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10 帰還

 俺たちはフランジュラスを弔った後、魔王軍残党のアジトに戻ってきた。


「これは──」


 俺は眉根を寄せた。


 そこは、廃墟と化していた。

 入り口である洞窟は半ば崩れ落ち、内部へ進むとあちこちに破壊の跡がある。


 その最深部にあるホール状の部屋も亀裂だらけだった。

 人や魔族の気配はない。


 もはや、ここには誰も残っていないだろう。

 逃げた者も一部いるかもしれないが、ほとんどは殺されたはずだ。


 このホールに来るまであちこちに魔族の死体が転がっていたし、この部屋にも──。


「ひどい……」


 ユリンがつぶやいた。


 たとえ相手が魔族でも、これだけの殺戮の跡を見せられるのは、やはりショックが大きいようだ。

 隣のシアも青ざめた顔だ。


「せっかく遺跡から戻ったが、魔王の残留思念と再会するのは難しいかもしれないな」


 奴がいる場所に至る道が破壊されている。

 もしかしたら、奴の思念自体も聖剣や高位の僧侶スキルなどで浄化されてしまっているかもしれない。


 人類の敵とはいえ、【闇】についての貴重な情報源だっただけに、これは痛い。


「──いえ、待ってください。クロム様」


 ユリンが一歩前に出た。


「どうした、ユリン?」

「何かを、感じます」


 メイド服姿の体から淡い燐光が立ちのぼる。

 魔人のオーラだ。


「──見えます。魔王の思念が。勇者の聖剣や浄化スキルを受けたようですが、かろうじて残っています」


 やはりユーノたちはここを破壊し、魔王の残留思念に気づいたんだろう。

 そして、当然のように消し去ろうとした。


 が、どうにか完全消滅だけは免れていたわけか。

 さすがは魔王ヴィルガロドムスだ。


「場所は分かるか?」

「はい」

「じゃあ、案内を頼む」


 というわけで、俺はシア、ユリンとともに魔王の思念の下へと向かった──。




「戻ったぞ、魔王」


 地下最深部にたどり着くと、俺は声をかけた。


『……ふむ、魔族たちの大半は討たれたようだが、汝は無事であったか』


 前方から黒いモヤのようなものが出現する。

 それらは凝縮し、髑髏のような形を作り出した。


 禍々しい気配を放つそいつは──魔王の残留思念だ。

 ユリンが感知したとおり、やはり魔王は完全消滅を免れていたらしい。


『あるいは、勇者たちに狩られたのではないかと心配したぞ』

「俺はそもそも魔族じゃない。奴らから攻撃されるいわれはない」


 俺は軽く憮然とした。


『そうか? 似たようなものだろう』


 魔王が告げる。


「聞き捨てならないな」


 さすがに魔族呼ばわりされるのは心外だ。


『汝は高位魔族と比べてさえ、はるかに【闇】に近づいている。いや、すでに魔王である我よりも──』


 と、ヴィルガロドムス。


『では、さっそく聞こう。クロム・ウォーカーよ。黒の祭壇を起動させる鍵は手に入ったのか?』


 そう、俺はそのために遺跡へと赴いた。

 そして、古代のモニュメントの試練を受け、そこで【闇】を深めた結果──ふたたび『黒の位相』に赴き、鍵を得た。


 多少、回りくどい道のりではあったが、当初の目的は果たしたわけだ。


 黒の祭壇。

【闇】の力をさらに引き出すという、先史文明の英知。


 その最終起動をするときが、いよいよ来た──。

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