忘却神
「キャス、忘却神というのはなんだ! 敵なのか?」
マルスが叫ぶ。
「忘却神はね、その昔バルロッサ魔道王国とレドナクセラ帝国の戦いがあった頃にも一度だけ現れたんだーーー」
キャスは説明をするように過去を話し出す。
忘却神は全部で4人存在し、それぞれ恐怖、破壊、血、死を司り、世界の終末に現れて全てを無に還そうとすると言い伝えられているそうだ。
そして現れる時は必ず1人ずつ現れ、4人が揃った時、人も魔物も全ての生きとし生けるもの達がいなくなる。無くなるのだそうだ。
そこまで説明をしたところでフリューゲルが口を挟んできた。
「ちょっとそれは違いやがりますねぇ。私達は世界を崩壊はしやがりませんし、全ての生きとし生けるもの達を殺したりもしやがりませんよ。敵対する者以外は。
世界の崩壊を阻止する為に勝手に呼び起こされやがる、まったく傍迷惑な役割なのです」
それが本当ならもう終わったはずだ。にも関わらず未だ居続ける理由は一体何なのか。
その答えは直ぐにセッターが聞いてくれた。
「なら、もうレフィクルは死んだのですから用は無いのですよね?」
「タイムラグでも起こりやがっているのでしょうかねぇ。さっさと眠りにつかせやがれと思うのですがね」
思い返してみれば、確かにフリューゲルは戦場で誰もむやみに殺していなかった。創造神が作り出したのなら邪神では無いんじゃないかと思う。
危険に感じたのは強大すぎる力だった為だったのだろうか?
「そう言うことか」
「驚いた、まだ生きてやがりましたか。だからまだ戻れないと……」
ブッ潰れたはずのレフィクルがそこに立ち上がっていた。ただーーー
「私の聖槌を受けて平然と生きていやがるはずは無いと思いますが……」
「余は拒絶する」
「なるほど、これはしくじりやがりました。既に人では無かったようですね。後はお任せしますよ。私達4騎士は神威またはこれに匹敵する力を持つ者とは戦えませんから」
つまり忘却神のルールなのだろう。神は人を殺せないが忘却神は人を殺せる。だが神は殺せないといったところなのだろう。
そしてレフィクルは先程までとは違い、6枚の黒い羽を生やし、目は赤く爛々と輝き、頭部には雄羊のツノが生えている。
その姿はまるで俺の絵などによるイメージで知る悪魔の王ルシファーのようだった。
「貴様のお陰だ、フリューゲル。そして、貴様にもう用は無い。
ログェヘプレーベ! いい加減戯れは終え、そいつを喰らえ!」
レフィクルがそう言うと フリューゲルがもがき苦しみ始める。
「どうやら私の攻撃で神の力が働いてしまったようです……ね」
おそらくレフィクルが殺した闘争の神の力のことなのだろう。
「貴様が降臨した相手は“堕落”のログェヘプレーベよ。
ナータスもルベズリーブもいつまで寝ている、か?」
レフィクルが手を広げ、何かをまるで引き抜くかのような動作をすると、2人の姿が見えてきた。
「やれやれ、王よ、やっと目覚めましたか?」
ボロボロのローブ姿に深々とフードを被った男がそう言う。あれは紛れもなく先程セッターが戦った相手だ。
「殺す! 殺す! ぶっ殺す! そこの小娘を犯してなぶり殺してやる!」
そして2メートルはあろうかと思われる、ゴリラのような体型の男が姿を見せた。その姿は人間なのかゴリラの獣人なのか区別がつかない。セーラムに敵意が見られる事から、あの時ドラゴンの姿をしていたやつなのだろう。
「あーっはっはっははは! 王よ、お待たせしやがりました」
姿口調自体は変わっていないが、ログェヘプレーベがどうやらフリューゲルを消し去ったのか元に戻ってしまったようだ。
「貴様ら遅いわ! さっさとこいつらを殺し、神を殺しに行くぞ」
たった1人、レフィクルだけだった戦況があっという間にレフィクル、ルベズリーブ、ナータス、ログェヘプレーベの4人になってしまう。しかもレフィクルに至ってはなんかルシファーのようなヤバい姿に変わっている。
それを見て俺は思ってしまう。
フリューゲル、なんの為に出てきたんだよ!事態を悪化させただけだろ!
「すまないサーラ、3人は俺らでなんとかしてみせる。だから、お前は暫くあいつの相手をしてくれ」
「マルス……様、分かりました。ご命令とあれば」
俺はレフィクルを、残る3人ルベズリーブ、ナータス、ログェヘプレーベをマルス、セッター、セーラム、キャスで相手をすることになった。
キャスが詠唱を唱えだし、セッターは分離させた7つ星の剣を従え、セーラムは黄金の鎧と片手それぞれに短槍を2槍紡いで構え、マルスは世界樹で貰ったアルダを構えて突撃をかました。
「さっさとこいつらを倒してサーラと合流だ!」
「接近戦になると僕の魔法も限られるけど、持てる魔法を駆使するよ!」
あっちはあっちで始まったようだ。
俺はレフィクルと対峙し睨み合い膠着している。
「女、向かって来ないのか?」
「では、遠慮なく」
修道士の持てる力全てを込めやってみるしか無い。この世界には無いクラスの力どこまでレフィクルに通じるかは分からないが。
縮地法で接近し思い切り神鉄アダマンティン化させた杖で殴りかかった。
「また、それか。 芸がないな」
手を前に差し出しただけで俺の動きが止められてしまう。
「くっ⁉︎ 動け、ない?」
レフィクルが動けなくなった俺を見つめてくる。
「ふん、それだけの力、美貌、殺してしまうには惜しいな……」
ゾクッと背筋に悪寒が走る。
「な、何をするつもりだ!」
「喜べ、貴様は殺さず余の妾にしてやろう」
うえ、女体化してからこんな事ばっかりじゃないかよ!俺って罪深い女だな、じゃなくて。
「誰がお前の妾になんっ…カハッ!」
「だが、その前に……」
レフィクルの拳が俺の腹部を捉え、物凄い激痛が走る。レフィクルに身動きを封じられている俺は吹き飛ぶ事なく、コの字になって胃の中のものを吐き出してしまう。
「まだまだこの程度で終わりだと思うなよ」
連続で拳が叩き込まれ、次第に意識が遠のきそうになるが、レフィクルの拳が止まる事はない。妾にされるより先に死ねそうだった。
ひとしきり殴られ、力無く項垂れるとレフィクルはやっと手を止めた。
「懇願しろ女、余の妾になると、余の物になると、そうすればこの苦しみから解放されるぞ?」
どうやら俺の心を折り、自ら負けを認めさせ、屈服させるのが狙いのようだ。それはさながら悪魔が人の苦しみから解放されたいと思う弱みにつけ入るかのようだ。
「分かりました……なんて誰が…言うもんか! 戯言は大概にしておけ!」
俺の言動に渋い顔を見せると、表情が一変して怒りを露わにした。
「口汚い女め、ならば殺してやろう!」
レフィクルが腰にあった剣を引き抜く。片手半剣ほどの大きさのその刀身は漆黒で、ルーン文字がビッシリと刻まれ非常に禍々しい。
本能的にあれを喰らったら絶対に死以上の危険を感じ取れる。
「《終末の魔剣》だ。魂は輪廻に帰らず未来永劫続く苦しみの中で足掻くがいい!」
死以上の危険に恐怖を抱いた俺の表情にレフィクルはニヤけ、身動きの取れない俺はまさに窮地に追いやられている状況で、そこから逃れられる術はなさそうだった。
諦めかけたその時だ。
ーーーサハラさん、もう少しあと少しだから、私も手伝います、だから諦めないでーーー
そう聞こえた気がした。いや、気のせいではなくエラウェラリエルが俺の横にいる。
俺は自然均衡の神の代行者で、始原の魔術師だ。エラウェラリエルがニッコリと俺に微笑みかけ手を繋いでくる。一縷の望みに賭け、俺は始原の魔術を行使した。
“俺は自然均衡の代行者”
“あるゆる自然現象を想像し”
“具現化する”
“想像するは雷”
“天空より落ちて”
“俺に仇なす者に突き刺され!”
「喰らえ! 落雷!」
レフィクルの剣が振り下ろされるよりほんの僅か俺の方が早かった。
頭上から雷が落ちレフィクルを貫き、ほんの僅かな瞬間に体が動かせるようになった瞬間にエラウェラリエルが後ろに引っ張ってくれてギリギリのところで躱し、剣の切っ先が俺の体スレスレを切り裂いた。
「グオオオオォォォ! 貴様! その力はスネイヴィルスの始原の力!」
ヴァサァと俺の前が肌蹴るのは同時だった。
今はそれを気にしている暇などない。
ーーーサハラさん、この機会を逃さないでーーー
エラウェラリエルが俺にそう言って頷いた。
「ん〜、つまり4騎士って悪い神様ではなかったってことでいいのかなぁ?」
「フリューゲルから聞く限りじゃそうなるわよね」
「まぁ関係ないさ」
「それよりも、サ・ハ・ラ、愛しのエラウェラリエルが出てきたじゃない」
「う、それもこの後に関わるから無しにしよう」
と言うわけでこの章もあと僅かになりました。長かったレフィクル編も終わりを迎え、次の章は短く終わらせる予定ですので、性に合わない方は次の章まで待ってもらえればと思います。
次回更新ですが、間を頂きまして定時更新日でお願いします。それまでに次の章を書き終えさせたいと思っています。




