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怪魔のいる世界で生きている  作者: さち
飛べない鳥は羽ばたく夢を見る 

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9/49

7

 人の気配がなくなった学校へ、武尊と恭介そして葵は潜入していた。

 といっても、事務員として働いている葵がいるので、入口の門はスペアキーで簡単に開けることができた。

 噂だとは思うが、もしものことを考えて、神剣玉依も携えている。久しぶりの外出に、玉依は喜ぶように震えていた。

 教務棟の前で二人は待たされる。さすがに、事務室に生徒を入れるわけにいかないからと、葵は一人で入っていた。

 物陰で二人が静かに待っていると、男子生徒が一人で歩いていた。

「なにしてんだろうな」

「たまたま残っていただけじゃない?」

「だけど、おかしくないか? 

 一人で残るにしては、遅すぎだろ」

 恭介は時計を確認する。時計は7時を回っていた。

 武尊はその生徒を見送ると、そっと動き始める。

「武尊?」

「恭介は待ってろよ」

 武尊の学ランの裾を恭介は引っ張った。

「葵さんに怒られるよ」

「そんなの、いつものことだろ」

 恭介は、大きなため息を付いて武尊の後ろをついていく。

「一人で行かせられないよ」

「さすが、片割れ」

「どうせ言ったって聞かないでしょ」

「そのとおり」

 武尊と恭介は、男子生徒に気が付かれないように距離をあけながら歩いてゆく。

 カバンすら持たない、長身の恰幅のいい男子生徒は、校門とは明らかに違う方向に歩いていた。

「体育館?」

 山に張り付くように建てられた白鳳学園は、麓の方に校門と教務棟があり、その上に教室棟と講堂がある。さらに上に広い体育館と武道館が並んでいる。もっとも高いところに運動場とテニスコートがある。

 体育の移動はほぼ全力で向かわないと、間に合わないともっぱらの不評だ。

 男子生徒は迷わず体育館の中へと入っていく。

 ついて入ろうとする武尊を、さすがに恭介は強く引き止めた。

「なにするんだよ!」

「ちょっとまって。葵さんを待とう。

 この体育館の空気……、普通じゃない」

 恭介の顔が険しくなる。そのようすで中になにがいるのか、武尊も気がつく。

「だけど、あの生徒が知らずに入ってたとしたら」

「知っていたのかもしれないよ」

 今にも動き出しそうな武尊を、恭介はさらに力を込めて引き止める。

「だけど!」

 そう言って体育館を見上げると、無数の赤い目が見え一斉に二人を見た。

 その瞬間、玉依姫の思考が武尊に入ってくる。

『数は多いけど、たいして強くないよ。

 私と武尊なら、大丈夫!』 

 聞いた瞬間、武尊は恭介の顔をまっすぐに見る。

「やっぱり放っとけない」

 武尊の視線に負けた恭介は、ため息を付いて頷いた。

「……付き合うよ」

 武尊と恭介の体は動き出し、体育館の扉を大きく開けた。


 中に入ると、二人は意外な光景を目にした。

 体育館の真ん中には、守ノ宮聖子が制服姿で、薙刀を構えて立っている。

 男子生徒は壁際で、真剣なまなざしで聖子を見守っていた。

 まるでこれから試合が始まりそうな、張り詰めた空気だ。

 その足元には白い紙が破られて散らばっている。

 二人の足音に聖子は驚いて、一瞬緊張が緩んだ。その瞬間を待っていたように怪魔が聖子に襲いかかる。

 彼女はそれに気がついて、薙刀を構え直したが、一瞬遅く一羽の怪魔が一気に距離を詰めた。

 危ないと思った瞬間、怪魔の首には紐が巻き付き、聖子の前で止まった。

 彼女は飛び下がると、薙刀を構え怪魔の核を突く。

 その瞬間、怪魔は霞のように消えていった。

 怪魔には核がある。

 それを壊さない限り、怪魔を倒すことはできない。

 怪魔と戦うということは、その核の場所を霊力で見つけ、壊さないといけない。核を壊す役割を持つ彼らを、殺魔師の間では『コウ』と呼んでいた。

 そして、怪魔の動きを止め、『コウ』の動きを助ける役目をする者を『シュ』と呼んだ。

 殺魔師は必ず『コウ』と『シュ』の二人組で動く。それは、怪魔が強大であればあるほど、一人では決して立ち向かえないからである。

 そして、その命を預けあった二人は互いに『片割れ』と呼び合っていた。

 残りの怪魔が次々に聖子を襲う。

 彼女はその攻撃を舞うようにかわしながら、怪魔を倒していく。

 やがて一羽もいなくなると、彼女は武尊を睨みつけた。

「なんであんたがここにおるの」

 きっぱりとした拒絶に、武尊は足を止めた。

「そんなことより、これはどういうことだよ」

 動揺する武尊を聖子はまっすぐ見つめた。

「運動よ」

「運動?! 怪魔を使って!?」

「そうや。 あんたも、やってみたらいいわ。

 あんたの実力も見てみたいしね」

 そう言うと、武尊に走り寄ってくる。

 胸のポケットから『札』数枚を取り出すと、それぞれを二つに破り、体育館の天井めがけて投げ上げる。

 その瞬間、黒い霧のような塊が出てきたと思うと、怪魔の姿に変わる。

 聖子は恭介の腕を掴むと、壁際に向かって走り出した。

「そいつは近いもんを襲うから、せいぜい気をつけや」

「武尊!」

 立ち止まって、恭介が叫ぶ。そんな恭介を、聖子はさらに引っ張った。

「お手並み拝見や」

 聖子は意地悪い笑みを浮かべた。

 武尊は怪魔を見ると、大きく息を吐く。

 そして落ち着いて神剣玉依を鞘から出すと、両手に力を込めた。

「頼んだぜ。姫」

『任せて!』

 武尊は怪魔に突っ込むと、思い切り剣を振り下ろす。

 その瞬間、怪魔は弾けるように霧散した。

「なんで! 核も壊してないのに!」

「武尊が持っているのは神剣だよ。あのくらいの怪魔なら、核を壊さなくても倒せるんだよ」 

 得意げに言う恭介に聖子は悔しそうに呟いた。

「そんなん、ズルやん」

 武尊は残る怪魔に向かうと、次々と神剣を叩き込む。その度に、怪魔は霧がはじけるように消えていった。

 武尊は玉依に礼を言って鞘にしまうと、聖子に近寄ってきた。

「お前が、『札』を作ったのか?」

 ハッとして恭介も聖子を見る。

「……」

 彼女は奥歯を噛み締めながら、横を向いて無言を貫く。

「なんとか言えよ!」

 思わず大声を上げる武尊を恭介が止める。

「駄目だよ。女の子だよ!」

「なにが女だ。こいつ、お前なんかよりよっぽど強いんだぞ!」

「そうかも知れないけど、駄目だよ!」

 武尊はぎゅっと拳を握った。

「守ノ宮さん。僕たち、『札』のことを調べているんだ。知っていることを教えてほしい」

「……」

 恭介の問いにも、聖子は無言を貫く。

 その時、壁際で三人の様子を見ていた男が近づいてきた。身長が高いためか、近づくとさらに迫力がある。

「俺は三年の宮内彬。守ノ宮聖子の片割れや。

 聖子が答えないことは、俺が話す」   

本作品は個人創作です。

一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。


「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。

無断転載・無断使用・AI学習への利用は禁止しています。


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