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ミノタウルス戦

ミノタウルスが気がつく距離まで近づいたが、攻撃を仕掛ける気配はなくただ巨大な斧を構えて来るのを待っているようだ。


通常のミノタウルスの性質と違う…


「マスター、どうしますか?」

「どうって、大人しく通らせてくれないようなら倒すしかないだろ」


ミノタウルスの巨大なポールアームのような斧の攻撃範囲まで近づくと、大きく横に薙ぎ払うように振るってきた。


「やっぱり通してくれないみたいだな」

「一気に倒しましょう!」

「「予測(プレディクション)」」


あの斧を武器でまともに受けたりでもしたら一発で使い物にならなくなるだろう。


聖剣(ホーリーソード)も使っておくぞ」

「はい!」

「「聖剣(ホーリーソード)!」」


剣は刃の部分が、杖は全体が白く輝きだし魔力を帯びる。


まず俺がミノタウルスの間合いに飛び込み、突きを放つ。当然斧でそれを受けようと大きくなぎ払ってくるが、それより早く引き込め斧による攻撃から杖を守ると、跳躍(ジャンプ)を使ったセッターが頭上から斬りかかる。

いいタイミングでセッターは斬りかかったが、ミノタウルスはそれを振り払った姿勢のままよろける様に躱した。


「マスター!」

「分かってる!」


俺は杖を突いて引いた後に既に持ち直してミノタウルスの手にしている斧の手首に杖を突き入れ、姿勢が崩れて力が入らない方に押し付けると、ガラーンと斧が手から落ちた。


「セッター!任せた!」


無言で着地したセッターがミノタウルスの首目掛けて剣を振り下ろし、頚椎辺りに深く斬り刺さった。

浅かったかと一瞬焦るが、ミノタウルスは首を抑え転がり込みしばらく叫びながら暴れるとそのまま動かなくなった。


「倒した…んでしょうか?」

「そう思うんならトドメを刺しておくんだ」


セッターがミノタウルスに近づき剣を心臓に突き刺しトドメを刺した。

案外そういうのは抵抗ないもんなんだな。



ふと思ったが、騎士魔法とは一体なんなんだろう。ウィザードの使う魔法は記憶と詠唱によって発動させる。神聖魔法は神に対する信仰心により助力を得ている。例外なのはソーサラーだが、ソーサラーは体内に宿った魔力で記憶も詠唱も必要としないであつかうが、まず見てどういうものか理解しないと扱えないようだ。

だが、この騎士魔法だけは騎士にしか扱う事ができないし、その理由がまたよくわからない。

なんかみたいにミトコンドリアだとかそんなのはまず無いだろう。

まぁここは騎士魔法発祥の地なんだからそれも恐らく分かるんだろう。だといいな…




ミノタウルスを倒した後またしばらく進んでいくと広間が見えてきた。


「またなんか居るのか?」

感知(センス)には何の存在も感じられませんね」


警戒だけはしながら進むと、広間にはテーブルと椅子と簡素なベッドが用意してあり、テーブルにはパンとスープ程度だが食事まで用意してあった。


「これは?」

「最後の晩餐か?」

「別に殺すための場所じゃ無いんですからそれは無いでしょう?」

「冗談だよ。ありがたくいただくとするか」


椅子に座りパンとスープを口にしてみる。普通に美味しいとまで言わないが食べれる。

セッターも恐る恐る口に入れて食べだした。


「セッターはミノタウルスってどれだけ強いか分かるか?」

「そうですね、聞いた話では騎士が10人掛かりで倒すそうです」

「……それを知っててよく戦ったな?」

「マスターなら倒せると思ったんで…」


こいつ…少し俺頼みになりすぎて無いか?

正直なところ、俺は杖術で同じせ背丈相手ならそれなりに戦う自信はあるが、大型の魔物になると殺傷力が低いこの武器では役に立ちそうに無いと思っている。

しかもこういう閉鎖された空間では頼みの始原の魔術もたぶん使えないと思うし、魔法に至っては初歩の魔法が数回使える程度だ。


「俺を当てにした戦いはするな。俺だって無敵とかじゃ無いんだぞ」

「分かっています。だけどマスターの戦いや行動は見ていて本当に勉強になっています」

「そうか。

とりあえず休めと言わんばかりにベッドまで用意されてるんだ。ここで一先ず休んだら先へ進もう」


俺は照れ隠しにそれだけを言うとベッドに横になった。


この世界に来るまで本当にただの雇われサラリーマンだった俺が、今じゃ頼られる存在か…

大半がチートみたいな能力のおかげなんだけどなぁ。唯一頑張ったのは魔法と杖術じゃないかな。

一度まだ旅立つ前にセッターと腕輪を外して手合わせしてみた事があった。それなりに努力したのと元々の素質だかのおかげで、セッターに勝つ事ができたのは嬉しかった。

そして、ギャレットが俺にセッターを託したのだけは未だに意味がわからない。

『今後を担う新しい騎士に必要な事を教えてくれるだろう』

ギャレットのセッターに宛てた手紙にはそう書いてあった。だが俺は騎士でもないし騎士道なんか足枷としか思ってない。せいぜいこの騎士魔法の能力の有能な力を平和のためだけに利用するべきだと思っている。何しろ戦士にしてみれば騎士魔法はインチキ極まりない。俺が腕輪の力で杖術以外に騎士魔法を得たのもインチキさを感じたからだ。

出来ればセッターには誰かに仕えたりしないで、個人で平和の為に力を尽くす事にこの力を使うようになってもらいたいな。

そんな事を思いながら眠りについた。



目が覚め起きるとテーブルの上にはいつの間にか綺麗にかたされ、新しくパンとスープが用意されていた。

セッターも気がついて驚いているところから、俺もセッターも気がつかないうちに事がなされたようだ。


「まぁせっかく用意してくれてるんだ。ありがたくいただいたら先に進もう。今日でデプス10つまり最深部だから、何かしら答えが見つかるだろう」

「はい」


簡素なパンを口に詰めスープで流し込んで食べ終えると、身支度を整え広間の先につながる扉に手をかけた。


「準備はいいな?」

「大丈夫です」


扉を開けて広間から通路へと俺とセッターは出た。




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