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act.9

「それで?」


 取り敢えず、目の前の現状を整理する事から始めるとしよう。

 シガリロに火を付けて、目の前に立つ二人の女性を見た。


「その、私は長壁と申します」


 女はチラチラと僕と床を交互に見ながら控えめに告げる。

 どっかの研究員なのか白衣を纏っており、丸メガネを掛けたオタクっぽい女性だ。


「雪城なぎさです」


 その脇に立つ僕と同じか少し幼いぐらいの少女と呼ぶに相応しい少女が自己紹介する。

 ブレザータイプの制服を纏い、髪は茶髪のショートで活発系な印象を受けつつもギャルを目指してみた中学生的な印象も受けた。

 僕も改めて自己紹介して、名刺を差し出すと向こうも何やらファンシーな名刺を差し出してきたので貰っておく。

 オサカベホノカ……長壁ほのかと書かれていた。なるほどね、長壁ってこう書くのね。隣のユキシロナギサにも渡しておく。向こうは名刺を持っていなかった。期待はしていなかった。ただ、名刺持ってないんですと謝られたのには随分と好印象である。


「オサカベさんにユキシロさん、ね。

 それで、依頼に付いてもう一度お聞かせ下さい」


 オサカベさんを見る。


「はい。

 簡単に言えば、ゾンビを倒して欲しいのです」

「ゾンビですか……」

「はい。

 ウイルス性のゾンビで、人間の理性を奪い食欲が無制限に湧き出るのです」


 その理由も話そうとしてくれたが、早口で専門用語とその解説を挟む為についていけなかったので、途中で咳払いをして止める。


「取り敢えず、食欲に忠実な非常に死に難い人形の化け物共が居るのですね?」


 纏めて、尋ねる。

 長壁さんはその通りですと頷いた。


「では、そのゾンビ共を片付けるのが依頼で?」

「正確に言うと違います。

 このウイルスに対抗できるウイルスが保管されている場所まで連れて行って欲しいのです」

「貴女を?」

「いえ、この娘です」


 段々ときな臭くなってきたな。

 この娘ですと長壁さんはユキシロを見遣るのだ。面倒事に巻き込まれつつあるかも知れない。


「……成程」


 よし、マリーも連れて行こう。僕の戦う所を見せて今一度、僕がちゃんと師匠であるという事を認識させておこう。別にここ最近パックやアリス、くるみ子さんの所ばかり行って何だかってハブられている様な気がしてる訳ではない。

 マリーにもお師匠程とは言わないが、僕程度にはなって欲しいからね。

 子守……否。たぶん、このユキシロは何らかの対抗措置を持っているのだろう。


「あ、あの、何故なぎさを連れて行くのか聞かないので?」

「序に僕の弟子も連れて行くので子守が一人増えようが問題ないですよ」


 にっこり笑って灰を落とす。


「ユキシロさんは人殺しの経験は?」

「ありませんが、戦い方は知っています」


 ユキシロは拳を固めて見せた。ゾンビを殴る気なのかな?


「能力者で?」

「そんな様なものです」


 そんな様な、という事はまた別の何かか。成程成程、つまりは深く聞かない方が今の生活の為になる、と。


「分かりました。

 では、僕等が死んで逃げる際にその力を発揮して下さい。それ以外は前に出ないで、お願いします」


 にっこり嘲笑って答える。

 さて、出発は明後日で良いだろうか?細かい話を詰め、マリーが帰ってくるのを待つ。

 事務所を構えて、日々やる事は簡単だ。マリーのお世話と同居人のお世話。後は税金と家賃相手に格闘するだけ。これが一番大変だ。

 この前もエマからセールで安くなったレーザーカートリッジを12発買ったお陰で今月も少しピンチだ。


「只今帰りました」


 ソファーに座って新聞を読んでいると、マリーがライフルケースを背負って戻って来た。


「おかえりマリー。

 ライフルはどうだい?」

「はい。30口径ライフルはまだ反動にビックリしてしまいますが、22口径なら実戦に出ても大丈夫だと言われました」

「それは重畳。

 明後日、ゾンビを殺しに行くよ。今使ってるライフルは?」

「公社製のトレーニングライフルです」


 それは駄目だな。よし、エマの所に行こう。

 マリーに帰って来たばかりで悪いがと断りを入れてエマの店に向かう。エマの店は実は24時間やっている。と、言うのも彼女がただのガンフリーク故に何時行っても銃を弄ってる為に24時間営業なのだ。

 因みに彼女が寝落ちした時点で閉店し、代わりに古ぼけた警備ロボが起動し、銃と弾薬の販売をしてくれる。メンテナンスは予約のみ受け付けてくれる。


「やぁ、エマ」


 エマの店に入ると、相変わらずカウンター裏にある手入れ台で銃のメンテナンスをしていた。顔には大きめの拡大鏡を付けている。

 僕とマリーの姿を認めると、エマは作業を止めて拡大鏡を取った。


「あら、珍しいわねこんな時間に」

「うん。明後日マリーを連れてゾンビを殺しに行くんだ」

「あら、面白そうね。

 ショットガンはいる?」


 エマはカウンターに様々な銃を置いていく。楽しそうにマグナムだのショットガンなどの話をしながら。


「悪いけれども、エマに1丁セミオートの狙撃銃を設えて欲しいんだ。

 口径は22口径。実戦向きで装弾数は最低でも20発。中程度の倍率スコープとドットかホロを付けて欲しいな。

 コンバットモデルだと良いけど、なければスポーターでも可」


 注文を告げるとエマは複数の銃を挙げた。


「ご要望の銃はMK12DMR、M38DMRに後はアサルトライフルをロングバレルにしたくらいね」


 さてはて、どうするかな?


「君のオススメは?」

「私カスタムのアサルトライフル改良型狙撃銃」

「それで行こう。

 君の腕は高く買ってる。もし、良ければ宣伝もしよう」


 にっこり笑って告げると、エマもニッコリ笑う。


「35万」

「15万」

「32万」

「17万」

「30万」

「19万」

「27万」

「20万」

「売った」

「買った」


 エマはふと何かを思いついた様にニヤリと笑う。


「私と結婚してくれたら15万でも良いわよ」

「君の気持ちは嬉しいけど。今の僕じゃ君を幸せには出来ない。

 もし、僕が君を幸せに出来る様になった時に、君がまだ僕の事を好きなら、その言葉を掛けて欲しい」


 告げるとチッと舌打ちをされた。


「明日中に仕上げられるかい?」

「任せて。

 午後にマリーをウチに寄越して。調整するから」

「分かった。マリー、明日は誰の授業を受けるんだい?」


 くるみ子さんであって欲しい。

 くるみ子さんなら一緒に誘って僕の勇姿を見せ付けて惚れさせたい。


「アリスさんです」


 糞。また嫌味を言われるぞ。アリスかー……


「わかったよ。

 今から行って謝ってくるから、先に家に戻っていなさい。銃を抜く時は迷わない様に。この世界では存外に命は安い」

「はい。分かりました」


 マリーは未だに人を殺していない。大型の鹿や熊などを仕留めて来たことはあるが、人や人だったモノを撃った事はない。

 本当に撃てるだろうか?まぁ、弟子を信用してあげるのも師匠の仕事か。

 シガリロを咥え、火を付ける。


「取り敢えず、行ってくるか」


 彼女がお気に入りの茶葉を売っているカフェに向かう。拍車を鳴らし、歩く。シガリロを咥え、ゆっくりと時折灰を落とし、紫煙を吐く。


「其処を退け!」

「強盗よ!」


 この街ではよくあることだ。正面からレーザーガンを持った強盗はバックを片手に走ってくる。こちらに向かって。僕に撃たれる。バカだな。シガリロを咥えて、右手で抜いて撃つ。ガウンと銃声がしたと同時に男はもんどりうって倒れる。右膝を撃ち抜いた。右足は再生治療をするか義足に変えない限りは使い物にならないだろう。

 シガリロを手に持って足を押さえている男の許に。


「大丈夫かい、強盗君?

 あぁ、銃を向けない方が良い」

「うるせぇ!!」


 こちらに銃口を向けようとしたので、銃を持つ右腕の関節を撃ち抜いてやった。これで右腕は使えない。


「話を聞きなよ。

 僕は今、あまり機嫌が良くないんだ。君の持つ鞄を返して貰うよ。僕は宇宙人とは違って犯罪者をどうこうするつもりはないからね。それだけでいいよ」


 バックを回収して後方でアワアワとしている男に返すことにした。


「さぁ、どうぞ」

「あ、ああ、有難う、御座います」


 目的の喫茶店に着き、中に入る。中では初老の夫婦がぼんやりとカウンター席とその奥に座っていた。


「どうも。

 ダージリンの茶葉とスコーンを3つ程包んで貰えますか?」

「すみません。スコーンは売り切れてしまって」


 もはや顔馴染みと言っても良い程に通っているが、お互いの名前は知らない。お婆さんが顔を申し訳なさそうに顰めた。


「では、ダージリンに合う物を何か」

「ではミートパイが残ってるのでそれは如何ですか?」

「ではそれで」


 目的の物を買った後は花屋に行く。


「ああ、いらっしゃいアキンボの旦那」

「ええ、アイビーゼラニウムはありますか?」

「アイビーゼラニウム?

 それは今は無いなー何だい?誰か怒らせたのかい?」

「怒らせる予定なんですよね。

 約束していた事が実行出来なくなりまして」

「成程なぁ。

 じゃあ、ポピーやヒヤシンス。あとはカモミールか?」


 許してヒヤシンス……


「ではその3つで花束を」

「あいよ。

 アリスちゃんのとこかい?」


 店主は花束を作りながら訊ねる。


「はい。

 どうにも彼女には嫌われてしまっていて。僕としては仲良くやりたいんですけどね」

「ハハッ!贅沢な悩みだな」

「彼女は大変な努力家で、腕も良い。自分に驕らないという点では僕も見習わなくてはいけないですね。

 深い関係は望みませんがせめて、良き友人にはなりたいものですね」


 肩を竦めると店主は一際大きく笑い、花束を差し出してきた。代金を払い、花束と茶葉を片手にアリスの家に。

 胃が痛くなってきた。ホルスターの銃を今一度確かめて、チャイムを押す。暫くすると扉が開いた。


「何か用かしら?」


 扉の奥で何やらガタゴトやっていたので夕飯でも作っていたのかもしれない。


「うん。

 君に大事な話があってね」

「だ、大事な話?」


 アリスが何やら緊張した面持ちになった。


「あぁ、マリーの事なんだ」

「……マリー?」

「明日、君の授業を受けると聞いたんだけれども、キャンセルさせて欲しいんだ」


 そこまで言った所で、部屋の奥に何やら銃を抜いた男が見えた。バッチリと目が合う。

 アリスを引き寄せつつ、リボルバーを抜き放つ。

 弾は男の胸に着弾し、男はそのまま倒れるが手応えがない。


「何よ!?」


 アリスが顔を真っ赤にし、激怒していた。あーあ、やっちゃった。


「申し訳ない。

 でも部屋に銃を抜いた男が居たんだ」


 言うとアリスは僕の腕を跳ね除けて部屋を見る。そして、部屋の中に走って行く。警戒する様子がない。

 アリスは倒れている男を確認する。

 僕は弾丸の交換だ。


「大丈夫!?」

「あ、ああ、防弾チョッキを着ているからな」


 男はゴホゴホやりながらゆっくり立ち上がる。脇に転がるのは自動拳銃だ。正確に言えばマシンピストル。

 ベレッタM93Rのカスタムだろう。


「申し訳ない。銃を抜いてこっちを伺っていたから敵かと思ったんだ。

 知り合いだったかい?」


 油断なくM1858を構えて中にお邪魔すると、男は僕を睨みつけながらラフィカを拾う。


「い、いや、気にするな。俺はコック。

 お前はシェリフの弟子、トゥーハンドのアキだな?」


 コックと名乗る男が告げた。銀縁の眼鏡をかけたエリートみたいな男だ。

 金髪碧眼で鉤鼻。ドイツ系。……ふむ、そう言えば公社にコッホとかいうマシンピストルを両手に持って戦う奴がいるとお師匠が鼻で笑っていたな。

 コイツがそのコッホか。歳は18か9。僕とは違い今の人だ。


「君のことも聞いてるよ。

 公社のコッホだろう?」


 リボルバーを仕舞って、入口に置いてきた花束と茶葉達を回収する。ミートパイが潰れてしまったな。やれやれ。


「ほぅ、俺のちゃんとした名前を知っていたか」

「ええ、お師匠が公社には両手にマシンピストルを持って戦う奴がいるって言っていたので、そうなのかな?と」


 コックとはコッホの英語読みだ。


「しかし、あのシェリフに名前を覚えてもらえるとは、俺も有名になったものだ」


 コッホはニッと笑う。お師匠は彼を扱き下ろしていたが、まぁ、それは伝えなくとも良いだろう。知らぬが仏だ。

 僕も愛想笑いをしておこう。


「それで、お前は何をしに来た?」


 コッホは僕を睨みながら告げる。なんでコイツは僕に敵意むき出しなんだ?やっぱり突然撃ったから?でも、影に隠れて銃を抜いてたら撃つよね普通。

 でも、気にするなって本人も言ってたし。


「うん、僕の弟子が彼女に授業を取っていてね。

 明日、弟子を連れて仕事に行く事にするから授業が出来ない事を謝罪しに来たんだ」


 アリスにも告げる。手土産を見せる。


「もう仕事に連れて行くわけ?」

「うん。

 22口径のライフルなら問題なく扱えるっていう話だからね。エマに小銃を設えてもらって明後日行く予定さ」

「どんな仕事なの?」

「ゾンビが溢れ返った研究所に研究員を連れてワクチン回収かな」


 言うとアリスはフーンと興味なさそうに告げる。


「人では足りてるの?」

「僕とマリーの半人前が二人で一人前。

 研究員もESPらしいから丁度じゃないかな?」

「私も手伝ってあげるわ。

 勘違いしないでよね!あんたの為じゃなくてマリーの為よ!」


 ツンデレみたく言っても君には萌えない。


「勿論。君がいるならマリーも安心だね。

 でも、そうなると契約者にも話を付けないとね」

「私の分の代金はいらないわ」

「では、僕から払おう。

 マリーの実戦教育も君と僕で教えたい」

「なら今度食事でも奢りなさい」

「お安い御用で」


 そんな話をしているとゴホンとやられた。


「その任務、男はお前だけか?」

「……そうだね」


 そう言えば、男手が無い。


「俺も行こう」

「依頼主に聞いてみよう。

 集合は明後日の朝8時にホテルラ・カンパーニュのロビーだよ」

「分かった」


 それじゃあと二人に別れを告げて部屋を後にした。

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