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70話 朝食の場での他愛ない話

 早朝。


「おにーちゃん、おきろー!」

「どふっ!」


 ガキの全体重プレスを腹部にくらい、俺は目が覚めた。…………ガキぃ。


「ほらほら、怖い顔をしないの、コーシ。子供のすることじゃない」


 珍しく、俺よりも早起きをしていたスティナが俺の枕元に立っていた。


「これが弟ではなく、妹だったら『むしろご褒美だ』ってにやにやしていたのでしょう?」

「スティナ……俺、今寝起きとかダメージで機嫌悪いから、発言には気を付けろ、な?」


 いくらお前でも、限度を超えると殴るぞ、俺は。


「コーシさん。早く起きてくれないとご飯が準備出来ないですよ」

「え? エルセももう起きてるのか?」


 おかしい。

 自堕落なエルセ&スティナよりも俺の方が目覚めが遅いなんて……と、枕元を見ると、らぐなろフォンと見たこともないような工具一式がずらりと並んでいた。


「エルセ、カチヤ…………ちょっと」

「ヤバイです、カチヤさん! あの顔、割とマジ切れしてる顔です!」

「ご、ごご、ごめんなさいでし! エルセさんに『ついでだから魔力補充してもらえばいいですよ。大丈夫です。コーシさんの魔力、掃いて捨てるほどありますから』って言われて、いいのかなって思っちゃったでし!」

「なぁ!? カチヤさんの裏切り者ぉ!? それは二人だけの秘密だと言ったじゃないですか!?」

「わぁ!? ごめんなさいでし! 『つい』でし!」

「うん。いいから二人とも、そこに正座してくれるかな?」


 人が爆睡してるのをいいことに、こいつら勝手に魔力を持っていきやがったな?

 ……つか、この『魔力あげるんです』って、オフに出来ないのか? 勝手に載せられて、勝手に魔力持っていかれてるんだが……


「ほぅれ。早く片付けるのじゃ。もうすぐご飯が出来るのじゃ」


 台所からニコが顔を出す。


「おぉ、ようやく起きたのぅ、コーしゃま」

「悪い、寝過ごした」

「昨日はこれまでにないほど魔力を使い過ぎたのじゃ、しょうがないことじゃよ」


 にっこりと笑ってニコはまた台所へと戻っていく。


 俺が起きたことで、カチヤや弟妹を中心に朝食の準備が進められる。


 女子たちはカチヤと一緒に寝室で眠り、俺だけがこの居間で眠っていたのだ。

 俺が起きないと食卓が出せない。じゃあ、起きるかな。


「小さいお姉ちゃんのご飯、おいしそうー!」

「ちっちゃいおねーちゃんのご飯、おいしそー!」

「おっきぃおねー、おいしそー!」

「よし、妹(小)。ちょっとお兄ちゃんと話をしようか」


 この小さな娘は今のうちに矯正しておかなければいけない。でなければ、将来スティナみたいになる!


「まぁまぁ。話はあとじゃ。とにかくご飯にするのじゃ」

「「「「わーい!」」」」


 大喜びする小さな弟妹たち……と、一番大はしゃぎしている長女カチヤ。


「おでんなんか二度と食うもんでしかー!」

「「「でしかー!」」」


 どんだけおでん尽くしだったんだよ、お前ん家の食卓。


 ニコの作ってくれた朝食は、こちらの世界の定番料理らしく、パンによく合う塩辛いベーコンと炒めた野菜。そして、出汁の利いた薄味のスープだった。


「……お姉ちゃん。アッチ、今死んでも悔いはないでし」


 しっかりしろ、弟!? 普通の朝食だから!

 お前、料理上手な嫁さんもらったら毎朝死んじゃうからな、それだと。


「ちっちゃいおねーちゃん。アッチと結婚してほしいでし!」

「すまんのぅ。同性で結婚は無理なのじゃ」


 妹(大)の意見を大人な対応でかわすニコ。

 ……その後、こっちを「チラッ」って見ないでくれるとありがたいんだがな……


「おっきぃおねー! ウチのおねーとトレードするでし!」

「やめてでし! 勝てる自信がないでし! 多数決で確実に負けちゃうでしから、議題に上げないでほしいでし!」


 妹(小)の他愛ない意見を大人げなく封殺にかかる長女。……必死過ぎる。


「おねーは、そこそこ使える職業だから、冒険者さんの役には立つでし」


 あ、トレードの話、マジっぽい。

 まぁ、ニコを手放す気はないからトレードは認められないけどな。


「……ただ、おっぱいないでしから、十中八九おにーに認めてもらえないでしけど……」

「おい妹(小)! 俺が寝ている間にスティナと何話した!?」


 くそぅ!? この妹(小)早くなんとかしなければ!

 手遅れになってしまう!


「あの、カチヤさん。カチヤさんの職業ってなんなんですか?」


 朝食の席らしい他愛ない会話だ。

 こういうのだよ、俺が求めてるのは。

 妹(小)とか、スティナの得意ジャンルじゃない感じの会話!

 こういうのを掘り下げていこう。


「アッチの職業は、両親の真似っこしただけでし。弟が言うような、大した職業じゃないでしよ」

「え~、気になりますよぅ。教えてくれませんか?」

「にゃはは……なんか照れるでしね。えっと、ホント、大したことはないんでしけど……」


 そう言いながら、懐から冒険者カードを取り出すカチヤ。

 あれ?


「カチヤって、冒険者なのか?」

「あ、はい。一応。冒険にはほとんど出ないでしけど」

「女神様の恩恵を受けるために冒険者登録する者はたくさんおるのじゃ。八百屋も鍛冶屋も、女神様の恩恵を受けた方がいい仕事が出来るからのぅ」


 そういえば、冒険者ギルドでそんな説明を受けた気がするな。

 戦士にでもなって腕力に恩恵を受ければ、農家でも役に立つ……って発想か。なるほど。


「アッチの職業は『魔技師』でし。アイテム加工に特化した、生産系職業なんでし」


 戦闘ではなく生産系の職業があるってのも、ゲームでは定番だ。

 魔技師は『魔法技工師』の略らしい。


「ステータスとか、見せていいのか?」

「あ、平気でし。大したことなくて恥ずかしいでしけど……」


 プライバシーの塊だと聞いたことがあったが、カチヤはあまり気にしないようだ。

 どれどれ……



『 名前 :カチヤ

  職業:魔技師

  レベル:まぁこれくらいあればいいんじゃない(にやにや)

  HP:わぁ、凄い! 才能があるのかもね(にやにや)

  MP:十分、だけどもっと高みを目指したくない?(にやにや)

  力:もし叶えたい夢があるなら聞かせてくれないかな?(にやにや)

  体力:夢は必ず叶うよ(にやにや)

  知能:でも、今のままじゃダメだってこと、自分でも分かるよね?(にやにや)

  素早さ:そんな君に紹介したい商品があるんだ!(にやにや)

  幸運:君ほど幸運な人は見たことないよ!(にやにや)     』



「詐欺だー! ステータスがお前を詐欺にかけようとしてる!?」

「えっ!? そうなんでしか!? 何か買えば、夢が叶うんじゃないんでしか!?」


 いかん!? この娘は純粋なのを通り越してアホの領域に足を踏み入れている!


「目を覚ませ! エルセになるぞ!?」

「そうですよ、カチヤさん! 目を覚まし…………どういうことですか、コーシさん!?」


 そういうことだよ!

 途中まで同調しかけちゃうんだもんな!


「というか、後半、ステータス関係なくなってるわね」

「うむ、完全に商品を売りつける方に舵を切ってるのじゃ」


 冒険者カード……こんなに統一感なくていいのかよ、マジで。


「あ、あの……アッチのステータス、どうなんでしかね?」


 なんとも言えねぇな、これじゃ。

 とりあえず……


「もうちょっと、知能を上げような」

「……はいでし」



 と、まぁ……俺も人のことは言えないんだけどな。『話にならない』だし。






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