その頃…
今週はここでおしまいです。
「あたたたたー」
「痛いのは俺だ。早くどいてくれないかお嬢ちゃん重いんだ」
落ちた先でマルスの上に乗っかるようにいたレイチェルは慌ててマルスから飛び跳ねる勢いで退いた。
「うわわ、ごめんなさい。
って貴方、レディに重いとか失礼よ!しかもまたお嬢ちゃんとか言うし!」
「ふ〜よいせ!っと、だがなぁお嬢ちゃんはお嬢ちゃ…うわっ!」
レイチェルのパンチがマルスに炸裂し、せっかく起こした体がまた倒れた。
「勘弁してくれよ。
…っとそれどころじゃないな」
体を起こし直し、マルスが辺りを見渡し渋い顔をすると腰に下げていた剣を引き抜く。
「マズいな、よりによって最下層かよ。
お嬢ち…えっとレイチェル、ここはちぃとばかし危険だからサッサとズラかるぞ」
「へ〜凄いわね。見ただけで場所わかるものなのね」
「褒めろ褒めろ。
でだ、こっからだと隠れ家まで1日はかかるかもしれない。悪いが此処からは大人しく俺の指示に従ってくれ」
「分かったわ」
そう言うとマルスは手で待ってるようにと合図を送り、1人で進んでいき先の曲がり角を覗くと慌てた様子で戻ってきた。
「ど、どうしたのよ。まさかわからなくなっちゃった?ん?」
「道は大丈夫だ。それは任せてくれ。ただ、この先にオークが数匹いやがる。
ここはどうしても抜けなきゃならないから、倒すしかないんだが…
おじょ…レイチェル、自分の身を守るぐらいは出来るか?」
オーク、レイチェルには忘れることのできない忌まわしい記憶が蘇る。
それを振り払うように全身をを震わせると、マルスをまっすぐ見て大きく頷いた。
「それじゃあ俺が飛び出した後ちょっとしたら来てくれ」
「分かったわ」
マルスが剣を構え勢いよく走り出すとオーク達の気味の悪い声が聞こえ近づいてくる。
その少し後戦いだした音が聞こえてきた。
レイチェルもその音を聞くと飛び出し、マルスが当たり前だがたった1人で10数匹のオーク達を相手にしている姿を目にする。
数匹と言われて多少安心していたレイチェルは実際にはもっと多くいるのを目にして、慌てて丸盾を構えるが10数匹のオーク達がレイチェルの方に流れてくることはなく、マルスが1人で切りさばいていた。
その姿は先程までのふざけた表情とは違い、元々端正な顔立ちのマルスが苦戦することなく優雅に剣を振るい、斬り伏せていくその姿はまるで勇者や英雄のようだ。
レイチェルはその姿に目を奪われて魅入っていた。
「おい、レイチェル!
……お嬢ちゃん?」
「ふえ?」
「何ぼけっとしてんだ?今の騒ぎで他の連中が集まる前にズラかるぞ」
レイチェルはお嬢ちゃんと言われたのも気がつかずただ頷くとマルスの後について歩いた。
「おし、ここでちょっとばかし一休みするか」
「う、うん」
「ん〜?元気ないな?疲れたか?」
「べ、別に疲れてなんかいないわ。それよりも貴方って強いのね」
「まぁな。一応こう見えて剣術はグランドマスター級だぜ?どうだいちっとは見直したか?」
「別に。サハラはもっと強いもの」
「さいですか」
「あら、あまり食ってかからないのね?」
「ん〜、強い奴はこの世界には沢山いるさ。俺は俺自身が最強だなんて思ったことないし興味もない」
「ふ〜ん?」
「そろそろ行くぞ」
レイチェルに覗き込まれるように見られたマルスは、話をそこで打ち切って立ち上がると移動を再開する。
レイチェルは少しマルスに対して考えが変わったようで素直についていく。
どれ程歩いただろうか。レイチェルには同じところをグルグル回っているようにしか見えなかったが、今はただマルスの後を追うので精一杯だった。
「後ちょいと進めば一気に上がれる場所まで出るから、もうちょいの辛抱だ」
返事を期待するような言い方ではなく、独り言のようにマルスは言い、薄暗いドワーフの地下都市を進んでいく。
時折住居だったと思われるような場所にも出たが、今は人が住む場所ではなく魔物の巣食う危険な場所に成り代わっている。
そして今、巨大な広い空間が目の前に広がりレイチェルには分からなかったが、ドワーフ達が作業をしていた炉などのあった鍛冶場に出た。
そこは鉄を溶かし煙が巻き上がる場所であったため、地上までつながる煙突のような空洞が垂直に伸びている。
「よし!着いたぞ。あとは…」
「どうしたの?」
「マジ…かよ…」
そうマルスが言うのと同時にこちらに巨大な何かが向かってきた。
赤い鱗を持ち、爬虫類のトカゲのような姿に蝙蝠のような翼は今は畳まれているが、間違いなくドラゴン、しかもレッドドラゴンが巣くっていた。
まだ子供のドラゴンなのか小型ではあるが、小型といえど全長は裕に6メートル以上はある。
「完全に待ち伏せしてましたってところだな」
唯一2人の救いは、ドラゴンが自由に飛び回って攻撃出来るほどの広さは無かった事だが、それでもドラゴンにはブレスという強力な武器を持っている。
「いいか、よく聞け。正面を抜けた細い路地を進むと上に上がる昇降機がある。
古いがドワーフが作ったもんだから丈夫で壊れる心配はない。そいつで上に上がれば、そう遠くないところに隠れ家に辿り着けるから、俺が囮になっている間に一気に走れ」
「ダメよ!それじゃあ貴方が危ないじゃない」
「大丈夫、逃げ回ってまいたら直ぐに追うさ。俺だって死ぬ気はない」
それはもちろんマルスの嘘だ。小型とはいえドラゴン相手にたった1人で囮など出来るわけなどない。
「ドラゴンの習性で最初は大抵ブレスを吐いてくる。その直後に走るんだ」
レイチェルはマルスの意図に気がついている。そして気がつけばいつしかマルスを失いたくないと思うようになっていた。
「決めたわ」
「よし、いい子だ。じゃあ行くぞ!」
ドラゴンの方へ奥に通じる通路に向かうと、案の定ドラゴンは息を大きく吸いはじめる。
「よし、今だ!行け!」
だがレイチェルは動かなかった。ルースミアに貰った丸盾を構えるとマルスをじっと見つめる。
「嫌よ。
だって、私が貴方を守る盾になるんだもの!」
レイチェルはそう言うと密かに教えてもらってあった盾のコマンドワードを口にする。
『レイチェルよ、この盾は持ち主を守ろうとする守護の力が宿っている。
そしてコマンドワードを言えば、その盾の真の力を発揮するが使用出来るのは1度きりだ。
恐らくそれで壊れるから使い所を誤るな』
ドラゴンの口からブレスが吐き出されるのと同時にレイチェルの丸盾が手から離れ、ブレスの直撃を受け止めた。
「うお!すげぇなんだあの盾…っとそれどころじゃないな。
レイチェル!なら俺はお前の剣になる!
お前を絶対に守ってやるよ!」
ドラゴンはブレスを吐き終えるまで顔を動かして標的に当てようとするが、盾がそれに合わせて動く為ただがむしゃらに顔を動かしながらブレスを吐くだけに終わった。
マルスはこの機会を逃さず一気にドラゴンに詰め寄ると斬りかかる。
レイチェルも【愛と美の神アーティドロファ】に祈りを捧げ助力を求めると、マルスの剣が光り輝き出し、マルス自身も青白い光を纏い出した。
「なんか!すげぇ力が湧いてきたぞ!」
とはいえ相手は小型であってもドラゴンで、斬りつけるマルスを爪が捉えると、躱しきれなかった一撃を受けてしまい吹き飛び壁に激突する。
「ぐはっ」
「マルス!
【愛と美の神アーティドロファ】様!マルスを癒して!
死なせない!絶対に!」
ドラゴンもバカではない。傷を癒すレイチェルを脅威と判断すると吹き飛んだマルスを無視してレイチェルに迫り、爪で切り払ってきた。
神に願いを求めて祈りを捧げていたため、無防備となったレイチェルが今度は直撃を受ける。
「きゃあああああああ」
ものすごい衝撃がレイチェルをお襲い、吹っ飛ばされて壁に激突しそうになるが、間一髪のところで駆け寄ったマルスによって受け止められる。
「大丈夫か!」
「うん。ルー姉さまに貰ったこのローブのお陰で平気よ」
薙ぎ払われたはずのレイチェルのローブには傷1つなく防ぎきっていた。
抱き起こした2人に、再度ドラゴンはブレスを吐き出すが、またしても丸盾の力により防がれ、ブレスがダメならと火球の魔法を使ってきたが、それをも盾に防がれ、ドラゴンはマルスに切り刻まれていった。
さすがのドラゴンもこのままでは死にかねないと判断するや、苦々しい顔を向けると翼を広げ排気口のような垂直の壁を飛び抜け逃げ出していった。
そしてドラゴンがいなくなるのを見計らったかのようにレイチェルの丸盾も力を失い粉々に砕けてしまった。
「な、なんとか撃退出来たな」
「そう、みたいね。あ、マルス、怪我してる。
ちょっと待ってて。
【愛と美の神アーティドロファ】様マルスの怪我を治して!」
見る見るうちにマルスの怪我は治り、驚いた表情で怪我があった辺りを見たり動かしてみたりしている。
「凄いな。あっという間に治ったぜ」
「ねぇ、さっき言った言葉…」
「ん?俺なんか言ったか?」
「私の剣になって絶対に守るって言ったじゃない!」
「あぁ、そういうあんただって、俺を守る盾になるとか言ったよな?」
「はわわ…」
マルスは頬をかき、レイチェルは真っ赤になって首を垂れてしまう。
「「あのさ」」
「「うわ、ゴメン」」
「「………………」」
「あー、いいよ、分かった分かった。
いいか、1度しか言わないぞ!
俺はお前の剣になる。俺が一生お前を守ってやる」
「!
…………はい」
「よ、よし!じゃあさっさと隠れ家に行こうぜ!皆んなが心配してるだろうよ」
「…うん」
読んでくれてありがとうございます。
今週はここでおしまいです。来週また同じ頃更新します。
ちなみに登場人物ですが、
サハラ、レイチェル、セッター、セーラム、マルス、キャスは重要な人物です。
それ以外は無理に名前を覚えたりしなくても問題はないかなと思います。
脇役で出てくる事はあり得ますが、そんな人そういえばいたね程度で問題はありません。




