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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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20話 大魔法使いの過去と事情

「ニコさん、凄いです! ゴリラがペコペコしてましたね!」


 ひれ伏したゴリラのそばへニコを連れて行き、虎の威を借りて「どうだっ!」みたいなドヤ顔でふんぞり返っていたエルセが興奮気味に鼻息を「すぴー」と鳴らす。……小せぇな、こいつ。


「ニコってそんなに凄い人物なの? おっぱい以外はそういう風には見えないのだけれど」

「こりゃ! スティナよ、女子がそういう話をしてはいかんのじゃ」

「いや、でも実際、相当なものよね、それ。男なら誰もが揉んでみたいと思う逸品よ。ねぇ、コーシ?」

「なんでそんなパス寄越してくるの? 俺に恨みでもあんの? うわぁ、ありそうだな、お前のその顔!?」


 ニヤリとほくそ笑むスティナと、恥ずかしそうに胸を隠すニコ。そして、「わたしはどういう顔をすればいいんでしょう? とりあえず勝ち誇っておきましょう!」みたいな感じでドヤ顔をさらすエルセ。一人ずつ順にデコピンしてやりてぇ。エルセだけ二発。


「ワシはシムの街で少しばかり名が知られておるからのぅ……。無謀なことをして人生を棒に振った愚かな天才としての」

「でもでも、ゴリ番は凄く敬ってましたよ? 尊敬されてそうでしたけど?」

「あれは畏怖の念じゃの。ワシを怒らせると何をされるか分かったもんじゃない……という感情の表れじゃろう」


 少し寂しそうにニコは自嘲的な笑みを浮かべる。


「ステータスを見せてはくれないかしら? 単純に興味があるわ」

「構わんが、面白いもんでもないぞぃ?」


 そう言って差し出された冒険者カードを俺たちは三人揃って覗き込んだ。



『 名前 :ニコラコプールールー

  職業:大魔法使い

  レベル:成長途上

  HP:凡人クラス(魔法補正・可)

  MP:枯渇

  力:非力(魔法補正・可)

  体力:か弱い

  知能:比類する者なき叡智

  素早さ:枯渇

  幸運:求め過ぎなければ吉       』



「なんかすげぇ!?」

「いやいや。そうでもないんじゃよ、コーしゃま。実は知能だけが抜きんでておるだけで、まだまだレベルは低いのじゃ」

「ニコさんはお利口さんなんですね」

「そんなレベルじゃねぇだろ、これ!?」


 なんだよ、『比類する者なき叡智』って!?

 下手したら魔王レベルとか、それ以上かもしれない表現だぞ、これ。


「でも、MPの『枯渇』っていうのが侘しいわね」

「黙れ、MP『腐』っ!」


 お前はニコの何についても意見する資格なんぞない。


「凄いんだな、ニコは。正直ビックリしたぞ」

「むふふ……コーしゃまに褒められると、なんだかくすぐったいのじゃ」


 ウチのパーティ唯一の戦力だ。


「でも、MPが枯渇した魔法使いって使いどころあるのかしら?」

「黙れって、腐った聖職者」


 お前は人のことをどうこう言う前に自分の性格をもう一度見直せよ。


「コーシ。あなたの言いたいことはよく分かるわ」


 珍しく恨み言も呟かず、涼しい表情でスティナが言う。


「つまるところ、大きなおっぱいが最強なんでしょう?」

「詰まってんのはお前の脳の血管か何かなんじゃないのか?」


 なぁ知ってる?

 お前がパーティに入ってからおっぱい発言倍増してんだよね。パーティまで汚染すんじゃねぇよ。


「実を言うとの」


 と、ニコが話を始める。

 頬が微かに赤いところを見ると、あまりに褒められ過ぎてくすぐったいのかもしれない。

 話題を変えたいという意図が見て取れた。


「この先の墓地におる魔獣なんじゃが……以前より退治してやろうとは思っておったんじゃ。じゃが、ワシ一人ではそこにたどり着く前に魔力が枯渇してしまうからの。これまで放置しておったんじゃ」

「他の冒険者はなんで退治しに行かないんですかね?」

「そうね。こんなに街に近いのに放置しているなんて……怠慢ね」

「その魔獣には物理攻撃が効かんのじゃよ。ほれ、今のシムの街には魔法使いが少ないからのぅ」


 なんて致命的な欠陥を抱えた街なんだ。

 魔法に長けた者がいないから、こんな徒歩圏内に強力な魔獣が棲みついているってのに放置していたのか。


「まぁ、その魔獣自体が大人しい部類に入る魔獣じゃからの。テリトリーに立ち入る者には容赦なく襲いかかるが、そうでなければ墓地から出てくることはないんじゃ」

「それじゃあ、このままずっと放置しておいてもいいわけね」

「そうもいかんのじゃ。なにせ、墓地に入れば襲われるからの。死者の埋葬が出来んのじゃ。街に死体を置いておくと、街の中でアンデッド化してしまう危険があるからの」


 何それ、超怖いっ!?

 ニコによれば、この世界の死体は魔力に反応してアンデッド化してしまうことが多いらしい。

 だから、墓地は街の中には作らず門の外に作るのだとか。そして遺族は形見の品を故人の象徴として拝んだりするのだそうだ。


「それでギルド長直々に、ワシが出来る時にでいいから退治しておいてくれと頼まれておっての」

「……腕試しのレベル超えてるじゃねぇかよ、それ」

「大丈夫じゃ。コーしゃまなら余裕なのじゃ」

「やめてくれる、その根拠のない無茶な期待……」


 魔法使いになってからこっち、充電器として以外活躍していない俺にどうこう出来る相手だとはとても思えない。


「それにしても、魔力の枯渇を知りながらニコに丸投げなんて……やっぱり怠慢だとしか言いようがないわね、冒険者ギルドは」


 シスターとしての正義感なのか、スティナはギルドのやり方に不満を抱いているようだ。


「まぁ、他にも退治せねばいかん魔獣も仰山おるしのぅ。大人しい魔獣は後回し……ほれ、触らぬ神になんとやらと言うじゃろう?」

「あ、知ってますよ! 『触らぬ神にサンポール』ですよね!」

「なに漂白しようとしてんの!?」

「あれ? 『仏の顔にサンポール』でしたっけ?」

「だから、神仏をトイレ扱いするなよ!」


 お前の中でことわざがごっちゃになり過ぎてんだよ!

 ちょっと黙っててくれるかな?


「転移者の二人と、長く学院に入っておったスティナは知らんじゃろうが、ワシのこの体質が広く知れ渡ってしもぅた時期があっての……以降、魔法使いになろうという者がいなくなってしまったんじゃ」


 魔力が枯渇すれば老化してしまう。それを目の当たりにすれば、誰だって尻ごみをするだろう。


「まぁ、元々さほど人気のある職業ではなかったがの。ワシの噂がトドメとなったわけじゃ」


 またしても、自嘲気味な笑みを浮かべるニコ。

 ……だから、こいつは魔法使いのいないシムの街で魔導書の店を開いていたのか。

 魔導師になるヤツが激減し、それによって魔導書を扱う店がどんどん潰れていく……そうすれば、やがてこの街から魔法という技術が消失してしまう…………そうならないように、ニコは客も来ないあんな魔導書屋をやり続けているのだろう。

 魔導師が減ったのは自分のせいだと、思い込んで……


「そんな噂が流れたにもかかわらず、ゴリ番はニコを様付けで呼んだ」


 ニコの自嘲気味な笑顔が堪らなくて……


「それってつまり、お前の功績がそれを上回るくらい凄いってことだろう?」


 そんなことを言ってニコの頭を撫でた。

 まるで、自分のすべてを否定しようとしているような、そんな顔をさせないために。


「俺は、やっぱり凄いと思うぞ、お前のこと」

「コーしゃま……」


 頭を撫でる俺の手に、ニコの小さな手が触れる。


「…………くふっ。コーしゃまは少し心配性過ぎるのじゃ。……けど、ありがとうなのじゃ」


 照れくさそうに呟いて、そして、ニコは俺に笑みを向ける。

 少女のような真っ直ぐで可愛らしい笑みを。


 そうそう。

 お前はそんな風に笑っている方が似合ってると思うぞ。


「コーシ」

「コーシさん」


 ニコを撫でる俺を、スティナとエルセが見つめている。

 曇りのない目で、真っ直ぐに。


「「おっぱい贔屓はほどほどに」」

「ちゃんと見てた、ここまでの一連!?」


 前言撤回!

 こいつらの目は曇りまくってるようだ!


 そんな感じで数十分ほど歩いた頃、前方に墓地が見えてきた。

 そこはなんだか、とてもおどろおどろしい雰囲気に包まれていた…………正直、行きたくないって思っちまうくらいにな。






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