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戸籍


   戸籍


 禎子は一度だけ鵜川家の戸籍を見たことがある。

 持っていたのは姉で、確か婚姻届け時に必要だったとのことだった。

 母は二度結婚し、二度とも離婚していた。

 姉は最初の夫との間に生まれの子供で……

 しかし、禎子の父は……


 戸籍上の禎子の父は「空白」だった。禎子の父の欄には何も記載されていない。

 母の二回の婚姻と離婚の履歴は戸籍に記載がある。姉の方は母と最初の夫との間に生まれた子供だということが戸籍上でハッキリわかる。

 しかし、禎子の父の欄は空白である。


 母の一度目の結婚。それで姉が生まれた。しかし、二人は離婚した。

 その後、母は彼と結婚した。戸籍上は二人の間に子供は誕生していない。そしてそのまま離婚。

 母が禎子を出産したのは離婚後2年後のことだ。いわゆるシングルマザーだ。

 母の二人目の夫――則ち彼は戸籍上は禎子の父ではなかった。禎子の父が誰なのかは実のところわからない。


 しかし――


 ――あの人の子供が欲しかった。


 母は禎子を見て嬉しそうにそう言ったことがある。


 ――あの人


 母は慈しむようにそう言っていた。決して「あの」と「人」に分解できない「あの人」。

 母はあの人――に恋をしていた。それは確かだ。

 母が彼のことを話すとき、遠い目をして「あの人」という。そこには離婚しても変わらない母の想いが確かに含まれていた。


 ただ、彼の方はわからない。彼は母のことを「彼女」と言った。それは単に女性を表す代名詞にすぎないような響きがあった。二人は相思相愛ではなかったのかもしれない。それで離婚にいたったのだろう。

 離婚から二年後の母の出産――つまり私が産まれた。

 私の父は空白……

 しかし、母との会話から、禎子の父は、あの人――彼のように思える。

 母は私を溺愛していた。姉とは明確に差があった。姉はそれを表向きは気にしてはいないようだが、本当は傷ついているのだと思う。

 だから、禎子は姉を大事にしたいと常々思っていた。


 ――戸籍……


 そこに刻まれている家族のつながり。


 ――彩ちゃんも姉と繋がっている。

 ――彩ちゃんの母は姉で、父は姉の旦那。


 禎子の父は戸籍上は空白。

 しかし、実際には父が存在する。それが彼なのだと思うけど……


 ただ、戸籍には――


 まあ、戸籍は形だけのものだが……


 ――空白……


 形だけなんだけども――



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