【逃がし屋】光羅謝
我らがロップ国は山に囲まれていて、国を渡るには国道を通る他ない。山登りよりはそっちの方が安全なのだ。今回もそうすることにして、つまり俺達の主なミッションは治所対策だった。
仕事はあっけなかった。いつも前髪に付けているヘアピンで治安破壊人物対応所・国境担当の倉庫の鍵を開け、治所の制服を3枚盗り、何食わぬ顔で治所だらけの国境の詰所前を通った。メッシュを帽子に押し込んだ俺と、ツインテールを団子にしたラオメに挟まれて、夕は縮こまっていた。制服に着替えた直後に「ラオメさんそれ…。」とラオメの首を指差したのに、俺達が毒づいたからなのか、治所に囲まれているからかは分からなかった。
喉を見られて不機嫌になったラオメだったが、国境を越えた後に家族に会う夕を待つ間に買ったスカーフを、「綺麗。似合ってます。」と戻って来た彼に言われ、たちまち元気になった。こういうところがラオメの美点だ。
帰路も行きと同じ方法で通った。夕は少なくとも5年は実家に行かない気がする。そんな、ドライさとも言える雰囲気を彼は内包して見えた。
「お2人共、ありがとうございました。噂通りの腕の逃がし屋さんでした。」
彼は笑って頭を下げた。
<逃がし屋>。
依頼人の1人がそう名付けて噂をしたらしく、いつしか俺達はそう呼ばれている。
治所から見つからないように不法入国させたり、狩り隊の対応を代わったり、警備されてる施設に入れるよう案内したり、そんな仕事。
「<魔女の使者>で良けりゃァ、また呼んで下さいね。」
仕事が終わってから、依頼主へ<魔女の使者>であることを告白すること。それが俺達のポリシーだった。罵倒されることも、殺されかけることもざらにある。だが、止める気はさらさら無かった。
「…はい。」
そういった客の中で夕は珍しく、緊張しつつもしっかりした仕草で頷いた。ラオメと顔を見合わせ、間があってから2人して吹き出す。
無性別の可愛い相方の隣で、各々の事情を抱えた無法者達を客に、俺は今日も元気に仕事をしている。
あのバレエの舞台の、クライマックスみたいな世界を夢見て。




