悪魔王
スエドムッサ、俺はその名前を知っている。以前ガウシアンに行った時に出会った猫獣人の女性だ。感知に引っかかること無く俺に接近した謎の人物。
暗殺者だったのか。
「そう、ですか。それでは……急がせていただきます!」
「そうはさせません、私では貴女にかなわないかもしれないけれど、せめて時間稼ぎにはなってみせましょう」
セッターとセーラムも加わり、早くスエドムッサを倒してマルス達の元に戻ることにしたようだ。
「加速!」
セーラムが加速の魔法を使いスエドムッサに攻撃を仕掛けると先ほどと違い、その速度に追いつきつつある。そこに俺が加わり、スエドムッサを追い詰めつつあった。
唯一動かずじっと構えて目を瞑るセッターに標的を変え、スエドムッサは高速移動で攻撃に向かう。
「そこだ!」
セッターの声と共に7つ星の剣が振られ、スエドムッサをぶった切った。
こいつ女だろうと敵であればマジで容赦一切しないな。
「な、何故……」
「予測で守りに入った私は負けはしない」
スエドムッサはレフィクルの名を囁くと静かに息を引き取った。
あの時見たスエドムッサは決して悪人には見えなかった。道を間違わなければきっとこんな事にはならなかったんだろう。
「2人共王妃の元に急ぎましょう」
「うん! サーラちゃん」
「マスターはいつまでなりきっているんですか」
「あ……忘れてた。そうだ2人共俺の手を取れ」
よく分かっていなそうな2人の手を掴もうとするとセッターが少しだけ照れたような顔をしたのを俺は見逃さなかった。
魔法により一時的とはいえ女体化して仲間との関係も少しだけ変化が起こっている気がする。イラッときた俺は高速移動で思い切り走る。
セッターの悲鳴のようなものが聞こえ、少しだけ気が紛れそのまま一気にマルス達の元へ向かった。
戦場が見える場所まで戻った俺たちを待ち受けていたものは地獄絵図そのものだった。
空を見上げればゴールドドラゴンが訳のわからないドラゴンと空中戦を繰り広げており、ボロボロのローブを着てフードを深くかぶった人物が敵味方無関係で範囲攻撃魔法をぶっ放し、ほっそりとした男が戦場を歩くだけで兵士達は恐怖で逃げ出している。
そして、いた! 高速移動を繰り返し、まるで通り魔のように殺して回るレフィクルの姿が。
「まさかこの3人とドラゴンだけで戦況がここまで変わったというのか?」
「サーラ、あたしオルくんのお母さん助けに行く! マナよあたしの翼となれ! 加速!」
勝手に言うだけ言うとセーラムはマナで翼を紡ぎ加速の魔法を使うとすっ飛んで行ってしまう。
「マスター、私にはあの魔法を使う奴を任せてください」
「大丈夫なのか?」
「魔法ならば跳ね返します!」
そうだった。こいつは事もあろうか魔法を跳ね返せるから、魔法使いにとって最悪の相手になり得る。
セッターは加速する術などがない為、跳躍を使い直線距離で接近していった。
「って事は俺はあのわけわかんない奴からやって、レフィクルに急ぐか」
のんびりしている暇は無さそうだ。戦場が目で見えていて、場所が確認できるという事は即ち縮地法の範囲だ。混戦である以上始原の魔術は仲間を巻き込む為使えそうもない。
「予測、感知」
スーー、はぁ…
呼吸法で呼吸を整え直し、杖に気を送り神鉄アダマンティン化させる。
飛ぶ位置を決めると一気に縮地法で飛び、そこから一気にほっそりした男に向かい高速移動で接近し杖を叩きつける。
その男が気がついた時は既に俺は通り過ぎた後だった。
「おや? 私の力が効きやがらない貴女は一体何者です…か…? あれ?」
ドサっと腹から上と下に別れて倒れた。
「マルボロ王国のレイチェル王妃様が侍女、サーラと申します」
足元に転がる上半身だけになった男に、俺は杖を構え警戒しながら答えた。
「そうですか、覚えておきやがりましょう」
そう言ってジッと下から見つめてくる……ん?
「うわあぁぁぁ! 何覗いてんだ、この変態野郎がぁ!」
そう、今の俺のローブの下の服はレイチェルの命令で侍女服のままであり、所謂スカートで、しかも膝上10㎝までしかない。
結局最後は踏みつけて息の根を止めたんだと思うーーー
気を取り直しレフィクルを探す。その前に簡単に見つかるセーラムはと言うと空中で戦乙女の如き戦いを繰り広げていた。
マナで紡いだ槍に魔法で電撃を載せて投げつけ、すぐにマナで新たに槍を紡ぎ出す。ブレスを吐いてくればマナで紡いだ巨大な盾をかざし、完全に無力化していた。
「あっちは時間の問題だな」
セッターを探す、いた。
この世界、魔法はソーサラーでもない限り使用回数に制限がある。相当な腕のウィザードの様であったが、セッターは7つ星の剣を使い魔法を跳ね返すことまではできていない様だったが、ことごとく弾いていた。
「こちらも時間の問だ…」
キャーーー!
聞き間違うことのないレイチェルの悲鳴が聞こえる。
声の方角を見るとレイチェルの姿と側にレフィクルの姿も見えた。
「マズい」
もう誰も死なせたくはない。絶対に。
直ぐに縮地法でレイチェルの側に姿を現し、状況を把握する。
マルスが片腕を切り落とされ落馬していた。そしてワイプオール、カインとアベル、女将さんと旦那さん、ベジタリアン、ギャレットにクリティカル、ファンブルと錚々たる実力者達がレフィクルからマルスを守る為に戦っていた。戦うというよりもマルスを守る肉壁といった方がいいかもしれない。
と言うのも、マルスもそうだが他の人達も軽症では済まない怪我をしている。
「レイチェル様! ここは私に任せて早く治療をしてあげてください! 」
「あ、ああ、あ、さ、サハラ!」
「レイチェル様しっかりしてください、侍女のサーラです」
ハッとなってレイチェルは頷くと【愛と美の神アーティドロファ】にマルスの仲間の傷の癒しを願う。
それを妨害しようとしたレフィクルの攻撃を俺が間に入って防いだ。
「余の邪魔立てするなら、女! 貴様から始末してやろう!」
これだよこれ!この殺気、この圧力、この突き刺さる様な視線、間違うことなく本物のレフィクルだ。
「ご所望とあればお相手いたしましょう」
レフィクルはニヤッと笑うと高速移動で一気に俺の喉元を狙って漆黒の短剣を突き出してくる。以前であれば目に映ることなく俺の首は落ちていただろう。だが今は、見える!
素早く杖で短剣の軌道を逸らし、同時に縮地法でレフィクルの真後ろに飛び、逆に今度は俺が杖で攻撃する。
それをレフィクルはこちらを見もせずに躱してみせた。
「貴様…今、何をした?」
ギロリと表現するのが一番合う表現だろう。
その目に俺は一瞬怯んでしまう。
「さぁ、何でしょうね」
「ふん、神々と言い貴様らと言い、余を怒らせるのがそんなに楽しいか?」
より洗練されている為ようやく気がついたが、レフィクルの動きの基本はスエドムッサと同じものだ。異常なまでの回避能力に加えて高速移動、そして的確なまでの急所攻撃。
レフィクルは暗殺者だったのか!
「またコッソリ更新してる〜」
「でもこうして待ってる人もいるんだから良いんじゃないか?」
そうだそうだ!
「あー! あたしのマネしたー! ブーッ」
次話はまた後ほど更新する予定です。




