7
人の気配がなくなった学校へ、武尊と恭介そして葵は潜入していた。
といっても、事務員として働いている葵がいるので、入口の門はスペアキーで簡単に開けることができた。
噂だとは思うが、もしものことを考えて、神剣玉依も携えている。久しぶりの外出に、玉依は喜ぶように震えていた。
教務棟の前で二人は待たされる。さすがに、事務室に生徒を入れるわけにいかないからと、葵は一人で入っていた。
物陰で二人が静かに待っていると、男子生徒が一人で歩いていた。
「なにしてんだろうな」
「たまたま残っていただけじゃない?」
「だけど、おかしくないか?
一人で残るにしては、遅すぎだろ」
恭介は時計を確認する。時計は7時を回っていた。
武尊はその生徒を見送ると、そっと動き始める。
「武尊?」
「恭介は待ってろよ」
武尊の学ランの裾を恭介は引っ張った。
「葵さんに怒られるよ」
「そんなの、いつものことだろ」
恭介は、大きなため息を付いて武尊の後ろをついていく。
「一人で行かせられないよ」
「さすが、片割れ」
「どうせ言ったって聞かないでしょ」
「そのとおり」
武尊と恭介は、男子生徒に気が付かれないように距離をあけながら歩いてゆく。
カバンすら持たない、長身の恰幅のいい男子生徒は、校門とは明らかに違う方向に歩いていた。
「体育館?」
山に張り付くように建てられた白鳳学園は、麓の方に校門と教務棟があり、その上に教室棟と講堂がある。さらに上に広い体育館と武道館が並んでいる。もっとも高いところに運動場とテニスコートがある。
体育の移動はほぼ全力で向かわないと、間に合わないともっぱらの不評だ。
男子生徒は迷わず体育館の中へと入っていく。
ついて入ろうとする武尊を、さすがに恭介は強く引き止めた。
「なにするんだよ!」
「ちょっとまって。葵さんを待とう。
この体育館の空気……、普通じゃない」
恭介の顔が険しくなる。そのようすで中になにがいるのか、武尊も気がつく。
「だけど、あの生徒が知らずに入ってたとしたら」
「知っていたのかもしれないよ」
今にも動き出しそうな武尊を、恭介はさらに力を込めて引き止める。
「だけど!」
そう言って体育館を見上げると、無数の赤い目が見え一斉に二人を見た。
その瞬間、玉依姫の思考が武尊に入ってくる。
『数は多いけど、たいして強くないよ。
私と武尊なら、大丈夫!』
聞いた瞬間、武尊は恭介の顔をまっすぐに見る。
「やっぱり放っとけない」
武尊の視線に負けた恭介は、ため息を付いて頷いた。
「……付き合うよ」
武尊と恭介の体は動き出し、体育館の扉を大きく開けた。
中に入ると、二人は意外な光景を目にした。
体育館の真ん中には、守ノ宮聖子が制服姿で、薙刀を構えて立っている。
男子生徒は壁際で、真剣なまなざしで聖子を見守っていた。
まるでこれから試合が始まりそうな、張り詰めた空気だ。
その足元には白い紙が破られて散らばっている。
二人の足音に聖子は驚いて、一瞬緊張が緩んだ。その瞬間を待っていたように怪魔が聖子に襲いかかる。
彼女はそれに気がついて、薙刀を構え直したが、一瞬遅く一羽の怪魔が一気に距離を詰めた。
危ないと思った瞬間、怪魔の首には紐が巻き付き、聖子の前で止まった。
彼女は飛び下がると、薙刀を構え怪魔の核を突く。
その瞬間、怪魔は霞のように消えていった。
怪魔には核がある。
それを壊さない限り、怪魔を倒すことはできない。
怪魔と戦うということは、その核の場所を霊力で見つけ、壊さないといけない。核を壊す役割を持つ彼らを、殺魔師の間では『コウ』と呼んでいた。
そして、怪魔の動きを止め、『コウ』の動きを助ける役目をする者を『シュ』と呼んだ。
殺魔師は必ず『コウ』と『シュ』の二人組で動く。それは、怪魔が強大であればあるほど、一人では決して立ち向かえないからである。
そして、その命を預けあった二人は互いに『片割れ』と呼び合っていた。
残りの怪魔が次々に聖子を襲う。
彼女はその攻撃を舞うようにかわしながら、怪魔を倒していく。
やがて一羽もいなくなると、彼女は武尊を睨みつけた。
「なんであんたがここにおるの」
きっぱりとした拒絶に、武尊は足を止めた。
「そんなことより、これはどういうことだよ」
動揺する武尊を聖子はまっすぐ見つめた。
「運動よ」
「運動?! 怪魔を使って!?」
「そうや。 あんたも、やってみたらいいわ。
あんたの実力も見てみたいしね」
そう言うと、武尊に走り寄ってくる。
胸のポケットから『札』数枚を取り出すと、それぞれを二つに破り、体育館の天井めがけて投げ上げる。
その瞬間、黒い霧のような塊が出てきたと思うと、怪魔の姿に変わる。
聖子は恭介の腕を掴むと、壁際に向かって走り出した。
「そいつは近いもんを襲うから、せいぜい気をつけや」
「武尊!」
立ち止まって、恭介が叫ぶ。そんな恭介を、聖子はさらに引っ張った。
「お手並み拝見や」
聖子は意地悪い笑みを浮かべた。
武尊は怪魔を見ると、大きく息を吐く。
そして落ち着いて神剣玉依を鞘から出すと、両手に力を込めた。
「頼んだぜ。姫」
『任せて!』
武尊は怪魔に突っ込むと、思い切り剣を振り下ろす。
その瞬間、怪魔は弾けるように霧散した。
「なんで! 核も壊してないのに!」
「武尊が持っているのは神剣だよ。あのくらいの怪魔なら、核を壊さなくても倒せるんだよ」
得意げに言う恭介に聖子は悔しそうに呟いた。
「そんなん、ズルやん」
武尊は残る怪魔に向かうと、次々と神剣を叩き込む。その度に、怪魔は霧がはじけるように消えていった。
武尊は玉依に礼を言って鞘にしまうと、聖子に近寄ってきた。
「お前が、『札』を作ったのか?」
ハッとして恭介も聖子を見る。
「……」
彼女は奥歯を噛み締めながら、横を向いて無言を貫く。
「なんとか言えよ!」
思わず大声を上げる武尊を恭介が止める。
「駄目だよ。女の子だよ!」
「なにが女だ。こいつ、お前なんかよりよっぽど強いんだぞ!」
「そうかも知れないけど、駄目だよ!」
武尊はぎゅっと拳を握った。
「守ノ宮さん。僕たち、『札』のことを調べているんだ。知っていることを教えてほしい」
「……」
恭介の問いにも、聖子は無言を貫く。
その時、壁際で三人の様子を見ていた男が近づいてきた。身長が高いためか、近づくとさらに迫力がある。
「俺は三年の宮内彬。守ノ宮聖子の片割れや。
聖子が答えないことは、俺が話す」
本作品は個人創作です。
一部の表現や設定の整理にAI(ChatGPT)を補助的に使用しています。
「さち」名義で「pixiv」「小説家になろう」「カクヨム」にて同時掲載しています。
無断転載・無断使用・AI学習への利用は禁止しています。




