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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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85話 アジトに潜入

「中にもトイレあるじゃないですか!」


『闇の組織』のアジトに潜入した俺たちだったが、入り口脇にトイレがあることを確認したエルセが非常にご立腹だ。

 別にいいじゃねぇかよ、外トイレがあったって。お前は外トイレに何か恨みでもあるのかよ。


「みんな、気を付けるのじゃ。この先にトラップがあるのじゃ」


 見取り図を見ながらニコが注意を促す。

 確か、この先には『槍衾やりぶすま』と書かれていたはずだ。


「『やりぶすま』ってなんですかね? 『すあま』なら知ってるんですけど」

「似ても似つかねぇもんだよ、すあまとは」


 槍衾というのは、戦国時代に足軽が密集して柄の長い槍を前方に突き出す、というものだ。

 無数の槍が敵を狙い、騎馬兵や歩兵の進軍を阻止していたりした。


 で、そんなもんが室内に用意されているわけもないので、おそらくだが、壁から無数の槍が突き出してくるトラップだろう。もしかしたら天井や床からかもしれないが……


「十分気を付けろよ。どこから来るか分かんないからな」


 慎重に歩を進める。……と。



 ガコン――



 嫌な音が背後から聞こえてきた。

 振り返ると、エルセが壁に手を突いていて……その手が壁にめり込んでいた。

 壁の木の一部が、少しの力でへこむようになっていたらしい。

 それをまんまと触って…………押しやがった。


「あの……これってもしかして…………」


 もしかしなくても、トラップ起動のスイッチだろう。


「皆の者、伏せるのだ!」


 グレイスの声に、俺たちは一斉に廊下へと伏せる。……と。



 ガコン、ガコン、ガコン――



 俺、ニコ、スティナが膝をついた床板が、嫌な音と共に、なんの抵抗もなく沈み込んだ。

 ここにもスイッチが!?


 槍が突き出してくる………………と、身を固くしていたのだが……


「……何も、起きないな?」


 待てど暮らせど、トラップは発動しない。

 ……不発?


「何か詰まってるんでしょうかね?」


 いかにも、何か飛び出してきそうな壁をこんこんと叩きながらエルセが言う。

 おい、やめろ。その衝撃で作動したらどうする!


「やはり、不発のようじゃのぅ」

「うむ、そう見て間違いないだろうな」


 床のスイッチをカコカコと何度も押しながら、グレイスが言う。

 そんなことってあるのか?


「まぁ、所詮は盗賊だ。建物のメンテナンスを怠っていたのだろう」


 確かに、マメに掃除するような生真面目な性格なら、盗賊になんかならないのかもしれないが……

 なまじ、この世界の造りがゲームみたいなもんだから、こういうトラップは正確無比に発動するものだと思い込んでしまっていたな。

 だってほら、魔王の城のトラップがメンテ不足で作動しないとか、あり得ないからな。


「けれど、気を抜くのは危険なのじゃ。この先に落とし穴があるのじゃ」

「あぁ、エルセが用を足したというアレね」

「足してないですよ、まだ!?」

「この先足す予定でもあんのか!?」

「……コーシ。レディにそんな話題を振るのは感心しないわ」

「だから、お前発信だっつってんだろ、この歩くトラップ娘!?」


 ダメだ。スティナと絡むと俺が損をする。

 前だけを向いて進もう。


「しかし、見取り図があってよかったな」


 廊下を進みながら、俺はつくづく思う。

 この先に落とし穴がある。

 見取り図を見ると、あと三歩も歩けば穴に落ちてしまう。


 しかし、どこにも継ぎ目のような怪しい物は見受けられない。

 あらかじめ知っていなければ、ここに落とし穴があるなんて思いもしなかっただろう。


 冒険者ギルドの密偵の努力に喝采を贈りたい気分だ。


「しかし、どこから開くか分からないと、通る時に怖いな」


 グレイスの言葉に、俺たちの足が止まる。

 確かに、こうも綺麗にしまっていては、どこまでセーフで、どこからアウトなのかがまったく分からない。

 もし、ここを無事通過したとして、帰りにここを通った時にうっかりハマってしまう危険もあり得る…………か。


「落ちないように気を付けて、フタだけ開けておくか」

「そうじゃのぅ。ワシも、コーしゃまの意見に賛成じゃ」

「それじゃあ、『エルセを突き飛ばす』ということで問題ないかしら?」

「ありますよ!? その方法、わたしが犠牲になりますから!」


 当然、エルセを突き飛ばすのはなしにして、グレイスが剣の先で廊下を叩く。



 …………無反応。



 少し強めにどんどんと叩く。…………が、無反応。

 思い切って、足を乗せてみる……無反応。

 踏む……無反応。

 完全に乗ってみる……無反応。

 ジャンプ! ……無反応。

 力任せに踏みつける……無反応!

 エルセとスティナを引き寄せ三人で乗る……無反応。

 さらにニコとグレイスを追加……無反応。

 せ~の、ジャンプ! …………無反応っ!


「イナバ物置か!?」


 百人乗っても大丈夫そうだな、この廊下!?


「コーシ。あなた、ニコの乳揺れを見たいがために全員でジャンプさせたわね?」

「トラップの上にいて、そんな余裕ねぇよ!」


 曲がりなりにも盗賊団のアジトのトラップだぞ?

 エロのために命は張れねぇよ!


「トラップが全部死んでいるようだな」

「きちんと掃除をしとらんかったのじゃろうか? だらしのない盗賊団じゃのぅ」

「でも、おかげで助かりましたね」


 ……果たしてそうか?


 グレイスもニコもエルセも、トラップが作動しないのは盗賊の怠慢だと決めつけているが…………何か、引っかかる。


「それにしても……人が少な過ぎると思わない?」

「――!?」


 スティナの言葉に、引っかかりの一端を見た気がした。


 そうだ。

 いくら今が深夜で、盗賊たちが出払っているとはいえ、アジトの中に人っ子一人いないなんて、そんなわけがない。

 実際、表には見張りがいたんだ。アジトの中が無人ってことはないだろ。


 なのに、俺たちはここまで一人として盗賊に遭遇していない。

 ……トラップが作動しないことと、警備が手薄なこと。これは、何か関係があるんじゃないか?


「むむ? おかしいのじゃ……」


 見取り図を見ながら、ニコが首を傾げる。


「あんなところにドアなどないはずなのじゃ」


 ニコが指さした先には、半開きのドアがあった。

 見取り図を見る限り、そこに部屋はない。当然、部屋がなければドアなどあるはずがない。


 しかし、実際のアジトには、そこにドアがある。俺たちの目の前に。


「……もしかして」


 俺はニコの持つ見取り図と、今俺たちがいる場所を見比べた。

 見取り図通りであれば、ここに部屋はない。

 だが、今ニコが持っている見取り図には、その場所に部屋が『書き足されている』のだ。


 そう。

 エルセが初めて、他のみんながそれに倣って好き勝手に書き込んだ落書き。そんな落書きの一つが、今俺たちのいる場所に書き込まれている。


 これを書き込んだのは、確かマゥルだったはずだ。

 その部屋は、そう……マゥルの言葉を借りるならば、『入ったらすぐに寝ちゃう、ぽかぽかで気持ちいいお昼寝のお部屋』。


 俺は、ドアに近付いて、そっと半開きのドアを開け放つ。


「あぁっ!?」

「……やっぱりか」


 中を覗き込んだエルセは声を漏らすが、俺は自分の読みが当たったことに驚きを感じていた。

 部屋の中には、複数の男たちが寝そべり、気持ちよさそうに寝息を立てていた。


 おそらく、この部屋に入った瞬間、その気持ちのよい空間に溶け込むように眠りについてしまうのだろう。

 俺はそっとドアを閉める。


 ぽかぽかとした、心地のいい空気がドアに遮られて、目がしゃきっとする。

 覗き込んでいただけで、少しまどろんでいたらしい。自覚してゾッとした。


 この部屋に近付いた者は眠りの世界へと引き摺り込まれるのだろう…………マゥル、何気に恐ろしいトラップを生み出してくれたもんだ。


「あの、コーシさん。これは一体どういうことでしょう?」


 つまり、これは……


「この見取り図に書き込んだことが、この建物の中で起こるんだ」



 そういうことだろう。







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