどのダンジョンとも違っていた。


 空間は、まるでひとつの町のようだった。土の道、木造の家屋、ゆったりと煙が上がる小さな村──だが、どこか空虚な気配が漂っていた。


「……まさか塔の中に、村があるなんてね」


 篠崎さんが目を見開いている。無理もない。だってこれ、完全に“外”っぽいのに“中”なんだよな。


「ここは、“記録拒否者の集落”」


 案内役のユグが、静かに告げた。


「かつて転生者として召喚された者たちの中には、“記録されること”そのものを拒否した者がいます」


「え、そんな選択肢あるんか……」


「あるのです。代償として、彼らは世界の記録から消え、“外”からは存在を認識されなくなる。ただし──この塔の内部だけは例外」


 なるほど。つまり“抹消された記録”の保管庫ってわけか。


 と、そこへ──ガラッと扉が開き、誰かが勢いよく家から出てきた。


「おーい! そこのおっさんたち、旅人か!?」


 ──その声に、心臓が跳ねた。


「……うそだろ、お前……」


 そこにいたのは、くたびれたジャージ姿の中年男。髪は乱れ、どこか焦点の合わない目。だが、確かに俺の記憶にある。


「小宮さん……!?」


 派遣時代、俺をいびり倒した“職場リーダー”。現場猫のふりして理不尽な指示ばっか出してきた、あの小宮さんだった。


「なんだ、高野か? おおー、久しぶりだな! ここで暮らして三年になるわ!」


「三年!?」


「まあ転生されて、魔法もスキルも意味わかんねーってパニクってたら、“記録拒否するか?”って案内されてよ。つい流れで拒否しちまったら、いつの間にかこの村にいたんだよなー」


「転生者失格の道、一直線ですね……」


 篠崎さんが、やや引き気味に呟いた。


「それで今は、何して暮らしてるんですか?」


「いやー、特にしてないな。たまに畑耕したり、魚釣ったり。あとここの村、税金もなけりゃ人間関係もゼロでさ、まじ最高!」


「……それ、“社会”からの逃避ってやつでは……?」


「いやいやいや、社会が間違ってんだって!」


 うわ、いたなあこういう人……。派遣の頃、他人の努力は全部“運”で片付けて、自分は“まともにやってる”って言い張るやつ。


 でも。


 この村の中じゃ、その“まとも”が、彼にとっての正解なのかもしれない。


「で、高野、お前はなんでここに?」


「……記録の仕事。ここに“何が記録されなかったのか”を調べに来た」


「へえ~、立派になったなぁ。あの頃からお前、わりとマジメだったもんな」


「(いや、俺、あの頃ただ生き延びるので精一杯だったんですけど)」


 そのとき、村の奥から鐘の音が鳴った。


 ユグがぴくりと反応する。


「“未記録の封印”が……開こうとしています。高野一朗、準備を」


「また強制イベントきたーーーッ!?」


 小宮さんは手を振って言った。


「じゃーな高野! 俺はこのまま、記録されずに平穏に生きてくぜ!」


「……そうかよ。また、会うことは……ないかもな」


「ないなー! でも、なんか……今のほうが、お前と話しやすい気がするわ!」


 それは、妙にリアルなひと言だった。


 記録されない村。

 名前も、過去も、関係も、ぜんぶ消した人間たちの終着点。


 ──俺は、そこに辿り着くつもりはないけど。


「篠崎さん、行こうか。俺たちの旅は、まだ……記録されるべきものが、ある」


「はい。一朗さんの物語は、私が全部覚えてますから」


 そして俺たちは、次なる“未記録の層”へと足を踏み入れた──。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ