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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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22話 ガイコツの軍団現る!

「ココココーコケッ、ココ、コーシさん! ままま、魔法! 魔法をっ!」

「ぅぉ、おお、おう、おぅ! まほ、魔法な!? よ、よし、魔法使うぞ!」


 突如現れたガイコツの軍団に、盛大にテンパった俺は、持てる力のすべてを魔法に込めて叩き込んでやった。

 お俺が使える攻撃魔法はただ一つっ!


「喰らえっ! イビル・クレバスッ!」


 突き出した両腕が鈍色に輝きこちらに向かってくるガイコツ一体を捉えた。

 ガイコツの首から上が俺の腕と同じ鈍色の光に包み込まれる。


『イビル・クレバス』――えげつない口内炎を標的の口内に作る魔法だ!

 さぁ、盛大に苦しみやがれっ!


「カタカタカタカタッ!」

「ぅぉおお、笑った!? 気持ち悪いっ!?」

「でも、魔法はヒットしたです! さぁ、口内炎で苦しむがいいで………………ガイコツ、口がないですっ!」

「あぁっ!? 本当だっ!?」


 なんたることか!?

 口内炎が出来るべき口が、内頬が、歯茎が、ガイコツにはまったくないのだ!

 これじゃあ口内炎は出来ない!


「撤退ぃぃいー! 万策尽きたぞぉ!」

「逃げますよ、みなさん!」

「……あんたたち。よくそんなので冒険者になろうなんて思ったわね……」

「まぁ、とにかく落ち着くのじゃ、コーしゃま、エルセ」


 撤退ムード一色の俺とエルセ。

 対照的に、落ち着いているスティナとニコ。何を悠長に構えているんだ。

 こんな数のガイコツ――ざっと数えたら三十体くらいいる――相手に、どう立ち向かえってんだ!?


「私に任せない」


 慌てふためく俺とエルセにスティナが落ち着いた声で言う。頼もしい背中が、俺たちの目の前に立つ。

 おぉ、なんか知らんがやってくれそうだ。

 そうか。シスターはアンデッドに強いんだな!? よし、スティナ! 全部蹴散らしちまえっ!


 スティナは迫りくるガイコツに向かって、一枚の紙を突き出した。

 そして――


「イスメーネ学院の教えに忠実に、その精神を、死して外道の道へと踏み外した亡者に突きつける――」


 スティナがガイコツに向かって突き出した紙に描かれていたのは、前髪を掻き上げる仕草がセクシーなイケメン・エッカルト様のイラストだった。


「お祭りイベントより――二人で来たお祭りで、夜店に夢中になってはぐれてしまったヒロイン(=私)に向かって、心配と苛立ちとほんの少しの独占欲が滲み出した本音を吐露したエッカルト様の名ゼリフ――『お前なぁ! しっかり俺のこと見とけよな! ……今日だけじゃなくて、これからもずっと……俺だけを、見とけよな』」

「なに長々しゃべってんの、ガイコツ相手に!?」

「どう、ガイコツのあなたっ!? 心が清められるでしょう!?」

「それが清めにならないから、お前は腐ったんだろうがっ!?」


 んなもんがガイコツに効くわけ……


「カタカタカタカタ………………キュンッ!」

「効いたぁ!? めっちゃ効いてる! なんか頬骨押さえてもじもじし始めたぞっ!?」


 あのガイコツ、女だったのか!?


「これが……イスメーネ学院の浄化魔法よっ!」

「違うよね!? 乙女仲間が増えただけだよね、ただ単に!?」


 その証拠に、他のガイコツには一切効果が見られない。

 たぶん、他のガイコツは元男なんだろうな。


「万策尽きたわ」

「くっそ、突っ込みたいけど……俺も同じ状況だからあまり強く言えない……っ!」


 こうなったら頼れるのは……


「エルセ、らぐなろフォンを……っ!」

「すみません、今ちょっとフリーズしちゃってて!」

「お前もう帰れよっ!?」


 強制終了に手間取ってんじゃねぇよ! 「どうやったら消せますか?」って知らねぇよ、俺は!


「なら、ワシがやるのじゃ」


 小さな手をぴょこんと上げて、ニコがステップを踏むように俺たちの前へ立つ。

 群がるガイコツに、外観年齢十二歳程度の小さな女の子。


 ジュニアアイドルの写真会に群がるちょっとテンション上がり過ぎなオジサンたちのような危険な光景だ。

 大丈夫なのか、ニコ?

 お前魔力が……


 ――と、心配する暇もなく、ニコは一つの魔法を放った。


「『|闇を照らす聖職者《イエレアス・ヴォ・フォティゾ・トゥ・スコタディ》』――」


 ニコの指先から青白い閃光が発せられ、一瞬のうちに世界をのみ込む。

 これが……浄化魔法!?


 目がくらむような光の奔流の中、なんとか瞼を押し上げ状況を確認する。


 清らかで美しい光に照らされたニコは、まるで天使のような美しさで…………あぁ、残念っ、みるみるシワシワになっていくっ!?

 なんか傍から見てるとニコが浄化されているような光景だな。


 で、その横で腐りきった乙女がなんでか苦しんでいた。

 ……浄化されてしまえ。


 酔いそうなほどの光にのみ込まれて数十秒。

 霞が晴れるように光が薄れて、墓地は元の陰鬱な薄暗さを取り戻す。


「すげぇ……」


 無意識にそんな言葉が漏れた。

 あれだけいたガイコツが、跡形もなく消失していた。


「コ…………コーしゃ、ま…………」


 フラフラの足取りで、ニコが俺に向かって歩いてくる。

 カッサカサだ。


「ニコ」


 駆け寄り抱き留めると、驚くほど小さく、細く、そして軽かった。


「くふふ…………すまんのぅ。こんな婆さんを抱きしめても、コーしゃまは嬉しくないじゃろうにのぅ……」

「バカ。んなことあるかよ!」


 俺は、こいつがたまに見せるこの自嘲気味な笑顔をなんとかしてやりたい。

 それは同情などではなくて…………ニコの純粋な笑顔の方が可愛いと思うからだ。


「コーしゃま…………まさか、本当に乾物萌えで……?」

「それはない!」


 そういうことじゃないんだ。な? 分かるよな? お前は頭のいい娘だもんな!?


「ちょっと大人しくしてろよ。今、魔力を分けてやるから」


 ニコが大量のガイコツを倒したおかげで、俺はまたレベルが上がったらしい。体力と魔力が全快した感覚があった。

 このなけなしの魔力を、全部お前にくれてやる。


「く、くふふ……コーしゃま、やさしぃ……」


 頼りなく、風に消されそうな囁きだったが、抱きしめているおかげでしっかりと聞き取れた。

 俺の肩に顔を載せるニコが、笑っている。表情は見えないけれど、息づかいで分かる。


「ワシは……三国一の……幸せ者じゃ」


 小さな手に、きゅっと力が入る。


 どんなに天才で、ギルドに一目を置かれる大魔法使いといえど、ニコはまだ十四歳。

 見た目は小学生くらいに幼い少女なのだ。


 一人で抱えるには、こいつの抱える問題は大き過ぎる。

 なら、……抱えるのを手伝ってやるくらいは、してやりたいじゃないか。


「…………コーしゃま……」


 甘えるような声が、少し瑞々しくなっていた。

 もう少しこうしていれば、また元の体に戻れるだろう。


「コーシ……そのままの体勢でいいから聞いてちょうだい」


 俺の背後にスティナがやって来る。

 とても落ち着いた……それでいて、どこか不安を掻き立てるような沈んだ声。

 スティナは、そんな声で静かに語る。


「折角出来た乙女仲間のガイコツちゃんが、浄化されてしまったわ……今後、私は誰と語り合えばいいと思う?」

「あ、ごめん。俺今忙しいから」


 どうでもいい話だったので聞かなかったことにした。


 それから数分間、俺はニコに魔力を分け与え続けた。

 その途中で「やっと再起動出来ましたぁー!」とガッツポーズで叫んでいたエルセにアイアンクローをお見舞いした後で、俺たちは改めて墓地の奥を目指して歩き始めた。






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