【入国した悪魔】飛鳥
「りーくん、飛鳥さん。訊いてきたよ。」
とことこと蓮が駆け寄ってくる。あたし同様の低身長はこの国に馴染んでいたが、ここの住民にしては、目が力強い。
コッツティ王国の首都は、ひどかった。
人通りが少なく、稀に歩く人を見つけても、隠れるように縮こまって早歩き。王宮の場所は別に分かるが、現状の把握のためにはコッツティの住民と話しておきたい。そこで蓮が出動した訳だ。実際、彼はものの3分で粗方のことを聞き終えたらしい。
「それで、首都の人がこんなに怯えている原因は分かりました?前に来たときはもっと賑わっていたのに…。」
「分かったよ。それによれば状況は非常に芳しくない。どうも、前王が亡くなっていたという情報がコッツティ国民に流れたらしい。」
「蓮の記事から話が広まったんでしょうか。でも、人の出入りどころか輸出入も絶っているコッツティ王国に、どうやって情報が入ったのでしょう?」
「と言うか、それのどこが"非常に芳しくない"ってなるの?」
訝しく思ったあたしが問うと、蓮は厳しい顔つきで首を振る。マリーゴールドの瞳には、珍しいくらいに暗い光が滲んでいた。
「1週間前、革命が起きかけたんだって。前王を殺した狩り隊と目を逸らした新王を、国民は許さない、と…。それで武装した国民の一部が王宮に攻め入る計画が成されたらしい。狩り隊がそれを嗅ぎつけて…関係者を全員捕らえたんだ。沢山の人が、今も消息不明…。」
下唇を噛んだ。自分の記事が招いた予想外の絶望に、打ちひしがれているようだった。リモンドがその肩に手を置く。
「東部連合が10日前に動き出しています。狩り隊代表の反対で、時間はかかっていますが、じきに、調査団がこの国に来てくれるでしょう。それは、あの記事無しには、なり得なかった。大丈夫、貴方は貴方に出来ることを精一杯していますよ。」
蓮はそっと顔を上げる。陰の落ちた頼りない目つきだったが、歯を食いしばり瞼を下ろす。数秒の後に開いたときには、苛烈なマリーゴールドの輝きを帯びていた。
「最近、王宮の端っこの建物が騒がしいらしいよ。もしかすると捕らえられた人達はそこかもしれない。」
「なら決まりね。狩り隊を引っ叩いて、捕まっている人達を返しもらうわよ。」
にっと勝ち気に笑いかける。リモンドも底意地の悪そうに歯を見せて笑んだ。蓮はやっと、息を吐くように微笑した。
「必ず。」




