71話 装備者をイメージして
「これが、風の原石でし」
なんだかんだと騒がせてくれた桐タンスから取り出されたのは、薄いグリーンの鉱石だった。透明度が高く、向こう側が透けて見えている。
「バスクリンみたいな色ですね」
「うん。俺もそれ思ったんだけど、雰囲気ぶち壊しそうだから必死に我慢したんだよね。言うんじゃねぇよ、思ったことをなんでもよぉ」
まったく。
エルセには『空気を読む』というスキルが著しく欠如しているとしか思えない。
「この原石を、特殊な魔道具で加工するんでし」
「魔道具ってのは、俺の魔力でフル充電されてるさっきのアレか?」
「ごめんなさいでし! 悪気はなかったんです! そそのかされたんでし!」
「はぅっ!? なんかわたしだけが悪者に仕立て上げられています!?」
言い出しっぺもそれに乗っかったヤツも同罪だけどな。
まぁ、もういいよ。済んだことだし。
「見てください、カチヤさん。『しょうがねぇな、もういいよ』って顔してますよ、コーシさん!」
「許してもらえてよかったでし」
「これで、明日からは充電し放題ですよ、きっと」
「それはとても助かるでし!」
うん。やっぱ一回怒っとこうかな!?
「それで、この原石からどんなアイテムが出来るのかしら?」
「分からないでし」
「分からない?」
思わず聞き返してしまった。
自分で作るのに分からないとは、どういうことだ?
「風のタリスマンは、風の原石の性質と、魔技師の資質によってその姿を多様に変化させるんでし。アッチは魔道具に魔力を送り込むだけで、形や付与される風の恩恵までは決められないんでし」
つまり、作ってみないと何が出来るか分からない、ってことらしい。
なんてギャンブル要素の高い生産スキルなんだ。……まぁ、ゲームっぽいと言えばそうだけど。
「ちなみに。これまで、どんなものを作ったのじゃ?」
「最新作は、風のウィッグでし」
ウィッグってことは、付け毛か?
「風の力でしょっちゅうズレて、不自然な生え際になっちゃう遊び心満載の頭部用装備でし」
「使い勝手の悪いヅラじゃん!?」
そんな遊び心はいらん!
「でも飛ぶように売れたでし! ヅラ、だけに!」
「『風、だけに!』じゃないかな!? ヅラは基本飛ばないものだしね!」
ここ最近、風のウィッグが出来る率が上がっているそうだ。
……いらねぇなぁ、風のウィッグ。
「あ、でもでしね。装備する人があらかじめ決まっていると、その人に合った物が出来ることが多いでし」
「おそらくじゃが、生産する際にイメージが大きく影響しておるのじゃろう。装備者が決まっておれば、イメージをより具体的に持つことが出来るからの」
イメージが完成品に影響を及ぼすのか。
これ以上もないオーダーメイドだな、まさに。
「みなさんには、とてもとてもお世話になったでしから、風のタリスマンをプレゼントさせてほしいでし!」
「いや、でもいいのか? 売れば高いんじゃないのか?」
「どうせ売れませんでしから」
ウセロがにらみを利かせているせいで、現在カチヤは風のタリスマンを売ることが出来ない。
「なら、風のタリスマンをありがたく頂戴して、ウセロたちをさっさと退治してあげることが、カチヤたちのためになるんじゃないのかしら?」
スティナの意見はもっともなようで……結局「固いこと言わずにもらえるもんはもらっとけ」的要素がふんだんに含まれているように感じた。
「スティナさんの言う通りでし。アッチは、みなさんのお役に立てるととっても嬉しいでし!」
カチヤの笑みに偽りはないように思えた。
まぁ、そこまで言ってくれるのなら。
「じゃあ、作ってもらおうか」
「はいでし! 任せてほしいでし!」
それで、クエストをガンガンクリアして、またカチヤの店で何かを買ってやろう。
金は還元させる方がいいって言うしな。
「それでは、みなさんをイメージして風のタリスマンを作成するでし!」
何やら複雑な形をした――歯医者の「キュイーン」をいろいろ改造したような形状の――魔道具を両手に持ち、カチヤがネコ耳をぴんっと立てる。
「あ、でも。ドンピシャのアイテムが作れることは稀でしので、出来上がった風のタリスマンを誰が持つかは、みなさんで相談して決めてほしいでし」
俺をイメージしても、俺にピッタリのアイテムになるってわけではないようだ。
指輪や腕輪ならエルセやニコに持たせた方がいいだろう。
風の魔力が付与されたアイテムか……どんなものが出来るのか、楽しみだ。
作業台の上に風の原石を置き、カチヤがその前に座る。
弟妹たちは、カチヤが持っているのとは別の魔道具を持ち、カチヤの隣に待機している。
お手伝いなのだろう。
「……では、いくでしっ」
静かに言って、カチヤが風の原石へ魔道具を当てる。
瞬間。眩い緑の光が部屋を埋め尽くす。
そよ風が全身を撫でて吹き抜け、部屋の中で渦を巻いて回り始める。
そんな状態が数分続き……
「で…………出来た…………で、し……」
ゴトッ……という音と、ドサッという音が同時に聞こえる。
最初のは魔道具が作業台に落ちる音で、あとのはカチヤが床に倒れた音だ。
「大丈夫か、カチヤ?」
「は、はいでし…………ちょっと、魔力を使い過ぎただけでし、から……」
「じゃあ、俺の魔力を分けてやるよ」
「ふにょにょっ!?」
カチヤの額に手を載せて、そこから魔力を送り込む。
さすがにもう何度も使用した魔法だ。コツみたいなものも掴み始め、無駄を省いて効率よく、手早く魔力を分け与えられるようになってきている。
「ふぉぉお……なんか、温かいでし」
そう言いながら、全身をぞくぞくっと震わせる。
「これならすぐに二つ目が作れそうでし!」
物の数分でカチヤのMPは完全回復したようだ。
……こいつ、MP少ねぇな。
「二個目の前に、今出来た物を見せてほしいわね」
「そうですね。わたしも、興味津々です」
「作業台の上に綺麗なライトグリーンの物が載っているのじゃ。見ても構わんかのぅ?」
「あ、はいでし! どうぞ、見てくださいでし! アッチがみなさんをイメージして作り上げた風のタリスマンでし!」
カチヤの言葉を受け、代表してスティナが作業台の上の風のタリスマンを広げる。
一同の視線が風のタリスマンに注がれる。
「これは……」
スティナの両手に持たれ、衆目の元さらされたそれは…………どう見てもブラジャーだった。
「…………コーシ」
「…………コーシさん」
「…………コーしゃまったら」
「なんで俺だ!?」
責任があるなら、まず間違いなくカチヤだろうが!
ともあれ、俺たちはこうして、『風のブラジャー』を手に入れたのだった。




