動き出す時
夜が明けると、町の空気はひんやりと冷たく、いくぶん重苦しい雰囲気が漂っていた。昨日の出来事が引き起こした波紋を感じ取るように、町の人々の動きもどこかぎこちない。竹中の名がちらついたことにより、俺はますます彼の背後に潜む勢力に警戒を強めていた。
「慎之助。」俺はゆっくりと慎之助に振り向いた。「昨日のこと、あれはただの脅しではないと思う。」
慎之助は不安そうな表情を見せながら、頷いた。「竹中の影響力が広がりつつあることは、我々も感じています。しかし、リーダーの言葉には何か違和感がありました。あれは、警告とも取れる。」
「そうだ。」俺は一歩前に進みながら言った。「奴らは俺たちが竹中と繋がりがあることを知っている。それにしては、余計な手間をかけずに去っていった。それが警告だとしても、ただの小競り合いでは済まされない。竹中の動きが本格的になる前に、俺たちも何らかの行動を起こさなければならない。」
慎之助はしばらく黙っていたが、やがて決意を固めたように言った。「それでは、どのような手を打つつもりですか?」
「信長との接触を深め、竹中の動きを探る。」俺は答えた。「信長は今、四国の情勢を見守っている。それに、信長との協力関係を築けば、竹中との衝突を避けるための手段も見えてくるだろう。」
慎之助は頷き、俺の計画を受け入れた様子だった。だが、これから先に待ち受けるのは確実に難しい選択の連続だと、俺も自覚している。
その日、俺は再び町を歩きながら、信長との接触をどのように進めるかを考えていた。竹中との関係が深まることで、俺の立場はますます危うくなるだろう。それでも、俺には確実に手に入れた力がある。竹中がどれほどの勢力を持っていようとも、俺にはそれを超える力を持っていると信じていた。
「さて、どう動くか。」俺は心の中で呟いた。
その時、慎之助が突然声をかけてきた。「リーダー、今、信長の使者が来ているとのことです。町の外れで、彼らと接触するようにとのことです。」
「使者か。」俺は息を呑んだ。信長が俺を呼び寄せたということは、何かしらの意味があるはずだ。それが何かは分からないが、今こそ信長との関係を築く好機だと感じた。
「すぐに行こう。」俺は言い、慎之助と共に町を出て、使者の元へと向かう。
町の外れに辿り着くと、信長の使者がすでに待っていた。彼は身を引き締めた態度で、俺たちが到着するのを待っていた。その姿勢から、使者としての威厳が感じられた。
「彩斗殿、お待ちしておりました。」使者は頭を下げながら言った。「信長公からの命でございます。」
「信長公から?」俺は眉をひそめた。「何か重要な用件か?」
使者は静かに頷き、手に持った巻物を差し出した。その巻物には、信長からの直筆の命令が記されているに違いない。俺はそれを受け取り、中身を確認する。
巻物を開くと、そこには簡潔にこう書かれていた。
『彩斗殿、今後、我が軍に参加することを検討している。だが、あなたが何を求めているのかを知りたく思う。あなたの意思に従い、共に動くか、別の道を選ぶか、それはあなたの判断に委ねる。』
信長は、俺に何かを求めている。だが、同時にその選択を俺に任せているということだ。これは、俺にとって大きなチャンスでもあり、試練でもあった。
「信長公は、俺がどのような道を選ぶか見極めている。」慎之助が静かに言った。
「その通りだ。」俺は答えた。「信長は、ただの力を求めているわけではない。俺がどれほど信念を持ち、どれだけの覚悟を持っているかを試している。」
使者は少し待った後、言った。「信長公はお待ちです。すぐにお越しいただければと思います。」
俺は深呼吸をし、その後、慎之助に目を向けた。「行こう。」
二人は使者に従い、信長の元へと向かうことにした。信長との接触が、新たな局面を迎える瞬間だと、俺は感じていた。今後の戦国の風景をどう切り拓いていくのか、それを決める時が近づいていた。
信長との対面が、どれほどの意味を持つのか。それを手にすることで、俺はついに真の力を手に入れることができるのだろうか。




