21話 冒険者の墓場
ザック、ザック、ザック、ザック……
不気味な墓地に、規則的な足音だけが響く。
俺たちがたどり着いたのは、絵に描いたようなおどろおどろしい墓地だった。
こんなところに埋められて、安らかに眠れるはずがない。
吹く風の音すら怨霊のうめき声のように聞こえて不気味なのだ。
「エルセ」
「うひゃあっ!? い、いいい、今、なんか声が聞こえました!?」
「俺だ」
「もう! コーシさん、脅かさないでくださいよっ!」
普通に名前を呼んだだけなのに物凄く怒られた。
それだけ、エルセも怖いってことだな。
「で、なんですか?」
「いや、黙って歩いてると怖いからさ、なんか話をしてくれ。お前アホの娘だから楽しい話得意だろう?」
「わたしアホじゃないです! 可愛いだけです!」
「じゃあ、可愛い話でもなんでもいいからしてくれ!」
「ん~…………可愛い話ですか………………」
「…………」
「…………」
ザック、ザック、ザック、ザック……
「いや、黙んなよ!?」
「だって、パッと思い浮かばないんですもん!」
「なんだっていいんだよ! 今思いついた話をしてくれ!」
「今思いついた話だと…………こういう場所って、複数で来ると誰か一人が呪われるって言いますよね?」
「そういうことを考えないで済むように話でもしようっつってんだよ! 察しろよっ!」
こいつはどうしてこうポンコツなのか……
「では、私が話をしてあげようかしら?」
落ち着いた声でスティナが言う。
さすがシスターというべきなのか、スティナは全然怖がっているようには見えない。
こいつなら、何かためになる話で気を紛らわせてくれるかもしれない。
「じゃあ頼む」
「イスメーネ学院の授業で、エッカルト様と海に行くシチュがあったのだけれど、そこで着る水着をビキニにすると『岩ドン』というレアなイベントが発生して……」
「ごめん。その話即刻やめてくれるか?」
「その後、エッカルト様の水着が波に流されるというハプニングが……」
「やめろっつってんだろ!?」
「このイベントのラストのセリフは、全シナリオの中でも屈指の名ゼリフとして語り継がれているものなのよ!?」
「知らんし、語り合いたくないんだわ、その乙女ゲーの攻略とか裏技について!」
スティナの頭の中にはエッカルト様とやらしかいないのか。
なんで墓地で乙女ゲーの話に花咲かせなきゃいかんのだ!
「しかし、『岩ドン』はちょっと興味あるのじゃ」
思いがけないヤツが反応した。
ニコが微かに染まる頬を押さえてぽ~っとした目を虚空にさまよわせる。
「ニコもそういうの好きなのか?」
「それは……女の子なら誰だって好きなのじゃ。その、『壁ドン』とか『ドアドン』とか……のぅ、エルセもそう思うじゃろ?」
「う~ん……わたしは『鬼太郎ドン』くらいしか聞いたことないですねぇ……」
お前は一反木綿か。
『ドン』の使用用途が違うんだよ、お前だけ!
「私の話に興味がないなら、私は黙っておくわ」
「ワ、ワシも……今はちょっと、恥ずかしくなってしもうたから……すまんの、コーしゃま」
墓地が怖くなさそうな二人が沈黙してしまった……マズいな。乙女ゲーの話でも、ノリノリでしておけばよかったか……?
ザック、ザック、ザック、ザック……
またしても、無言の時間が訪れる。
「あ、そういえばコーシさん。ちょっと思い出せないことがあるんですけど……」
「おう! なんだエルセ? 質問なら、絶賛受付中だぞ! なんだって聞いてくれ!」
「『坊主が高速を飛ばせば~』ってことわざがあるじゃないですか? アレ、続きなんでしたっけ?」
坊主が高速を飛ばせば……
ザック、ザック、ザック、ザック……
ザック、ザック、ザック、ザック……
ザック、ザック、ザック、ザック……
「いや、無いけど、そんなことわざ!?」
「『クリームシチューが美味い』でしたっけ?」
「いつ使うの、そのことわざ!? つか、どういう意味!?」
『坊主が高速を飛ばせばクリームシチューが美味い』
坊主関係ねぇじゃねぇかよ!?
「エルセ。お前はちょっとことわざを知らな過ぎるぞ!」
「そんなことないですよ。全部覚えましたもん」
「もう、それが嘘じゃん!」
「信じられないっていうなら、テストでもなんでもしてみてくださいよ」
「いいだろう。俺が言うことわざの後に続く言葉を答えてみろ」
「いいでしょう! 受けて立ちましょう!」
「じゃあ……『犬も歩けば』?」
「『坊主が憎い』!」
「坊主、とばっちりだわ!」
なんの関係もないじゃん、坊主!
「『坊主百まで恨み忘れず』でしたっけ?」
「ヤな坊主だな、そいつ!?」
「なんか、そんなのありましたよね?」
「そんなのはないけどな!」
「ほら、あれですよ。『坊主が憎い、今朝から憎い』!」
「何されたんだよ、今朝、坊主に!」
「『安西先生……坊主が、憎いです……』」
「言われた安西先生が対処に困るよ!」
「とりあえず、坊主は憎いんですよね?」
「どんな覚え方してんだよ!? で、俺が聞いてるのはそれじゃないことわざだから! 『犬も歩けば』?」
「『坊主は走る』!」
「張り合うな、坊主っ!」
……ダメだ。
こいつに何かを教えるとか、そんなのもはや無理なんだ……
墓地にいるからなんだろうな。思考が坊主から離れられなくなってやがるんだろう。
俺は言いようもない脱力感に襲われてぐったりと肩を落とした。
あぁ、もうなんか疲れた……
ザック、ザック、ザザック、ザック……
ザック、ザック、ザザザック、ザザック……
ザック、ザザック、ザザック、ザザザザック……
――っ!?
足音が……増えてるっ!?
「誰かいるぞっ!?」
咄嗟に後ろを振り返ると――
「ぉぁぁぁああああっあああっ!」
「「「ぎゃあああああっ!」」」
無数の骸骨が俺たちの後ろを付いてきていた。
悲鳴を上げたのは、俺とエルセと、スティナだった。
……なんだよ、スティナ。お前も怖かったんじゃん。
「みんな、戦闘の準備じゃっ!」
ただ一人冷静な、頼れる大魔法使いニコ。
お前がいてくれてよかったよ、マジでっ!
ニコの声に我を取り戻し、俺たちは戦闘態勢に入った。




