15話 ルール違反には神罰を
「さぁさ、れっつらご~なのじゃっ☆」
なんともお婆ちゃん臭さが染みついた言い回しでニコが腕を振り上げる。
「なぁ……お前は実際いくつなんだ?」
出会った時は、寿命が閉店セールでもしているのかと思うような年齢だったが、今は関係各所から届いた花飾りが玄関先に飾られているオープン記念みたいな年齢だ。
総じて年齢不詳。
弾むようなしゃべり方ながらも、お婆ちゃん口調のロリ巨乳……謎だ。
年齢が一桁でも三桁でも、俺は驚かないぞ。
「ワシは、十四歳じゃ」
「それは想像してなかったかな!?」
十四!?
なんだろう、その下過ぎないけれど「結構、ギリ?」みたいな絶妙な年齢は!?
どっちかに振りきれているのかと思ったら、割とまともな年齢だった。
普通なことに驚きだ。
「す、数年後には、コーしゃまとお似合いのメオ……カップルになれるような年齢じゃっ……きゃっ!」
今こいつ、夫婦って言いかけたよな?
……なんか、近所に住む幼女に懐かれてる気分だ。
「ところで、ストライクゾーン・広蔵さん」
「誰だ、それは!?」
どこの国の残念な人だよ!?
俺のストライクゾーンは十四歳の可愛い妹系から、二十九歳のオトナな女性までで…………あ、でも、三十オーバーの妖艶なお姉さまも悪くないか…………あぁ、くそっ! 割と広い自分のストライクゾーンが恨めしいっ!
「ニコさんが仲間になるなら、この店の魔導書でいいヤツを根こそぎ譲ってもらえばいいんじゃないですか?」
「お前、サラッと凄いこと言うね。面の皮が水族館の水槽くらい厚いんじゃねぇの?」
平気な顔してたかり始めやがった。
いや、そうしてもらえるとすげぇ助かるけどさ。
「申し訳ないが、それは無理なんじゃ」
まぁ、ニコにも生活があるしな。
「この街の魔導書や武器、防具などは、ギルドの許可がない場所での売買が出来んのじゃ」
ニコの説明によれば、この街の商店は皆登録制で、特定の場所以外での売買が禁止されているらしい。
「おぬしら転移者には、あまり馴染みのないシステムなんじゃろう?」
「え…………分かるのか?」
「いっひっひっ。ワシを誰だと思っておるのじゃ。見れば分かるのじゃ☆」
大魔法使いは伊達じゃない……ってことか。
見た目は小学生のロリ巨乳だけども。
「この世界の物には、魔力が込められておるものが多くある。禁止されるのはそれらの物で、パンなどの魔力が含まれないものの売買は可能じゃ。ちなみに、譲渡も売買に抵触するから、あまり行わん方が身のためじゃ」
「戦闘中に剣が折れたから貸してくれ……とかもダメなのか」
「そういう場合は『お目こぼし』がある時があるのじゃ」
……よく分からんな。
「誰が判断してんだよ、そんなもん?」
「女神様じゃ」
女神と来たか……
オーデンの関係者か? と、エルセを見るも、エルセは「知りません」とばかりに首を振る。
じゃあ、この世界の女神ってことか。
そういや、冒険者ギルドの受付のアイザさんが「冒険者は、女神様の恩恵を受けられる職業に就く」とか言ってたっけ?
全人類を監視してんのか? 暇だな、おい。
「例えばその魔導書。コーしゃまは開けられんかったじゃろ? そういうことが、様々な場面で起こるのじゃ」
言いながら、俺の持つ『サンクチュアリー・ベール』を指さす。
実を言うと、お楽しみBOXから引いた魔導書の中で、これだけが俺には開けることが出来なかったのだ。
なんでも、魔力と知力がこの魔法を使用するために必要なレベルに達していないと、魔導書は開けられないらしい。
要するに、今の俺には使えない魔法ってわけだ。
「それからの……」
さらにニコの説明は続く。
曰く、ダンジョンなどで拾ったアイテムも『鑑定』をしなければ本来の効果が発揮出来ないのだとか。……心底ゲームだな。鑑定しなくても見りゃ分かんじゃねぇのか?
魔導書『サンクチュアリー・ベール』を眺めてみる。表紙に名前が書いてあるし、鑑定の必要などなさそうだ。
「ちなみに、コレが鑑定前のアイテムじゃ」
と、ニコが差し出してきたのは、全体に黒いもやがかかり、なんともおどろおどろしい様相の本だった。……え、なにこれ? ちょっと怖い。
「呪いがかかっているかもしれんから、この状態では使えんのじゃ。まして、それを許可なく売買などしたら、不幸な事故が多発してしまうじゃろ?」
「それで禁止なのか?」
「ちなみに、規則を破るとどうなるんですか?」
規則を破る気満々のエルセが食いつく。……お前なぁ。
「では、この金貨をやるから、店の外でコーしゃまからその魔導書を買ってみるがよぃ」
店以外での売買は金貨に頼る必要がある。冒険者カードでの売買は、ギルド加盟店のみで可能なのだ。
そんなわけで、金貨を受け取り、いまだ未使用の『サンクチュアリー・ベール』を店の外で売買してみる。
一体、どんなことが起こるのか…………まぁ何も起こんないだろ、たぶん。
店を出て、俺は魔導書とエルセの差し出す金貨を交換した。
瞬間――
「ぎゃぁぁああっ!?」
「ぅにゃぁぁあっ!?」
俺とエルセの全身に激しい電流が流れた。
大慌てで金貨と魔導書を交換し直す。……と、嘘のように電流は止まった。
……えぇ……なにこれ…………
「これが、規則破りの違反者に科せられる『神罰』じゃ。女神様は常にワシらを見ておられる。悪いことをしようなどとは、ゆめゆめ思わんことじゃな」
……くそ。最初に言えよ、そういうことは。
つか、俺は割と「やるな」と言われたことはやらない方なんだよ。
あぁ、腕がだるい。
つくづくゲームだな、この世界は。
「あ、あの……コーシさん」
藪を突きまくってヤマタノオロチを出す女・エルセが怪訝な表情を俺に向ける。
なんだよ。今度はどんなはた迷惑なことを口にする気だ?
「腰に、女の子が付いてますよ?」
「そんな、『肩にゴミが~』みたいなこと……」
言われて視線を落とすと――
「もっと……電流をちょうだい……」
――俺の腰に儚げな美少女が抱きついていた。
なに、この人ぉー!?
もう……ホント嫌んなるな、この世界…………おかし過ぎるだろ。俺以外の何もかもが。




