91話 無効化
ここに来てエルセ、無効化。
「マ、マズいですよね……これは……」
周りにはマッドゴーレムとからくり兵士。
部屋の向こう側からは、ジョーカーが空気砲でこちらを狙っている。
グレイスやニコに助けを求めようにも、マッドゴーレムたちが立ち塞がっているので無理だ。
「す、すみません。わたしがちゃんとしておけば……」
ちゃんと、「倒しておけば」か?
相変わらずのアホの娘め。
「俺たちは、お前が連れてきてしまった転移者と話し合いをしなきゃなんないんだよ。倒しちまったら意味ないだろう?」
倒す……なんて言葉ではなく、完全に抵抗出来なくなる状態をもっと的確に表すならば、それは『殺す』ということになるのかもしれない。
マイナス分を排除してゼロに……なんて、エルセの取るべき行動ではない。
多少面倒くさくても、きちんと話し合って分かってもらって、それできちんと謝罪する。
こいつには、そういう解決をしてもらいたい。
ようやく、最近になって少しずつ罪悪感みたいなものを覚えてきたようだしな。
こいつのそんな成長を、止めたくはない。
「むしろ、一度ブチ切れさせて、思う存分暴れさせてやった方がいいかもしれないぞ。暴れた後は頭も体も力が抜けるからな」
殴り合いの決闘の後友情が芽生えやすいのもそのせいかもしれない。
「だから、気にするな」
「はい! 気にしません!」
……うん。
そう即答されると、なんだろう……ちょっと、モヤっとするな。
「コーしゃま!」
ニコの声がして、次いで俺のすぐそばで爆発が起こった。
どうやら、俺たちを狙っていたからくり兵士をニコが魔法で撃退してくれたようだ。
ニコは同時に二つの魔法を使えない……ということは。
見ると、グレイスがニコたちと合流していた。
スティナは今、グレイスに守られている。
俺たちを助けるために、遠距離攻撃出来るニコを攻撃にシフトさせたのだろう。
「コーしゃま、援護するから一度ワシらと合流するのじゃ!」
公民館の会議室程度しか広さのない部屋が、今は途方もなく広く感じてしまう。
マッドゴーレムたちという障害物は、それほど精神的プレッシャーが大きいのだ。
……だが。
「させねぇよ! ギルドはもちろんぶっ潰すが、女神様と転移者! テメェらはギルドに与した悪党として俺の手で引導を渡してやるぜ!」
ギルドに与することがなぜ悪党になるのか……悪党というなら、盗賊団のボスに収まっているお前だろうに……
「コーシさん」
コスプレが解除されたエルセは、不安げな声で俺の背に身を寄せる。
「……インドを渡すって…………カレー、でしょうか?」
「うん、ちょっと黙ってろ」
この状況でカレーをご馳走してくれたら、アイツいいヤツじゃん。
で、『インド=カレー』っていう短絡的な発想、インド人に謝ってくれ。もっといろいろあるから、インド。
俺たちをニコたちの元へ合流させないように、マッドゴーレムとからくり兵士が壁のように密集し始める。
「ど、どど、どうしましょう? こうなってしまっては、わたし、なんのお役にも立てる気が……あ、らぐなろフォンで!」
「いや。ニコの魔法でも一掃出来ないレベルの敵だ。らぐなろフォンのバッテリー切れの方が早いだろう」
おまけに、ジョーカーはキテレツのコスプレをしている間は、無限にマッドゴーレムとからくり兵士を召喚出来るらしい。
グレイスやニコが何体も倒したというのに一向に数が減っていない。むしろ増えてやがる。
……キテレツ、そんな話じゃないんだけどな。
「バンジー九州……ですね」
「なにそれ、九州の新名所? それともゼンジー北京のバッタもん?」
万事休すと言いたかったのだろうが……
「反撃の手はある」
俺たちは、まだまだ終わっちゃいねぇよ。
「さっき、お前のケリでジョーカーが床に倒れた時、マッドゴーレムたちの動きが一瞬止まったんだ」
「えっ!? わたし、マッドゴーレムたちにドン引きされたんですか?」
「違う! ジョーカーの意識が途切れるか、集中が途切れると、あいつらは動きを止めるんだ」
それならば、一つだけ手がないではない。
上手くいくかは分からんが……
「お前がジョーカーの意識を一瞬途切れさせ、その隙に俺がヤツのサンバイザーを奪取する」
ジョーカーが手強いコスプレーヤーなのならば、そのコスプレを無効化してやればいいのだ。
「で、でも……わたし、もうコスプレ出来てませんし、なんの力も……それに、さすがにらぐなろフォンを人に向けるのは…………」
これ以上ジョーカーを傷付けたくないというエルセの思いを、俺は尊重したいと思う。
だから、肉体に傷を付けるようなことはさせない。
エルセにはもう、あんな悲しそうな顔はさせない。
「エルセ、お前はまだコスプレを出来る」
「でも、風のブラジャーが……」
胸の大きさでコスプレをしていたエルセ。
だがここで、かつてグレイスが言ったことが活かされる。
「エルセ、今お前が着ている服ははなんだ?」
「え? これは、市場で買った『お前の物は俺の物』的なTシャツで…………あっ!?」
俺の言いたいことは伝わったらしい。
視線を交わし、俺は首肯する。
少し戸惑った後、エルセが頷きを返してくる。
それを確認して、俺は貝殻の付いた首飾りを手に取る。
こいつは市場でスティナが買ったアイテムだ。この首輪の貝殻に向かってしゃべれば、スティナの貝殻のイヤリングへと俺の言葉を送ってくれる。一方通行のトランシーバー。
「スティナ。よく聞いてくれ」
間違っても、ジョーカーには聞かれないように声を落として、俺はスティナに伝えた。
「三人とも、耳をしっかり塞いでおけ」と――
「さぁ! 観念してくたばっちまえぇっ!」
ジョーカーが吠え、俺たちに空気砲を向ける。
そのタイミングで、俺はエルセの背中を押した。
「ぼへぇーーーーーーーーーーーー!」
エルセの喉から、この世のものとは思えない『歌声』が発せられる。
そう。エルセが着ているのはオレンジ地に白い太めのラインが一本入ったシンプルなデザインの半袖シャツ……ジャイアンのTシャツだった。
そして、グレイスが言っていたとおり…………
エルセは風のブラジャーを使用しなければ、『男のコスプレ』が出来るのだ。
理由は、まぁ……言わないでおく。




