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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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23話 癇に障る周波数

「それにしても静かね」


 スティナが墓地を見渡して言う。

 静かでいいじゃねぇか。

 墓地なんだから騒がしい方がおかしいだろう。


「エッカルト様と肝試しに行った墓地では、あちらこちらでバッシバシラップ音が鳴っていたのだけれど」

「それもう肝試し続けていい状況じゃねぇよ」


 今すぐ帰って部屋中にお札貼って閉じこもるレベルだろ。


「墓地が静かなのは、魔獣を起こさないためなのじゃ」


 つやつやお肌に復活したニコが俺の手を握りながら言う。

 待機電力で消耗しないように、こうしてちょっとずつ魔力を分けてやっているのだが……


「後ろから見てると誘拐犯と被害女児に見えます」

「エルセ、聞こえてるからな?」


 俺らの背後を歩くエルセが失礼なことをのたまう。

 らぐなろフォンの充電拒否するぞコノヤロウ。


「墓地で騒がしくすると、魔獣が出て来るとでもいうのかしら?」

「そのとおりなのじゃ」


 アホの娘はスルーして話は進む。

 うん。賢明な判断だ。


「魔獣はここを寝床にしておるのじゃ。騒がしいと眠れなくて怒るのじゃ」

「テリトリーに入ると襲われるって……そういう理由なの?」

「魔獣は神経質なのじゃ。ちょっとの物音で不眠症になるのじゃ」


 なんだその魔獣……寝室に冷蔵庫とか置いてやりたいな。

 夜中に「ブーン……」ってなって寝不足にでもなればいいのに。


「わたしたち、結構大騒ぎしましたけど、出て来ませんでしたね、魔獣」

「癇に障る周波数があるようなのじゃ。ワシらの声は、たまたまそうではなかったのかもしれんのぅ」

「それじゃあ、どうするのかしら? こちらから住処へ行って退治するの?」

「住処の場所が分からんからのぅ……出て来てくれた方が楽なんじゃが……」

「それなら、わたしに任せてです!」


 今季、なんにも任せたくない女性ランキング第一位のエルセがこれまでにないまったく新しいタイプのドヤ顔でらぐなろフォンを構える。


「エルセ、ハウス」

「なんか酷いですよ、コーシさん!? わたしにいい案があるんです!」


 どうせらぐなろフォンで魔法を使って大きな音を出すとかだろ?

 やめとけよ。充電はなくなるし、関係ない墓まで壊れるしで、ろくなことにならないのは目に見えてるだろう。


「エルセ、ハウス」

「頑なですか!? らぐなろフォンにはスピーカー機能も付いてますから、ボリュームをこうやって最大にすれば、かなり大きな音が……」


 と、らぐなろフォンの側面に付いたボリュームボタンを「すかかかっ」っと連打するエルセ。

 すると――


 ♪てんてって~れっ、れんてって~れっ、てんとんてんとてんっ♪

『ぃえ~い! れっつ、ちまちま~! ひゅ~うぃ~ごぉ~ぅ!』


 慌てて音量をミュートにするエルセ。

 再び訪れる静寂。

 重苦しい空気。

 なんでか笑顔の俺。

 そして青ざめるエルセ。


 手招きする俺。

 首を横に振るエルセ。

 さらに強く手招きをする俺。

 観念して肩を落とすエルセ。

 そして、………………アイアンクロー。


「いたたたたっ! 違うんです! ちょっとした手違いと言いますか……っ」

「……お前、チマチマしてたろう? 戦闘が終わって、魔獣を探して歩いている間、ちょっと離れてチマチマしてたな?」

「ち、違……あ、今朝! 今朝やってたままになっていたんだと思います!」

「さっきフリーズして再起動してた・ろ・う・がっ!?」

「ひぃぃぃいいぃやぁぁああああっ! ごめんなさぃぃぃい! あとちょっとでレベルが上がるところだったものでっ! レベルが上がるとスタミナが全回復して、すぐに使わないともったいないなって思ってぇぇぇえいぁぁぁああっ! ごめんなさいぃぃいっ!」


 ホント、没収するぞ。

 高校の教師が口酸っぱく授業中にスマホを出すなって言ってた理由が分かったぜ。

 触るとやりたくなるんだろうな。

 だが、切り替えが大事だ。遊んでいい時にだけ遊べ。


「これだけ騒いでも出て来ないとなると……エルセの声は勘に障らないようね」

「可愛いですからね、わたし。声も」


 ……アイアンクロー。


「いたたたたっ! 無言っ! 無言はやめてくださいっ! なんか怖いです!」


 しかし、魔獣が一向に出て来ない。

 本当にいるのかと疑いたくなるレベルだ。


 もしかして、他の誰かに倒されたんじゃないだろうか。

 それならそれで、俺としては非常にありがたいのだが。


「仕方ないのぅ。こちらから探すしかないようじゃの」

「その前に休憩にしましょう。歩き詰めで疲れたわ」

「体力つけろよ、元引きこもり」

「失礼ね! 心はまだ現役よ!」

「心もさっさと卒業しろよ!」


 どこにプライドを持ってるんだ、この引きこもり乙女は。


「そうじゃの。少し休憩するかの。のぅ、コーしゃま?」


 ニコがそんなことを言って、「まぁ、焦ってもしょうがないじゃろ?」みたいな目を向けてくる。

 こいつは……このアホの娘と引きこもり乙女を甘やかすとろくなことにならないと思うんだが…………


「じゃあ、ちょっとだけな」

「うんなのじゃ。やっぱりコーしゃま、優しいのじゃ」

「それじゃあ、わたしはチマチマを……」

「待てコラ、そこのバッテリー浪費女」

「違うんです! レベルが上がりそうなんです!」

「何も違わねぇよ、知らねぇよ」


 ♪てんてって~れっ、れんてって~れっ、てんとんてんとてんっ♪

『ぃえ~い! れっつ、ちまちま~! ひゅ~うぃ~ごぉ~ぅ!』


「その音を鳴らすな! イラッてする!」


 だが、イラッてしたのは俺だけではなかったようで…………


「ぐぉぉぼぁぁああああっ!」


 けたたましい咆哮が轟き、静かな墓地に突如巨大な生き物が出現した。


「――っ!? 魔獣じゃ!」

「魔獣っ!?」


 ……こいつが!?



「ぐるるるるるっ!」



 俺たちの前に現れたのは、体長が4メートルはあろうかという――ハリネズミだった。






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