【母娘】シェルファ
外では日が暮れ始めていた。長く話し過ぎたようだ。空では太陽と月が輝かしい領土戦争に奮闘していて、どうしても1発あれらを殴れないものか、と思った。
痛い目を見るのは、私なのだろうが。
箱から煙草を1本抜く。そろそろ買いに行かなければ。
「センセイ!だあ〜から何回言えば分かるの!煙草ダメ!リモンドもいるし、結くんだって若いんだし、ほらっそこに女の子居るじゃない!」
火の付いていない煙草を咥え、げんなりと年下のおもちゃ屋を振り返る。
「だから?」
「子供と禁煙者に副流煙なんてもの吸わせる気が知れない!!人としてなってない!最っ低!」
だんだんと地団駄の振動が伝わる。こいつは一体煙草に何の恨みがあるんだ…いや、この姉妹が成人するまで、彼女達の前では絶対に煙草を吸わなかった私の影響かもしれないが。とは言え、彼女の言い通り、直ぐ側に7、8歳の女の子と母親らしい女性がいて、火を付ける気は失せた。偉いわね〜と飛鳥が褒めてきたのは、やはり謎だったが。こいつは妙に私の父の言動に似ていて、他の奴が相手のときより従ってしまうことが多い。
「結?」
ラオメの声に後ろを見ると、私の後で外に出てきたらしいラオメと光羅謝が居た。その更に後方で立ち尽くす、結の姿。何処かを凝視していた。
「_あ、…っあ!はい!ゴメンナサイ、ぼうっとしてました…。」
照れ笑いの奥に、緊張が隠されていた。ラオメが気付かない筈ないが、そっとしておくことに決めたようだ。
私はさっきの彼の視線の先を追いかける。着いたのは、すぐそこで喋りながら歩いている、母娘だった。さっきの、7、8歳の女の子だ。可愛らしいワンピースで、アイスの店の箱を楽しそうに掲げている。母親の方も嬉しそうに微笑んでいて、何かのお祝いだろうと察せられた。
「どしたァ?」
光羅謝が小声で尋ねるのが、うっすらと聞こえる。予想以上にすんなり、彼は答えた。
「女の子だーと思ったんで。」
「どうゆうこと?ロリコン?」
「違いますって。普通に、…いいなーって。」
若干の間の後、他人の全てを理解することは不可能だと熟知しているその男は、あっそォ、だけで会話を終わらせた。一瞬盗み見たが、結はまた母娘を見ていた。
「結。」
私の呼び掛けに、結はゆっくりと振り返る。
「ん…え?何ですか?」
「明後日だけど。」
本当は、部屋に連れてきて、それとなく質問を続ければ何かボロを出すのでは、と思っていた。だが、今のを見ていると、どうにも_
「集合場所、私の家の前にする。車で移動するから、そのつもりで。運転は私がやる。」
「え?分かりました…。」
不完全燃焼気味の結を放って、私は家に帰った。遮光カーテンを閉め切った部屋は、夕日も月光も知らないらしかった。




