115話 報奨金の使い道
報奨金はたんまりともらえた。
街を脅かしていた盗賊団を壊滅させたということで、相応の報奨金が振り込まれていた。
とはいえ、こちらでの名誉はランクの方にあるらしく、命がけの割には割安かもな……という値段ではあったが。
これだけ大幅にランクアップしたのだから十分だろう。という判断らしい。
具体的には、一人当たり10万Mbずつ振り込まれていた。
10万……大金だ。
高校の合間にバイトして、一ヶ月で稼げれば諸手を挙げて喜ぶ金額だ。
正直、にやにやが止まらない。
親がやってくれていた定期預金を除けば、俺の口座に10万なんて金額が入っているのは初めてだ。
これが『円』ではなく『Mb』だってのが少し寂しくもあるが、価値は同じだ。
何より、ここでは『Mb』が流通しているのだし、むしろ『円』でなくてよかったと思うべきなのか。
……もう、『円』を使うことも、ないかもしれないな。
「…………」
あれ。
なんだかしんみりしてしまった。
なぁに、大丈夫だ。
エルセのマイナスポイントさえ返上すれば、俺はまた日本に帰ることが出来るのだ。
上家を改心させることだって出来たんだし、不可能なことではない。
何より、俺のレベルも上がってきたし。うん。きっと大丈夫だ。
ただ、何年先になるかは、分からないけどな。
「……一人で買い物に来ててよかった」
こんなしみったれた顔、誰にも見せられないからな
というわけで。
買い物のセンスが壊滅的なウチのパーティメンバーとは離れ、俺は一人で市場に来ていた。
カチヤの露天商を覗いた後は、ぷらぷらと他の露店を眺めて歩き回っている。
10万Mbもあるんだ。装備を一新することも出来るし、ニコの店で魔導書を買い漁ることも出来る。
……なのだが。
どうにも買い物に身が入らない。
その原因はおそらく、古代魔法だろう。
あんな強烈な魔法を手に入れた後だから、それ以外の『お楽しみBOX』に入っているような魔法に興味が湧かないのだ。
ニコも――
「コーしゃまなら、もしかしたらとんでもない使い方を編み出すやもしれんが……あんまりお勧めは出来んかのぅ。今のコーしゃまに必要な物があるようには思えんのじゃ」
――と、言っていたし。
でもまぁ、『サンクチュアリ・ベール』のような掘り出し物が、無いとは言えないのだが、それよりも、古代魔法を探した方がお得な気がする。
古代魔法は、タダだからな。
装備にしても、結局俺は杖をほとんど使っていなし……どころか、『闇の組織』討伐の際は持ってすらいっていない。……いや、荷物になりそうだったから。
あんまり向いてないのかもしれない。武器とか。
装備にしても、今の服を気に入っているし…………ヤバい。エルセたちの買い物下手が伝染したかもしれない。
元来、不要な物は買わない、アンチ無駄遣いな俺ではあるが……命に関わることだというのに、装備品に心ひかれないのだ。
何軒か防具屋を見て回ったのだが、ピンと来るものはなかった。
金があるのに使えない。
いや、むしろ大金を手にしたからこそ使えなくなったのかもしれない。
すなわち。
「使うと減る」
そんな感情が働いているのかも、しれない。
キリのいい数字を崩したくないと思ってしまうのは、人間の性かもしれないな。
まぁ、今すぐ使う必要もない。
いざという時のために貯金しておけばいいのだ。
「よし! そうしよう!」
大きなクエストを終えた直後の冒険者としては、ちょっとどうかという思考なのかもしれないが、俺は堅実に生きることにする。
――と、考えた途端。そいつらは現れた。
「もっふもふもふ~!」
「にゃぁぁあー! もふらがまた逃げ出しましたぁー! 誰か捕まえてくださ~い!」
「エルセ、通行人に無理難題を押しつけてはいけないわ」
「にゃあ~! なんで逃げるんですかぁ~!?」
「そりゃ逃げるのじゃ、あんな大きな生き物が走ってきたらっ」
「もっふもふ~!」
「止まってくださ~い! もふらぁぁああ~!」
脱走もふらを追いかけるエルセ、スティナ、ニコ。
そして、逃げ惑う人々…………
…………うん。決めた。
「この10万Mbでもふらの小屋をグレードアップさせよう!」
堅実とはほど遠いが……あいつが二度と脱走しないようにしなくては。
飼い主の責任だ。
……いや、飼い主はエルセなんだが、エルセがあの体たらくなので俺が責任を取らなきゃなぁって………………ってことは、俺がエルセの飼い主か? ……はは、笑えねぇ。
酷い脱力感に包まれて、俺は腕のいい大工を求めて街を歩いた。
その脱力感の隣に、ほんのちょっとの使命感を添えて。