8話 手にした報酬で魔法屋へ
「うっほぉぉ! 見てくださいよ、コーシさん!」
アホ丸出しな声を上げたのは、アホ丸出しが板についてきたエルセだ。
『アホ大丸出し』ってスーパーとかに置いてある感じの幟でも背負っていればいい。
「見てくださいよ、これ! 6万Mbも入ってるんですよ!?」
エルセが和解したしびれスライムたちが大量にくれたしびれ液はかなりの高品質だったようで、驚くような値が付いた。12万Mb。二人で分けて6万Mbずつだ。
この世界の通貨は『Mb( マルバ )』といい、1円=1Mbくらいの価値なのだそうだ。
なんとも分かりやすくて助かる。
そして、そんなエルセがにこにこ顔で眺めているのは冒険者カードだ。
冒険者は、クエストなどで得た報酬を口座に振り込んでもらう。そして、その口座に入っているお金は、この冒険者カードで使用することが出来るのだ。
ギルドの受付にあったような魔法的タブレットPCにかざすと自動で清算されるらしい。
……電子マネーだな。まるっきり。
冒険者は家を持たず、野宿も多い。
確かに、金貨や銀貨をジャラジャラ持ち歩くのは危険だし、邪魔だ。
魔法を最大限活用した、いいシステムってわけだ。
決してハイテクなのではない。魔法なのだ。
「まずは宿を確保しておくか」
異世界でいきなり野宿なんてのは勘弁してほしい。何はなくとも宿だ。
8千Mbくらいで素泊まり出来ないかな。物価も日本と近そうだし。
「その前に、魔法を買いに行きましょうよ!」
この世界の魔法は、魔法屋に買いに行くものらしい。
そこで魔導書を購入することで、魔法を習得出来るのだとか。……ゲームだなぁ、マジで。
「とにかく。コーシさんは今、玉子丼なんですから、早く親子丼になってください」
「お前、まだその喩え推すの?」
誰が玉子丼だ。
つか、玉子丼、いいじゃねぇかよ。
「とにかく、先に魔法です。大丈夫ですよ。無駄遣いさえしなければちゃんと宿にも泊まれますって」
からからと笑うエルセを見て、「野宿フラグか?」と、嫌な予感が脳裏をよぎる。
いやいや。大丈夫だ。俺がしっかりしていれば、滅多なことは起こるまい。
ギルドのある大通りから二本ほど入った細い路地に、魔法屋は雰囲気満載の面持ちで佇んでいた。
……ホラーハウスかよ。
これで、ドアを開けてババアが「イーッヒッヒ……」とかって笑っていたら、俺はエルセを犠牲にして一人で逃げるぞ。
そんなことを思いながら朽ちかけたドアを手前に引く。
ドアがきしんで、耳に障る甲高い音が鳴る。
「イーッヒッヒ……よく来たね、魔法屋へ」
怪しいババアが現れた!
どうする!?
「コーシさんを犠牲にして一人で逃げます!」
突然、俺はババア目掛けて突き飛ばされた。
ぐわぁ!? やろうと思っていたことを先にやられてしまった!?
不意を突かれた俺は為す術もなく、ババアを巻き込んで床へと転倒した。
「イタタタ……あのヤロウ、覚えとけよ……」
体を起こすと、手のひらにザラついた古い木の皮のようなものが触れている。
「…………イ、イヒ……」
奇妙な声に視線を下に向けると……
「……だ、大胆、なのじゃ…………ぽっ」
俺はババアを押し倒して、あまつさえ、右手はババアの胸を鷲掴みにしていた。
……木の皮だと思ったのは、ババアの乳(服の上からでもはっきりとシワの感覚がする)だったようだ…………
「誰得だ、このアンラッキースケベッ!?」
異世界に来て、こういう展開なら、相手はもれなく巨乳美少女だろうが!
なんでこんな倒木みたいなババアなんだよ!?
えぇい、頬を染めるなおぞましい!
「コーシさんって……雑食?」
「お前のせいだからな、この悲惨な状況!?」
なに、店の入り口で「うわぁ……」みたいな顔してくれてんだ!?
「こほん……少々取り乱してしまったが……」
魔法屋のババアが起き上がり、赤い顔で襟元を直す。
……あぁ、手を消毒したい。
「ようこそじゃ。ここは魔法屋。魔導書を扱かっとる店じゃ」
濃紺のローブを頭からすっぽりと被った背の低い老婆が、背丈よりも長い杖を持ってカウンターの前へ立つ。
ザ・魔法使いという出で立ちだ。年輪みたいなシワが尚更雰囲気を醸し出している。
「どのような魔法が入り用じゃ? 攻撃魔法か? 回復魔法か? それとも……ワ・シ・か?」
「攻撃魔法をくれ。目の前のババアを一瞬で消し墨に出来るような強力なヤツを」
鳥肌立ったわ!
お前を燃やして、それで暖をとる!
「コーシさん……順調に進展してますね……」
だからよぉ、入り口で「うわぁ~、やべぇ~……」みたいな顔してないでさっさと入ってこいよ、お前も!
「コーシさん! わたし、是非コーシさんにお勧めしたい魔法があります!」
店内へ入るなり、埃を被っている魔導書の前を突っ切って、エルセがカウンター前まで一直線にやって来る。
お勧めの魔法?
なんだ? ちょっと興味あるな。
「電撃系の魔法は必須です!」
電撃……って言うと、『サンダー!』とかってイメージか?
必殺技はサンダー……ふむ、ちょっとカッコいいな。
「ちなみに、お勧めの理由は?」
妙に自信たっぷりな表情を浮かべるエルセにその理由を尋ねると、一片の曇りもない真冬の青空のような澄みきった声でこんな答えを返してきた。
「スマホが充電出来ますっ!」
とりあえず、アイアンクローをお見舞いしておいた。『強』で。




