104話 敵か味方か
「ウセロさん、何やってんだよ、あんた!?」
上家が怒号を飛ばす。
それは、真に非難のこもった怒りの声。
「からくりソードの緊急装置は、仲間が全滅の危機に瀕した際にのみ使うようにって言っておいたろうが!」
「なぁに、心配すんじゃねぇよ。ワッシーのヤツも了承済みだ。なぁ?」
「――マジウケルシッ!」
「……ほらみろよ」
「からくり武者は同じ言葉しか喋れねぇんだよ!」
「あれ? そうだったっけか? ぐくく……」
上家の顔色が青ざめていく。
ウセロの嘘に疑問を抱き始めたのか。
「勘違いすんじゃねぇよジョーカー。これ全部、市民のためなんだぜ?」
だが、こんな場面でもウセロは平然と嘘を吐く。
「ここにいるのは、悪名高い冒険者ギルドのギルド長と、悪魔と呼ばれた大魔法使いニコラコプールールー。そして……オレらを散々コケにしやがったそこのクソ野郎だ!」
クソ野郎をシムの街のトップツーに並べんじゃねぇよ。
「今しかねぇんだよ。今やらなきゃ、また何万、何十万って市民がギルドに惨殺されるんだぜ?」
「出鱈目を抜かすな、このブタ男!」
「ブルドッグだよ!」
グレイスとウセロが睨み合う。
ギルドが惨殺……こいつの嘘はどこまでエスカレートしているんだ?
上家が疑問を抱く度により大袈裟な嘘を重ね、どんどん大袈裟になってしまったのだろう。
「とにかく、こいつらはここで殺さなきゃいけねぇんだ! ジョーカーは心配しねぇでそこで見てろって!」
にやりと歪んだウセロの顔を見て、上家が微かに肩を震わせた。
「……こいつらを始末した後で、また平和のためにいろいろアイテムを作ってくれよ? な? オレたちで、この街を守ろうぜ……ジョーカー……」
べろりと、長い舌で鼻を舐めるウセロ。
その様は、ご馳走を目の前にした獣そのものだった。
「け、けどよぉ…………なぁ、リーダー!? からくり武者は使用者の体に相当な負荷がかかるから、本当の本当に危険な時にだけ使う奥の手だって約束したじゃねぇかよ!」
「大丈夫だよ、ジョーカー! ワッシーも日頃から鍛えてんだ。ちょっとやそっとじゃ壊れやしねぇ」
「そういう問題じゃ……っ!」
「それに……もし壊れちまったら、また別のヤツを連れてくりゃいいじゃねぇか」
「…………なっ」
「仲間は、たくさんいるんだからよぉ」
爛々と光るウセロの目に、初めて恐怖を覚えた。
こいつ……どこかが壊れてやがる。
命の重さをまるで理解していない。
「さぁ、行け、ワッシー! 全力であいつらをぶち殺せ! 皆殺しだ!」
「――マジウケルシッ!」
重厚な鎧を身に纏った身長2メートルものからくり武者が爆音とともに姿を消す。
次の瞬間、思ってもみない方向から耳を劈くような金属音が鳴り響く。
咄嗟に視線を向けると、からくり武者の刀をグレイスが剣で受け止めていた。
速い……肉眼で追えない速度で動くのか、あいつは……
「くっ! ……なんて馬鹿力だっ!」
しかも、グレイスが押されている。
「――刻の番人……嘆きの門番……冥界よりの使者…………深淵の……」
「――マジウケルシッ!」
「ぅにゃぁあっ!?」
「ニコッ!?」
グレイスの加勢をしようと、ニコが詠唱を始めた途端、からくり武者がニコに向かって刀を一振りした。
その刃先から白刃が飛来し、爆風となってニコをのみ込む。
『サンクチュアリ・ベール』に守られつつも、ニコの小さい体は吹き飛ばされ、詠唱は中断させられてしまった。
「いいぞいいぞ! 殺せぇ!」
ただ一人、安全な場所で奇声を上げて踊るウセロ。
からくり武者はあいつの言うことを忠実に聞くのか?
反乱でも起こしてくれりゃ、こちらに勝機もありそうなんだが……
「淡い期待なんざ抱くんじゃねぇぞ……からくり武者は主君に忠義を尽くすように設計されている」
上家が自分からそんなことを教えてくれる。
「主君ってのは?」
「決まってんだろ…………リーダーだ」
つまり、どんな状況になろうとも、からくり武者の謀反はあり得ないってわけか。
たとえ……あいつがどんなクズであっても。
「全力でやれワッシー! それでテメェが壊れても、そりゃテメェの鍛錬不足だ! 手加減抜きで、全力で暴れ続けろ!」
……あんな酷い言葉を浴びせかけられても、だ。
「なぁ……」
消え入りそうな小さな声が俺を呼ぶ。
唇を噛み締め、苦しそうな表情をこちらに向ける上家。
その口から発せられた言葉には、どこか縋るようなニュアンスが込められていた。
「……どっちの言うことが正しいんだよ? 本当は……どっちが悪者なんだ……っ?」
がっちりとした体に強面の男が、目にうっすらと涙を浮かべて、懇願するようにそんな言葉を吐く。
そんなもん……
「自分の目で見て確かめろよ」
誰かに教わるようなもんじゃねぇだろ。
それくらい、ガキの頃にちゃんと学習しときやがれ!
「エルセ、スティナ! お前らは無茶をするなよ!」
「はい! そこそこにしておきます!」
「安心なさい。私の辞書に『無茶』という言葉はないわ」
……はは。お前ららしいっちゃらしいけどさ…………
俺が頑張るしかないよな、この場合!
「喰らえっ! ――なんだよぉ、こっち見んなよぉ――」
魔力を目一杯注ぎ込んで……
「砂かけっ!」
爆風に乗ってこぶし大の『砂粒』がからくり武者に襲いかかる。
無数の『砂粒』による一斉攻撃だ! かわす術はないだろう!?
そう高をくくっていたのだが――
「――マジウケルシッ!」
「なにっ!?」
からくり武者は飛来するすべての『砂粒』を刀で打ち返しやがった。
「ヤバイ! 逃げろ!」
「逃げろって、どこにですかぁ!?」
「コーシ、あなた、なんてことを……きゃぁああああっ!?」
吹き荒ぶ暴風に逆らうように打ち返された『砂粒』は、幾分速度は落としたものの、俺たちに回避出来るような生易しいものではなかった。
逃げ場のない広範囲に岩つぶてが降り注ぐ。
「くっ!」
どうしようもなく、無駄だと分かりつつも俺は頭を押さえて体を丸めた。
そんな俺の体に岩つぶてが…………当たらない?
「……しょうがねぇから、助けてやるよ」
顔を上げると、上家が俺の前にいて、サランラップのような透明度を持つバリアー的なものを張ってくれていた。
「こいつは一人用だ。かなり無茶をして二人分に拡張している。……長くはもたねぇぞ」
「……なんで?」
「ちっ……」
くだらないことを聞くなとでも言いたげな上家。
だが、言葉短めに理由を教えてくれた。
「お前らは、敵であろうと殺そうとはしなかった。けど、リーダーは……ウセロは、お前らを殺そうとした…………そういうことだ」
こいつは、こいつなりに両者を見て…………そういう答えを出したらしい。
「見極めさせてもらうぞ、お前らのこと」
「あぁ。しっかり見とけ」
上家を説得、出来るかもしれない。
「はっ!? そうだ、あいつらは!」
慌ててバリアー的なものの外へ視線を向けると……
「見て! 見て見て! 見なさいよ、エルセ! 『サンクチュアリ・ベール』よ!? 私もちゃんと大切に思われていたのよ! それはそうよね!? そうだと思っていたわ! でも、折角だからもっと見なさい! 見てもいいから!」
スティナが物凄く嬉しそうにくるくると踊っていた。
踊るスティナに見るエルセ……
二人とも、全身が薄く輝いていて……ちゃんと『サンクチュアリ・ベール』が発動しているようだった。




