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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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60話 薬を処方する

「あんな『あずきバー』みたいなグレイスさんの妹さんが、こんな『ねるねるねるね』みたいな人だなんて……驚きです」


 思考が駄菓子屋付近で固定されているエルセが驚嘆の息を漏らす。

 が、誰一人として共感は得られていないようだ。そりゃそうだ。なんだ、あずきバーみたいなグレイスって。


「わたし、以前あずきバーを噛んで前歯が欠けたことがあるんです」

「もっと歯を鍛えろよ」

「冬場にキャラメルを噛んで奥歯が欠けたこともあります!」

「カルシウム不足してんじゃねぇの!?」

「確かに……指の骨がぽきぽき鳴ります」

「それは関係ない」


 あれは、骨と骨の間の滑液に出来た気泡が……って、エルセに説明しても伝わらないか。


「歯が欠けた時に効く薬があるぉ」

「薬で治るか!?」

「……治る……ぉ?」


 すげぇな、異世界。

 欠けた歯が薬で治るのか。……とりあえず謝っておこう。


「いや、デカい声を出して悪かった」

「…………デカい声…………ぉ?」

「記憶力の良くなる薬とかないのか!? あるなら飲んどけ、な!?」


 なぜマゥルはついさっきのことが記憶から抜け落ちるのか……


「本当にこの娘がギルド長の妹だというの? とても信じられないのだけれど」


 と、マゥルのほっぺたをぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにしながらスティナが言う。

 ぷにぷにし過ぎ!


「お姉ちゃんは、マゥルのお姉ちゃんだぉ?」

「義理の、かしら?」

「パパとママ、一緒だぉ」

「父親と母親が同一人物ですって!?」

「違うよな? 分かるよな? なんで無理矢理複雑な家庭を作り上げようとするのかな?」


 スティナは危険なので、マゥルとカチヤから隔離しておく。


「グレイスとマゥルは本当に仲のいい姉妹でのぅ。マゥルはグレイスが大好きなんじゃよ。のぅ?」

「うんだぉ。マゥル、お姉ちゃん大好きだぉ!」


 はぁ~、なんだろうこの和む感じ。


「――『俺、マゥルに「おにぃちゃん」って呼んでもらえるなら、グレイスと結婚してもいいかも』」

「人の心の中を勝手に捏造して垂れ流すのホンットやめてくんない?」

「呼ばれたくないのかしら? 『おにぃちゃん』」

「俺にそんな趣味はねぇよ」

「そう…………『おにぃたま』派なのね」

「お前の世界はとても狭くて酷く歪だよな、いっつも!?」


 他に何派があるんだっつの。


「それで、カチヤの弟の薬なんじゃが」

「そうだったぉ。すぐに用意してあげるぉ」


 ひとしきり盛り上がったところで、話を元に戻す。カチヤの薬を買いに来たのだ。

 あ、でも……


「カチヤって、いつも使ってる薬があるんじゃなかったっけ?」

「はいでし。紹介してもらった薬屋さんで、毎度処方してもらってる薬があるんでし」


 確か、1000Mbもする薬だったはずだ。


「名前はなんていうぉ?」

「えっと、『シャキールダワー』というお薬でし」

「『シャキールダワー』はいびきを止める薬だぉ?」

「え………………えっ!?」

「一つ200Mbだぉ」

「えっ!? …………ぇぇえええっ!?」


 マゥルの言葉に、カチヤがムンクの叫びみたいな格好と顔でうねうね体をくねらせる。

 ……完全に騙されて、しかもぼったくられてたんだな。


「その薬屋を紹介したのは誰なのかしら?」

「ウ……ウセロさん、でし」

「カチヤ、あなた…………バカね」

「はぅっ!? ごめんなさいでしっ! バカでごめんなさいでしっ!」


 なぜウセロをそこまで信用してしまうのか。

 おそらく、ぼったくられた金は、そのままウセロの懐に入っていたのだろう。

 もうちょっと懲らしめてやればよかったか?


「あ、あの! でも、弟のいびきは、言われてみればここ最近ピタリと止まってるでし! だから、騙されたというわけでは……ない、かも…………でし……ごめんなさいでし」


 俺たち全員の顔がのぺーっとなったのを見て、カチヤは耳と首を同時にうな垂れさせた。

 あははは、乾いた笑いしか出て来ない。


「マゥル。カチヤの弟に、ちゃんとした薬を調合してやってほしいのじゃ」

「任せてだぉ。十七分二十四秒で作るぉ。ちょっと待っててぉ」


 言い残して、マゥルは「てっとっとっとっとっ」と部屋の奥へと入っていった。


「随分細かい時間を言ってったけど、そういうのが正確に出来ちゃうヤツなのか?」


 どこぞのなんとかヒューマノイドインターフェース的な不思議パワーでさ。


「いや、適当なのじゃ。たぶん、十分ほどで戻ってくるのじゃ」

「なんかいろいろ紛らわしいな!?」


 しかし、今発覚してよかったよ。

 これで、カチヤの弟もすぐ元気になるだろう。


「あの、カチヤさん。他には、何か騙されているものとか……ないですよね?」


 不安げな顔をして、エルセがカチヤに尋ねる。


「もうさすがにないでし」


 きっぱりと答えるカチヤの顔に迷いはなく、なんとも晴れやかな表情をしていた。

 ……怪しい。


「ちなみに、ウセロから紹介されたものって、他に何かあるのかしら?」

「はいでし。えっと、お洋服屋さんとか家具屋さんとか冒険者保険屋さんとか……」

「よし、みんな。カチヤの家に行ったら徹底捜索だ!」


 こいつは、骨の髄まで騙されまくっている。

 ウセロ……次見かけたら、追加でお仕置き決定。


「カチヤさん……あんなにヌケてて、この先生きていけるんでしょうか?」


 確かに不安だ。けどな、エルセ。

 お前が言うな。このミス五十歩百歩が。


 あ~ぁ。俺の周りって、アホの娘しか寄ってこないのかなぁ……






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