第25話 記録されざる者、現る──“世界の管理者”と最初の転生者
選別の塔・第七階層。その扉は、今までとまるで違う重みを感じさせた。
「……ここが、“最深部”?」
篠崎さんがそっと俺の手を握る。
彼女の手は震えていた。
でも、しっかりと温かい。
「一朗さん、もし……もし何かあっても、私は一緒に行きますから」
「ありがとう。でも、たぶん俺の記録スキルがここまで来たのは、君が一緒にいたからだ」
その言葉に篠崎さんはわずかに顔を赤くした。
開いた扉の向こうには──図書館のような空間が広がっていた。
天井まで届く巨大な本棚、空を模した天井、光が揺らぐような静寂。
「ここ……図書館?」
「記録の最果て、あるいは始まりの場所、ですね」
そう呟いたのはクラヴィスだった。
彼はここまで無言でついてきていたが、やや険しい表情を浮かべている。
「この空間は、世界そのものの“記録”が保管された領域──しかし、ひとつだけ“記録されていない存在”がある」
「……それが、“最初の転生者”ってやつか」
そのとき、書架の中央──巨大な円卓の前に、ひとりの男が座っていた。
白銀の髪、異様なまでに整った顔立ち。
目は虚無のように淡く、だが底知れない光を宿している。
「……ようこそ、私の“記録”へ」
男が立ち上がる。名も名乗らぬその男は、静かに言った。
「私は《最初の転生者》。この世界に最初に送り込まれ、そして唯一、“記録”を拒絶した者だ」
「記録を……拒絶?」
「そう。全てを記録し、因果を残す限り、この世界は運命から逃れられない。だから私は、存在そのものを消去した。記録されないことで、永遠に自由でいられると信じて」
俺は言葉を失った。だが篠崎さんが前に出た。
「でも、それは……一朗さんが選んだ道と、真逆です!」
「そうだな。俺は記録することで自由になるって信じてた。コツコツ、地味に、無駄だと思われても積み上げてきた」
男は微笑んだ。
「……なるほど。面白い。ならば、確かめよう。どちらの“選択”が、世界に未来をもたらすのか」
次の瞬間、空間が揺れる。
書架が爆ぜ、魔力が奔流のように巻き起こる──
そして男の背後から現れたのは、異形の魔導書。それは、無数の失敗した転生の記録を吸い上げた“記録喰い”だった。
「来るぞ、一朗さん!」
「記録開始──弱点を見抜く! 読み間違えるな、俺!」
クラヴィスが剣を抜き、篠崎さんが詠唱を始める。
「私たちは、この世界に生きてる! 書かれた物語じゃない、自分で選んできた未来を信じて!」
“記録されざる者”との戦いが、ついに始まる。
それは、記録か自由か。物語か運命か。
選ぶのは、この世界を生きる者たちだ──




