103話 からくり武者の誕生
マグロ頭のマグ。
カツオ頭のイソ。
イカ頭のゲソ。
ハリセンボン頭のボン。
アンコウ頭のチョー。
エビ頭のエビ。
以上、新鮮組七名のウチ六名は無事戦闘不能に陥った。
だが……
「グレイス並みに強いっていうのか、あのイワシ……」
「イワシ言うなしっ! まじウケる!」
どこにウケてんのか一切分からないけれど……
「本当なのかしら? 一切強そうに見えないのだけれど」
「そうじゃのぅ。イワシじゃからのぅ」
「むしろ、ちょっと美味しそうに見えますよね!」
いや、エルセ。あんなんでも、一応この世界の人間だから。
それ、すげぇ太った人の網タイツ見て「ハム食べたい」っていうのと同じくらい失礼だから。
「あ、そういえば。わたし、前にすっごく太った女の人の網タイツ見て『ハムみたいで美味しそうだなぁ~』って言ったらすっごく怒られたことがあるんですよぉ」
あるのかよ!?
お前どこまで残念街道まっしぐらなの!?
「「あぁ、あるある」のじゃ」
お前らもあるの!? ニコまで!?
百歩譲ってスティナは分かるとしても、ニコまでも!?
「バカか、テメェら」
こんな状況にもかかわらずおしゃべりをするエルセたちに、上家が悪態をつく。
「ハムに使うのはミンチ肉だ。肉をそのまま縛って作るのはチャーシューだ!」
「どうでもいいな、そこ!?」
なんのこだわりだよ!?
チャーシューもハムも似たようなもんだわ、俺に言わせりゃ!
「残念ね……ミンチを使うのはソーセージよ」
「なっ!? ……そ、そうか……オレは…………なんて過ちを……っ!?」
「だからどうでもいいんだ、そこら辺!?」
ハムとかソーセージの作り方、いちいち覚えてないから! 覚えておく必要もないから!
「スティナさんも上家さんも、ハムもソーセージも自然界の与えた偉大な産物なんですよ? あれは人間の手で生み出されたものではありません」
「よし。エルセが料理を全く出来ないのは分かったから、黙ってろ」
「え、でも、アレって牛とか豚の体の一部ですよね?」
「お前、あのままの部位があると思ってるの!? 切り出したまんまであの状態だと思ってる?」
「だって、焼肉屋にありましたもん」
「それ言ったら、オレンジシャーベットだって焼肉屋にあるんだから、牛の一部になっちまうだろ!?」
「あははっ、コーシさん、なに言ってんですか? 頭がちょ~っと残念なんですね」
「お前に言われたかねぇわ!」
「たぶんですけど、脇腹あたりに『ぶりんっ!』ってついてるんですよ、ハム」
「そんな気持ち悪い動物見たことねぇよ!」
「これだから都会者は……」
「田舎の人も見たことねぇよ!」
こいつのこの自信はどこから来るんだ?
なんでそんなに自分を疑わないの!?
「……そうか、ハムって、脇腹の肉なんだ…………」
「違うぞ上家!? 信じるな、こんな与太話!」
あぁ、もう! なんだかお前の将来が不安になってきたよ!
「あなたたち。今は戦闘中よ。いつまで遊んでいるつもり?」
「元はといえば、お前がイワシがどうのこうのと言い出して始まった脱線なんだよ!?」
「失礼ね! 戦犯はエルセでしょう?」
「戦犯はエルセだが、発端はお前なの!」
もう、一回全員黙っててくれ!
「テメェら、無視するなしっ! まじウケるし!」
向こうでワッシーがご立腹だ。……が、あいつもしかして、「まじウケる」の使い方分かってないんじゃないだろうか?
「まぁ、そう荒れるなよワッシー」
ウセロがワッシーの肩に手を置き……そしてからくりソードのツバに触れる。
「……ホモかしら?」
まぁ、肩に手を置いて、もう片方を手の甲に添えたりしたら、ちょっと「え、そうなの?」って思っちゃうよな。
「つか、スティナはそういうの好きなのか? やけに目敏かったけど……」
「は? 何を言っているの? 男同士でイチャコラしているのを見て何が楽しいのかしら?」
あ、スティナはそっちじゃない感じなんだな。
あくまで、自分がイケメンにドキドキさせられたい方のタイプか。……ほっ。
なんて俺が安堵していると、突然上家が血相を変えて叫び出した。
「はっ!? ダ、ダメだぜ、ウセロさん! それ以上は危険だ!」
「……修羅場かしら?」
……違うっつう割には、いちいち食いつくんだよな…………予備軍か?
「あの、上家さん。何をそんなに慌てて……?」
「お前ら逃げろ! とんでもないバケモノが誕生するぞ!」
バケモノ?
「うゎぁああああっ!? まじウケるしっ!」
その直後、ワッシーの悲鳴が響き、……室内の温度が急激に下がった。
それは錯覚だったのかもしれないが……ゾクッ……と、全身を嫌な悪寒が走った。
寒気がするのに汗が噴き出す。
そして、無機質な音が断続的に鳴り響き…………
「からくり武者が誕生しちまうっ!」
上家の言葉を聞いて、嫌な予感が脳みそいっぱいに広がり……そしてそれは的中してしまう。
「なんだし!? これ、まじウケるし!?」
ワッシーの持っていたからくりソードに、他の新鮮組が持っていた六本のからくりソードが吸収されていく。融合、合体、変形を繰り返し――
ついにそれはワッシーを包み込んで全身鎧へと姿を変えた。
身長2メートルにも及ぶ巨大な鎧武者の目が白銀色に輝く。
「――マジウケルシッ!」
電子音のような声が爆音で再生される。
からくりソードがワッシーをのみ込んで、からくり兵士になりやがった。
いや、さっき倒したからくり兵士なんかよりももっとヤバい。直感がそう告げている。
「新鮮組随一の剣術を誇るワッシーを母体としたからくり武者だ! テメェら……一人残らずぶっ殺してやるから、そのつもりでヨロシクッ!」
ウセロが大口を開けて笑い出す。
……こいつは、ちょっとシャレにならない相手っぽいぞ。
どうする?