-二重召喚-
「.........なん、なの?」
「やあやあ、目が覚めた?」
意識が朦朧としているなか起き上がると、そこは、支部だった。
「...ここ、どうしてここに、私はいるの?」
「そりゃ、一応君も「チート能力者」だからね。回収できたのが君だけなのが残念だよ」
そこに立つのは、先ほどまで交戦してきた少女達と同い年の、フードを深くかぶって顔を見せない少年の、馬鹿にしたような声だった。
「驚きだね、四天王クラスの目を欺いて、潜入中の【ネームズ】に転送してもらえたんだから」
「...なんで、そいつは助けてくれなかったのよ?」
「いやいや、私たちは二手三手程度の予測で動かないの。君たちの成功はうれしい誤算になるけど、基本はどんな事も失敗前提。信用は失うだけ大損なのさ。」
「...まあいいわ。あのガキ、今度は必ずねじ伏せてやる」
全身の痛みを抑え立ち上がる。
「ははは、まるで【次】がある前提で言うけどさ」
と少年がパチン、と指を鳴らした。
同時に、両脇をつかまれ、地面に押しつけるように再び倒される。
「がっ!? な、何するのよ!解け!『解きなさい』」
「...【Wordチート能力】もその程度の解釈では持ち腐れだね」
「...わーど、チート?」
何を中二じみた、そんな単語に苦笑するが、少年はそんな私にさらに馬鹿を見る目で笑う。
「わからないならそれまでだよ。まあ君の【魅了】のチートは、教団の類なら確かにいいものだけど、それ以上のとトレードするからいいや。」
「『離せ!』『解け!』『死ねぇ!』」
何度も能力を口にするが、少年の淡い光を帯びた黄色の瞳はニヤリと笑う。
「最後に教えてあげるよ。君が何でチートを使えないのか、ね」
そうして少年は小さく、耳元で囁いた
「......『無能』それが私のチートだよ」
「準備は整いました、お祖父様」
「...そうか」
薄暗い大広間、魔法陣が淡く光り、百数人の生贄の山がそびえ立つ。
「...ちーと、だったか。人柱となる者たちは5人」
「はい。だいたいはほかのものより成長速度が速かったり、使える魔法、武術、知識の逸脱性等、勇者、あるいは魔王に転じるやもしれない者たちを指すものですが、最後の人柱となる娘はおそらくそれよりもさらにうえに......いった、かもしれない個体です。これならもしかすれば神を召喚できるかもしれませんね」
「...勇者を超えうるなら、そのまま使い潰せばいいはずだが?」
「ご冗談を。『異邦人』にそこまで信用できる要素などありはしませんよ。」
「...それもそうか」
お祖父様は表情一つ変えず、無感情に、死体の山に置かれる人柱を見つめる。
「...利用できるものは、勇者も、魔王も......神も魔神も使い潰してみせる。」
「さすがですね。では、始めましょうか。」
数人の魔術士と共に詠唱を開始する。
魔法陣の光は強くなり、贄を、部屋を光が食い尽くしている。
「...神、か?」
光が消え、魔法陣には人の形をした何かがひとり、鎮座する。
「...いえ、どうやら神、とまではいかなかったようですが、『天使』、いえ『堕天使』が呼べたようですね。」
そうして私はそのものの前に立ち、
「『鑑定』」
と口にする。
目の前には半透明のウィンドウが開き、その者のステータスを表示した。
堕天使 ルシファー
それ以外は文字化けしていた。
「ルシファー、ですか。神話ばなしによくでる堕天使の名ですね。時に魔王の名にもある」
「...もう、しわけありま、せん」
と、掠れた声で、その堕天使は口を開いた。
「......私の、せいで......『アーサー王』」
「...何を言ってるのですかルシファー?」
その堕天使は顔を上げ、そこには涙を流す女の顔があった。
「......るし、ふぁー.........我が名は...らんす............」
そこで糸が切れたように彼女は倒れる。
どうやら不完全の召喚で、予想のかなり上をいくバグを起こしてしまったようだ。だが、
「...アーサー...裏切り...【ランスロット】に【ルシファー】、むしろかなり面白い者が生まれたようですよお祖父様。」
笑みを隠しきれず、私はお祖父様の方を向く。
「悪魔、本来は味方にすべき戦力でしょうが私に一つ妙案が浮かびました。これならさらに魔族が孤立するでしょう。また、ほかの領も。」
「...そうか、ならばこやつは【リーフ】、貴様に一任しよう」
「はい、お任せくださいお祖父様」
そうして控えめに敬礼すると、お祖父様はその場をあとにする。
「...ルシファー、あなたにはこの盤面、さらに荒らしてもらいますよ」
意識ない黒翼の天使を見つめ、他のものをよそに、この先の展開を想像して笑いが止まらなくなった。
勇者も
魔王も
私の【おもちゃ】にすらならないこの世界の片隅で。




