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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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76話 ギルド長代理

「いろいろ悩んだ結果……このTシャツを買いました!」


 と、エルセが広げているのは、オレンジ地に白い太めのラインが一本入ったシンプルなデザインの半袖シャツで……どっからどう見てもジャイアンの服だった。


「コレを着てコスプレすれば、『お前の物は俺の物』になるんじゃないかと思いましてっ!」

「誰から強奪する気だ!?」


 エルセが要監視対象になってしまった。

 しっかり目を見張っておかねば。


「コーシさんにも買ってきたんですよ。こういうの好きかと思って」


 と、差し出されたTシャツの背中には、涼しげな字体でこんな言葉が書かれていた。



『冷やし中華、始めません?』



「なんで疑問形だ!?」

「一緒じゃないとちょっと不安になることってあるじゃないですか! 一人は寂しい的な!」


 あったからなんだ!?

 仮に俺がそういうタイプの人だとしても、着るか、こんなTシャツ。


「うぅ……コーシさんがわたしとだけお揃いしてくれません……」

「ニコのお守りがあるだろう? みんなでお揃い、それでいいだろうが」


 なんとなく、流れでそうなったのだということはきっちり頭で理解しているのだが……

 俺とのお揃いをそんなに切望されると、照れるっつうの。


「まぁまぁ、エルセ。この揚げドーナッツでも食べて元気を出しなさい」

「うぅ……ありがとうございます、スティナさん」

「って! なんで買ってんだよ揚げドーナッツ!?」


 今度って言ったのに!


「みんなの分もあるわよ。はい、ニコ。はい、コーシ」

「うむ。ありがとうなのじゃ」

「ったく……もう買っちまった物はしょうがないけどよぉ……」


 と、さりげなく紙袋をカバンにしまおうとするスティナ。


「ちょい待て! お前、その紙袋にあと二つ入ってるだろ!?」

「なぜ数まで!?」

「さっき六個買うとか言ってたからだよ! お前は、こういうしょーもないところは絶対曲げないからな!?」


 スティナが一人占めしようとしていた揚げドーナッツは、グレイスへのお土産ということになった。……でも、一個余るんだよなぁ。


 そんなことを考えつつ、集合場所である冒険者ギルドギルド長室へと向かう。

 重厚なドアをノックすると、中から返事があり、それを聞いて俺たちはドアを開ける。

 曲がりなりにもギルド長だからな。粗相があってはいけない。


 中に入ると、ギルド長専用の豪華な椅子に深々と腰かけた人物が俺たちを出迎えてくれた。


「むっ、よく来たぉ! 待ってたぉ! ギルド長だぉ!」

「マゥルっ!?」


 ギルド長の椅子に座っていたのは、グレイスの妹であり、ニコのご近所さんでもある、薬屋のマゥルだった。……の、だが。


「マゥルじゃないぉ! ギルド長だぉ!」


 マゥルはなぜか、普段グレイスが着ている服を身に纏っている。かなりブカブカだ。

 こいつはコスプレーヤーではなかったはずなのだが。


「何やってんだよ、マゥル。グレイスはどうしたんだ?」

「マゥ……マゥルじゃ、ない、ぉ……っ。ぐすっ……ギ、ギル、ギルド長、だぉ……っ!」


 ぅおぅっ!?

 マゥルが大きな目に涙をいっぱいに溜め、今にも泣きそうな顔になる。

 なんだ!? これは一体どうしたことか!?


「マゥ……、マゥルは、マゥルじゃないぉ……ギルド長、だぉ……っ!」


 いや、今自分で「マゥルは」って言っちゃってたしっ!


「コーしゃま。ここは話を合わせてやるのが得策なのじゃ」


 マゥルに甘いニコが俺に耳打ちをしてくる。

 ……っていうか、身長差があるから服の裾をちょいちょいと引っ張られて、俺が耳を近付けたのだが。


 しかし、やっぱりアレか。

 こういう場合はニコの言う通りにしておくべきなんだろうな。

 理由は分からんが、本人がそうだと言っているのだから、そういうことにしておいてやろう。


「あ、よく見たらグレイスだった。いや、悪かったな、グレイス。勘違いだ……あはは」

「わはっ!」


 俺が「勘違い」だと口にした途端、マゥルの涙は引っ込み、代わりに「ぱぁぁっ!」っとした晴れやかな笑みが顔中に表れる。

 ……幼児の遊び相手をしている気分だ。


「そうだぉ! マゥルはマゥルじゃなくてギルド長だぉ!」

「――というていなのね」

「おい、スティナ、体とか言うな。折角泣き止んだんだから」

「体だぉ!」

「体はいいのかよ!?」


 というか、きっと体の意味が分かってないのだろう。

 まぁ、マゥルが気にしていないならそれでいいか。


「それでマゥル。グレイスはどこに……」

「ぐす……っ!」

「ぬゎぁあ! じゃ、なくて! えっと、俺たちをここに呼んだヤツはどこにいるのか知ってたりしないかなぁ!?」


 くっそ、難しい!

 グレイスと話がしたいのにマゥルをグレイスとして扱わなければいけなくて、とはいえマゥルを連れて『闇の組織』討伐になど行けるはずもなく……どうすりゃいいんだよ。


「コーしゃま。ここは一つ、マゥルをグレイスだと思って話を進めるのじゃ。きっと何か聞かされているはずなのじゃ」


 なるほど。

 何かしらのわけがあって、グレイスはここに留まることが出来なかったのかもしれない。

 だから、マゥルを代役としてここに残し、俺たちに伝言を託したのかもしれない。


 それならあり得ることだ。

 ……なんで頑なにグレイスの真似を貫いているのかは分からんがな。


「マゥ……じゃなくて、グレイス。『闇の組織』についてなんだが、何か聞いていないか?」


 グレイスからの伝言、これからの段取り。

 そんなものを期待して、俺たちはマゥルの言葉を待つ。


 マゥルは大きな瞳をぱちくりさせて、小さな頭をこてんと傾ける。


「……『やみのそしき』? なんのことかわからないぉ?」

「おい、どうすんだよこれ!?」


 クエスト、まさかのスタート前頓挫かよ!?


 無邪気なギルド長代理を見つめつつ、前途多難なミッションに頭が痛くなっていた。






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