第63話「突然ですが、誰にも言えない秘密を知りました」
この先の展開ですが、現在プロットを練り直しているところなので年内の更新は今回で最後になりそうです。
一足早いですが、よいお年を!
アレスガルドには多くの神々がいる。
冒険者であれば『槍の神』や『武道の神』。
魔法に携わっていれば『火』や『雷』などの各属性の神。
平民であっても農家なら『豊穣の神』、商人を目指すなら『商売の神』。
父さんも冒険者から狩人になった時に『狩人の神』に、母さんも俺やマオが生まれる前に『子宝の神』に祈りを捧げている。
その中でも、子供でも知っているような有名な神が七柱いる。
『火』と『剣』の男神レイ=モアク。
『海』と『美』の女神シーリア。
『大地』と『鉄』の男神ティターノ。
『風』と『音楽』の男神ダール=カーポ。
『商売』と『幸運』の男神セブルス。
『太陽』と『審判』の女神ユリーシャ。
『生』と『死』の女神リゼット。
火や大地、生死に太陽など、人の生活に密接に関わりを持っている神は二つの属性しかないのに六から八枚の翼を持つほど高位の神様であり、様々な神殿や書物で見る姿は非常に神々しく象られている。
そんな七柱の上に立つのが、最高位にしてこの世界を作ったとされる『創造神』様だ。
だが、その姿や名前はどこにも載っていない。
創造神様の偉業だけを説かれ、その名前や姿は畏れ多くて伝えられなかった。矮小な人の身である自分たちは、その目に、その口にすることも憚られる。
というのが、今日来てくれた大司教様の説明だ。
そしてそれは真実ではない。マイナ様がそれを教えてくれたのだが、確かにありのままに伝えるのは難しいだろうな。
その最たる違いが、創造神は既に存在しないという点だ。
「創造神様がいないって、どういうことですか?」
「あれ? 伝わっていないんですか」
「俺が読んだ本には、普通に創造神様の偉業について書かれてよ」
創造神様は最初にアレスガルドに降り立った神であり、まだ生命のいなかった世界に人間をはじめとするたくさんの存在を生み出した。
しかし、人が増えるにつれ醜い争いが勃発するようになり、怒った創造神は人間たちが悔い改めるべくエルフや魔族といった人間とは違う生命を作った。
彼らは増長する人間を罰する役目を負っていたのだが、彼らもやはり成長していくに連れて増長しはじめ、ついに創造神はすべての命に対する罰として魔物を作り出した。
人間・エルフ・魔族・魔物。異なる四つの強力な勢力の衝突によって世界はより混沌と化したが、そのせいで悔い改める者、神に救いを乞う者、過ちを認め改心する者が増えた。
そうした彼らを救い導くために、遣わされたのが最初の七柱の神々だ。
創造神はまだ怒っているのか、人間たちはまだ許されていないのか、当時の人々はそれを問うことができなかった。
だからこそ、今を生きる我々は神に祈り、創造神様に謝意を捧げ続けなければならないのだ。
(とても長い本だったけど、内容をまとめてしまえばこんな感じだ)
創造神というだけあってたくさんの命を作ったのはすごいと思うが、だからといって魔物はやりすぎだと思う。
一柱で試行錯誤して頑張っていたんだろうなあとは思うが、まったく意思疎通も和解もできない怪物の勢力は、根絶しない限り驚異として在り続けるわけだし、それも現実的じゃない。
それこそ神様が何とかしてくれない限り、ある意味では真の平和は訪れなくなったわけだが。
「あ、それ間違いです。魔物は自然現象ですよ?」
「え?」
「むしろ魔物が先にアレスガルドにいたんです。人類の方が後発組ですよ」
なんと……魔物とはつまり恐竜みたいなもので、氷河期が訪れずに人類が誕生してしまったというのか……。
「って、それ本当ですか?」
「マジです。神様にとっては常識ですよ」
「かみさまってすごい」
わりと本気で驚きすぎて語彙が死んだ。
魔物についてなんて生態を調べる図鑑くらいでしか情報がないのに、そんな簡単に人類史以前の事実を教えてもらってよかったんだろうか。
「構いませんよ。だって証明できないでしょう?」
「それは、まあ、そうですが……」
「ちなみにもうひとつ正すとして、創造神は一人じゃないんです。三人いたんですよ」
創造神の三柱――――名前も忘れられるほど古い彼らを、マイナ様は仮呼びでこう語った。
原初の女神。
力の男神。
知恵の男神。
三柱の神は魔物をはじめとする動植物しかない世界に、知的生命体として人間を作り出した。
自分たちと同じ姿をした男と女。
力の男神のように強く、知恵の男神のように頭が良く、原初の女神のように感情豊かな人間が、大勢生まれた。
魔物という外敵に脅かされながらも、武器を鍛えて知恵を磨き、人間独自の文化や技術を積み上げていった。
「そういえば、エルフや魔族はどのタイミングで出てくるんですか?」
伝え聞く限りでは、人間を罰するつもりで創造されたのが彼らだ。
当時の人たちがどうだったかわからないが、前世の世界と違い魔物という人類の脅威がいる中でどれだけ繁栄できただろう。
少なくとも、世界大戦のような大規模な戦争ができていたとは思えない。
わざわざ罰を与えてまで種族を増やす必要はないと思うのだが……。
「ええ、その通りです。彼らは人間だけで満足しておけばよかったんですよ……」
「満足ですか?」
「男神たちは不満だったんですよ。
『俺とそっくりのはずなのに力弱くね?』
『俺とそっくりなはずなのに魔法使えないってありえん』
といった具合にね……」
「それで加護を与えることになったんですか?」
「いいえ。そもそも人々がゆっくり繁栄していくことが退屈だったらしく、早く自分たちと同じくらいに成長してほしいと文句ばかりだったんですよ」
なんて理不尽な……いやその方が神様っぽいが。
そして朧げながら、どうやって魔族とエルフが生まれたのか見えてきた。
「つまり、それぞれの男神が作り上げたのが魔族とエルフ?」
「半分正解です」
「半分なんですか?」
「力の男神の存在を分割して作ったのが魔族。
知恵の男神の存在を分割して作ったのがエルフ。
魔族とエルフは、男神たちの生まれ変わりなんですよ」
マイナ様が口にした真実は、だからこそ捻じ曲げられたんだろう。
それはそうだ。エルフと魔族の確執は今に始まったものではないし、過去に遡ればエルフ狩りに魔族との戦争と、神の生まれ変わり相手に不敬極まりないことをしている。
加えて創造神たちに作られた人間たちと、創造神そのものともいっていい二種族。
この事実が知れ渡れば世間がひっくり返るどころか、場合によっては彼らに隷属せよと言い出す集団が現れかねない。
人間は彼らに劣っていない。
この一点を守るべく、真実はねじ曲げられたんだろう。
「で、ですね。このままだと創造神が一人だけ残ったままですよね?」
衝撃の連続に意識が飛びそうになっていたが、目の前で不穏な表情に変わったマイナ様を見て気を引き締めた。
この表情は、あまり見せたことがないが怒りの顔だ。
「突如としてエルフと魔族が増え、総人口が約三倍に膨れ上がりました。今までは三人でやっていた仕事が一人に押し付けた挙句、量を三倍に増やしたんです。どうしたと思いますか?」
あー……これは、共感してるんだろうか。
突然仕事が降って湧き、その量が尋常ではない。
不敬だとは思うが、今はいない創造神様に同情した。
「つまり、人手を増やしたんですね?」
「その通りです! 最後の創造神が原初の神というのは、すべての神の生みの親だからなのです」
既にいないということから、おそらく男神たちと同じように自分の存在を分割し、いくつかの神を作り出したんだろう。
最初に何人いたかはわからないが、英断だと思う。
一番ベストなのは男神たちの暴走を食い止めることだっただろうけど。
「ま、まあそんなわけでして! メジャーな七人をはじめとした最初の数十人が頑張っていた頃が神代、下界の人間相手に婉曲に干渉するようになって神様だけの時代が終わり、気づけば人数が増えて仕事が全員に回せなくなり始めて今に繋がる……って感じですね」
「えらく軽くまとめましたけど、教会の偉い人が聞いたら魂抜けますよ」
「レオさんも今後誰かに教わるかもしれませんが、それは違うよ! なんて声高に叫んじゃダメですよ。絶対に正気を疑われますから」
「それだけですめばいいですけど、へたすりゃ異端者扱いされて処刑もんですよ」
実際、神託を騙った詐欺は死刑が適応される。
聖痕もないのにそんな荒唐無稽な話をしたら、間違いなく打ち首ものだ。
「そして創造神様の――――」
壇上で教典を読み上げ、教えを説く聖女神教会の人たちを眺めながら、絶対に言えないよなと瞑目した。
この場にいる誰もが彼らの話を信じ、疑っていない。
もしも俺にマイナ様の話を伝えられる下地が整い、喧伝しても誰も幸せになれない。
伝えたところで魔族とエルフに対する待遇がすぐに変わるわけでもないし、向こうの感情だって一気に好意的に変わるわけがない。
(そう考えてみると、マイナ様がたまに話してくれる神界の話って……)
本当にただの雑談なんだよな。
俺が誰にも言えないし、言わないことをわかっているから、際どいことも平然と話してくれる。
誰にも披露できない雑学――というにはヤバすぎる内容――がどんどん増えていくが、なんだかんだと楽しんでいる自分がいるから別にかまわない。
ただ、今日みたいに教会の人が現れる可能性があるから、今まで以上に余計なことを口走らないようにしよう。そう気持ちを改めた。
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