【面会の少女】結
到着した施設は、ロップ国郊外の(<葬り町>のような廃れた郊外ではなく、自然が丁度いいくらいにある郊外だ。)閑静な地域だった。建物は温かみがありつつ小綺麗で、駐車場には高級車ばかり。ロビーで出迎えてくれた2人組みも、丁寧にお辞儀して出迎える様はホテルマンさながらと言ったところか。
『フラ・アンブロシオ』は、あの闇医者の治療は高くつくと嘆いていたが、なるほど、こんな施設の入居費を払うなら、確かに荒稼ぎも必要だろう。しかも父親の話が8年前であることと、この女性の年齢を考えると、多分20歳未満で稼ぐ必要に迫られたのだろう。そう考えれば、大金を吹っ掛けるのも納得と言えば納得だった。
「ああ!シェンさん!来て下さったんですね。今丁度、ファレティさんがお茶をしてるんです。」
「お二人の分もすぐ淹れますので、ゆっくりしていってくださいね。」
ロビーで案内係を務めているのだろう2人組みは、嬉しそうに彼女へ微笑みかけた。ただの金の関係、でもなさそうだ。ここでは割と人望があるのかもしれない。
「ありがとうございます。母は部屋に?」
「えぇ。今はテェルマがあそこの担当ですので、何かあれば彼女にどうぞ。」
もう一度礼を言って彼女はその場を去った。いつもよりにこやかだし、確かにスーツも格好良い大人の風格に見える。アイドルへ向けるよいな熱い視線の2人を眺めつつ、人気はこのためかと得心した。
「シェンさんって言うんですね。」
「偽名だ。外で言ったら殺す。」
治癒の<使者>が、解体の<使者>を殺す?どのように殺す気なのか、煽りとかではなく普通に気になった。
「ファレティさんって?」
「私の母の名前だ。外で言ったら」
「殺す?」
「よりも痛い目を見せてやる。」
その方が寧ろ現実的に思えた。治癒の魔術を使えば、死ぬ直前のギリギリを漂わせ続けられる。
「テェルマさんは?」
「ここのスタッフ。呼びたいなら好きなだけ呼べ。」
「いやよく知らないのに名前呼びまくったら、ただのキモい人ですよ。賞状伝達式の校長先生しか許されないでしょ、それ。」
「例え分かりづらい_いや、そっか、お前学生なんだった…。」
感心してさえいるような声色。俺って老けてるのかな…。エレベーターに2人で乗り込みつつ、静かに傷付いた。
「あっ、シェンさん。おはようございます。朝のお茶の時間に合わせてくださったんですね。有り難いです〜。他の方々、なかなか気にせず来るので、ご飯とかお散歩の時間ずれたりして大変なんですよー。バタバタするのこっちなのに。」
到着した階で、スタッフの1人らしき女性が駆け寄ってきた。
「いつもありがとうございます、ティルマさん。」
少女漫画に何故か毎度いる学校イチ有名ななんでも出来ちゃう王子様キャラの微笑をふわっと浮かべる医師。そんな顔出来るんだこの人…。ティルマさんもハートを鷲掴みにされたようで楽しそうだ。(にしても時間を調整するとかの気遣いも、スタッフ好感度の理由だったのか…。いつもは傍若無人なのに…。)
「では、また。」
「あっ引き留めてごめんなさい。また後で〜。」
少し世間話した後、俺達はティルマさんと別れて廊下を進んだ。確かにマンション感が無くも無いな。
彼女はひとつのドアの前で立ち止まった。一度だけ手早く深呼吸して、ノッカーを握った。
「…あら、お客さん?」
予想以上に軽い足音の後、ドアが開く。現れた女性は、60歳手前くらいの、上品な婦人だった。柔らかな髪は灰色になっているが、丁寧に編まれていて愛らしい。ワンピースは転びにくさや着替えやすさが重視されているのが分かるが、柄やフリルで華やかな印象をもたせる。そして清らかな黄緑の瞳。
まるで、少女のような。
「…あなたは…どちらさま?」
「ちょっと迷ってしまいまして、少しの間でいいので、ここで休ませてもらえませんか、お嬢さん。」
少女は目を丸くしてから笑顔を見せた。
「どうぞ!お兄さん!」




