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117話 片道

「どこでもドアー!」

「よし、帰るぞエルセ」

「はい、コーシさん」

「ちょっ! 待て待て待て! マジだから! 大真面目だから!」


 呼ばれてわざわざ出向いてみた結果、凄く似てないモノマネを見せられた。

 上家。ふざけるな。


 ここは、冒険者ギルドが用意した上家の新しい研究室だ。

 壁は、アジトと同じように、超硬質素材で覆われている。

 また、なんか危険な物でも作るつもりなんじゃないだろうな?


 それ以外にも、パッと見では何に使うのか分からないような物がいくつも置かれている。


 その中に、それはあった。

 ドアだけが独立した、馴染みのフォルム。


 どういうことだよ、これ。


「違うんだよ! 作ったんだよ!」

「お前のコスプレは、作品を超え過ぎだ!」


 なぜキテレツのコスプレで、どこでもドアが作れるのか。


「これによく似たヤツをウセロにも渡してたんだが、見たことないか?」

「あぁ、あのでっかい箱か」


 ケルベロスを呼び出していた箱。おそらくあれがそうなのだろう。

 確かに、何もないところから巨大なケルベロスが出現していたな。


「あれは、無理矢理出し入れするために、超強力な吸い込み機能付きなんだ」


 吸い込み機能付きどこでもドア。

 余計な機能を付けんなと言われる電化製品みたいになってんな。


「もっとも、漫画と現実は違う。あんなメルヘンなアイテムは作れない」


 お前は十分現実を無視したアイテムを作りまくってるだろうが。

 からくり武者とか、ファンタジーの産物じゃねぇか。


「行き先は一ヶ所しか設定出来ねぇんだ。指定した行き先への専用通路になるわけだ」

「それでも、十分便利だと思いますよ。会社勤めの頃は、よく『欲しいな~』って思いましたもん」


 こいつは、朝ギリギリまで寝ていたいタイプだからな。

 エルセにどこでもドアなんかを与えたら、始業ギリギリまで寝ているどころか、タイムカードを押した後家に戻って二度寝しそうな勢いだ。


 与えちゃいかんな。ダメ人間になる。


「すまないが、こいつが使えるのはあと一回だけなんだ」

「あと一回?」


 使用制限まであるのか。


「実はな、こいつは途方もなく遠い場所に繋がっていて、何度計算しても一度行ったらエネルギーがキレて壊れてしまうって答えが出てくるんだ」

「片道なんですか? それは、困りますね……」


 難しい表情でエルセはうなる。


「わたしは、行く時よりも、帰りにこそ使いたい派の人間ですので」

「エルセ。お前はもう会社勤めしてないんだから、一回しか使えないアイテムをそんな横着で浪費するな。な?」


 そもそも。このどこでもドアもどきは、すでに行き先が決まっているようだからな。


「どこに繋がってるんだ、このドアは?」

「わたし、分かりましたよ!」


 上家に尋ねたところ、なぜかエルセが答えを返してきた。


「『凄く遠い』というヒントから、このドアで行ける先は…………東京駅の京葉線ホームです!」

「東京駅経由でディズニーランド行く時に『ホーム遠いなぁ』って思うけども!」


 そんなあるあるネタはどうでもいいんだ!

 真面目に答える気がないなら黙っていろ。

 俺は本当の回答を求めて上家を見た。すると――


「女神様………………正解だ!」

「正解なのかよ!? とりあえず京葉線関連の人に謝れ!」


 凄く遠いって……実際行ってみたらそれほどでもねぇわ! と、フォローをしておきつつ、上家の表情がいたって真剣なことに気が付き、口を閉じた。


 あれ? 真面目な雰囲気だぞ?


「こいつは、東京駅、京葉線のホームに繋がっている」

「え……マジで、なのか?」

「あぁ。マジでだ」

「それって、つまり……」


 冷静になって考えようと思えば思うほど、頭の中がこんがらがっていく。

 なんだ、この感じ?

 夢の中で、走りたいのに体が全然動かない時のもどかしさに似た、焦燥感を覚える。


 俺の頭が整理されないうちに、上家が、これ以上もないくらい分かりやすい言葉で断言する。



「このドアを通れば、日本へ帰れんだよ」



 え……それって、マジで?


 エルセを見ると、アホ丸出しな驚き顔でこちらを見ていた。

 俺も、似たような顔をしているのだろうか。


 まったく思ってもいないタイミングで、思っても見ないところからではあるが。



 俺は、日本へ帰る手段を手に入れた。







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