1-10 エマとの絆
夜になったが、灯りを点けるわけにはいかないので、部屋の中は真っ暗だ。エマとは時々、言葉を交わしたが、依然、メルベールの緊張は解けないままだ。
「メルベール様、お辛くありませんか?」
「わたしは大丈夫…でもエマさんがずっと立ったままなのが…」
「私は大丈夫です。こう見えて頑丈なんですよ?」
こうしてエマが明るく接してくれているから、少しだけ安心できる。
「それからメルベール様、私のことは、エマとお呼びください」
「うーん…呼び捨てはちょっと…」
「もう! 仲良くしてください」
「それは違わない?」
メルベールがもじもじしていると、エマは「ふふっ」と小さく笑う。
「私のことを知っている人はそんなに多くないので、もっと仲良くしてくれると嬉しいです」
意味深な言葉に思わずベッドから顔を出す。さすがに暗くてはっきりとは顔が見えないけれど、エマがこちらを見て微笑んでいるような気がする。
「私はもともと孤児でした。ラディアス様に召し抱えて頂いて、とても感謝しています」
「そうだったの…」
「だから、ラディアス様と婚約されたメルベール様にも、感謝しています」
「で、でも」
「わかっています。形式上だとおっしゃりたいのですよね…。でも、それでも、ラディアス様のそばに居てくださる方は、私にとって大事な方なんです」
エマの言葉が胸に響く。メルベールはベッドから起き上がって、エマのそばに歩み寄った。
「メルベール様、隠れて…」
「エマ」
メルベールに呼びかけられて、エマが目を丸くする。
「わたしはきっと、殿下のお役にたってみせる。一緒にがんばりましょうね」
「メルベール様…」
エマが感極まってメルベールに抱きついた。
「嬉しいです、私! メルベール様ってば最高!」
「え、ええっ⁉︎」
急に抱きつかれて驚きつつも、エマのかわいい姿に思わず笑顔になった。
「いけない、騒いでしまった…」
「急に冷静…」
次の瞬間、メルベールの耳に足音が聞こえた。
「誰か来る」
「わっ、早くメルベール様、隠れてっ」
メルベールは素早くベッドに潜り込む。扉の向こうから「私だ」と、ラディアスの声が聞こえてきた。またしてもふたりで安堵する。
「すぐに出る。メルベール、行けるか?」
「あ、はい」
「エマ、君はこの部屋からメルベールのいた痕跡を消してくれ」
「か、かしこまりました」
エマが早速動き出す。
「明日の朝、私の執務室に来てくれ」
「はいっ」
慌ただしくその場を整えるエマを尻目に、メルベール達は部屋を後にした。
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