40話 ニコとお弁当
「コーしゃま。あ~ん、なのじゃ」
「えっと……この状況は何かな?」
川原で、ニコと二人。お弁当を広げてるなう。
「カップルといえば、川原でお弁当なのじゃ」
「こっちの世界、そういう定番あるの? だから川原の魔獣がやさぐれちゃうんじゃないのか?」
冒険者カップルが川原にイチャイチャしに来るとか、俺が川原に棲む魔獣ならぶち壊しにしてやるもんな。うん、分かるぜ魔獣。
わざわざ隣のクラスから可愛い彼女が手作り弁当ぶら下げてお昼を食いにやって来る様とか見せつけられて…………何度前の席の男に消しゴムのカスをこっそりぶつけたことか……
「この卵焼き、ちょっと失敗しちゃって……(てれてれ)」「お前が作ってくれたものならなんだって美味しいよ」ってやかましいわっ! 卵焼きが美味しいのはニワトリのおかげだよー! ニワトリに感謝しやがれ!
むぁああ! ムカついてきた! 魔獣よ、一緒にぶっ潰そうぜ、リア充どもを!
「コーしゃま!? 心なしか、魔獣に共感してるような顔をしてるのじゃ!?」
「……あぁっ、悪い。ちょっといろいろ思うところがあってさ……」
落ち着け俺。
俺は魔獣を倒すためにここへ来たのだ。冒険者を倒すためじゃない。
「ところで、魔獣をおびき出して、その後どうするんだ?」
「その後?」
俺たちがカップルごっこをしているのは魔獣をおびき出すためだ。
おびき出して……その後のことは一切決まっていない。
現在、他のメンバーは魔獣に感付かれないように遠くで身を潜めている。
魔獣が出てきたとして……間に合うのだろうか?
まぁ、ニコなら何か考えているのだろうけど。
「ふむ……盲点じゃったのぅ」
「ノープラン!?」
ただカップルごっこしたかっただけなの!?
「ち、違うのじゃ! えっと、あの……そ、そうじゃ! 愛の力を浴びせかけるのじゃ!」
「そしたら余計凶暴化しそうだけどな」
「ま、まぁ、魔獣が現れたらワシが魔法でなんとかするのじゃ☆」
頼りにしていいものだろうか……まぁ、他に手はないわけだけれども。
「それよりも、コーしゃま。お弁当を食べるのじゃ。コーしゃまのために腕によりをかけて作ってきたのじゃ」
「折角だからもらおうかな。何があるんだ?」
「カボチャのスープとサツマイモのポタージュ、ポトフと、あとけんちん汁じゃ☆」
「汁物ばっかり!?」
「はい、ゴボウをあ~ん」
「けんちん汁のね!? 細切りだねぇ!」
もうちょっと『あ~ん』し甲斐のあるヤツないかねぇ!?
それこそタマゴ焼きとかさぁ!
「タマゴ焼きはないんじゃが、タガメ焼きならあるのじゃ」
「虫っ!?」
「栄養があるからの。はい、あ~んなのじゃ」
「俺、虫だめ! 佃煮でもちょっと無理!」
「そうなのじゃ? 残念じゃのぅ」
ニコの料理は美味い。が、虫は、ごめん!
つか、彼女の手作り弁当にタガメ入ってたら引くよな?
カップルごっこなら、そこら辺のディテールにもこだわってほしかったぜ。
「そ、それじゃあ……ワ、ワシも、あ~ん、して……もらおぅ、かの☆ きゃっ☆」
「いや、別にいいけどさ……」
カボチャのポタージュをスプーンにすくい、ゆっくりとニコの口へと流し込む。
……これ、ニコがしわしわ状態だったら100%介護だよな。
うわ……なんかときめかない。
「はぁぁ……ワシ、幸せ過ぎて……昇天しそうじゃ…………」
「待て、早まるな! 現世に未練を持って!」
魔力が枯渇しにくくなったとはいえ、まだちょっと不安になるんだよ、お前がそういうこと言うと!
「あ、あの……コーしゃまはどんな女の子が好きなのじゃ? 小柄で幼い系かの? 油断するとしわしわになっちゃう系かの?」
「系統に物凄く偏りを感じるんだが?」
「脊椎動物は外せないよの?」
「俺ってそんなにストライクゾーン広そうに見えてるの!?」
下限が脊椎動物!?
それで足切り出来るのスライムくらいじゃね!?
「あぁ、でも……前にエルセが、『コーシさんはしびれスライムの美女を見て、まんざらでもなさそうだった』って言っておったしのぅ……」
「ごめん、ニコ。一回中断してエルセをぶっ飛ばしてきていい?」
誰がまんざらでもない雰囲気とか出したか!? 痺れさせられたイヤな記憶しかねぇわ。
「にしても、出てこねぇなぁ。やっぱ、カップルっぽく見えないのかな?」
小川は今も静かなままだ。
「そ、それなら……その、もっとカップルっぽいこと…………する……のじゃ?」
もじもじとして、ニコが上目遣いで俺を見上げてくる。
サクランボのような唇がぷるぷると震え、なんというか…………妙に、どきりとさせられる。
静かな小川で二人きり。
周りには誰もおらず、ほんのりといいムード……
……え?
まさか?
ここで……人生初めての…………ちゅ……チュー……?
「交換日記、とか、するのじゃ? きゃっ!?」
「エルセと発想、おんなじか!?」
あぁ、うん。大丈夫大丈夫。
このメンバーなら、きっと間違いとか起こらないわ。
そんなことを確信した、よく晴れた日の午後だった。




