第21話 未来を視る試練──“運命干渉区”にて、俺はあの日の選択と向き合う
扉が開いた瞬間、そこはもはや現実ではなかった。
足元に広がるのは星空のような光の海。
まるで宇宙の真空に浮かぶような無重力の空間だ。
「うわっ……めまいする。ていうか、俺、今日だけで異空間何個目ですか」
俺がふらつきながらぼやくと、隣でしっかりと立つ篠崎さんがくすっと笑った。
「一朗さん、異世界初心者から“異空間マスター”に昇格ですね」
「誰が喜ぶんだその称号……」
そこに、クラヴィスの声が響く。
「ここでは、あなた自身の“未来”が試されます。あるいは、“可能性”の影が襲ってくることもある」
クラヴィスはそう告げると、背後の光の扉へと消えていった。なんなんだあの人。いちいち中二病くさい。
「さて……来るぞ」
空間の中心に一際強い光が収束する。そこから──
「……あれ?」
出てきたのは、俺自身だった。
「ど、どうも……俺?」
現れたのは、もう一人の高野一朗。
だがその姿はまるで貴族のような装いで、魔導書と剣を両手に携え、背後には十人以上の仲間らしき人物たち。
「俺が未来でこうなるってこと……? ってか、めっちゃイケメン補正入ってない?」
篠崎さんがうっとりとした目でその未来の俺を見上げた。
「……いいですね、あれは。超理想の“将来性”を感じます」
「いや、ここに“現在の俺”いるからね!? 未来に浮気しないで!」
しかしその未来の俺が、口を開いた。
「君はここで引き返す。仲間を持たず、孤独を選ぶ。それが君の弱さだ」
「おお、嫌な感じで説教始まったぞ俺から俺へ!」
そして未来の俺が、魔導書を開く。
「ならば証明しよう──《予言:崩壊する未来》!」
空間が割れる。そこから現れたのは、かつて俺が見捨てた同僚たち……いや、その“可能性”の残骸だ。
「まさか……これ、全部“俺が助けなかった世界線”の結果か?」
彼らは半魔物化していた。“失敗した転生者”──現実と希望の狭間で崩れた魂たち。
「来るよ、一朗さん! また“選ばなかった責任”を問われる戦いだよ!」
「また俺のブラック企業メンタルが試されるやつー!」
俺は木剣を構え、篠崎さんはホーリースタッフを掲げた。
「《記録》、開始!」
俺は未来の俺の詠唱パターン、召喚の動き、すべてを読み取っていく。分かった。あいつ、攻撃の前に必ず一拍置く“間”がある。
「篠崎さん、詠唱は0.8秒! そのタイミングでホーリーレイン!」
「了解、合わせるね!」
「来い、俺の過去! その悔い、ぜんぶ塗り替えてやる!」
俺は地面を蹴り、未来の俺に向かって突っ込む。奴は浮遊しながら詠唱を続けるが──
「今だ!」
篠崎さんの《ホーリーレイン》が光の雨となって降り注ぐ! 邪念の具現化が消滅し、空間が安定していく。
未来の俺はふっと目を伏せて微笑んだ。
「……いい仲間を得たな、俺」
「……おかげさまでな。お前がぼっちだった世界線より、今の俺のほうがずっといい」
未来の俺は静かに手を振ると、星の海に還っていった。
空間が崩壊し始め、再びクラヴィスの声が響く。
「次の階層へ進め。だが……“運命の選択”は、これからだ」
足元が光に包まれ、視界が白に染まっていく中──
「一朗さん、私、ちゃんとついて行きますからね」
「うん。ありがとう……篠崎さん。いや──ありがとう、篠崎」
彼女は少し顔を赤くしながら、小さくうなずいた。




