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act.10

 私の先生について話をしよう。

 先生は17歳くらいでコールドスリープで寝ていたらしい。凄腕の銃士で、冷酷無比な殺し屋で、パパを殺した人だ。

 先生の師匠、お師匠は先生の事を褒めていた。先生は拳銃で人を殺す事にかけては類を見ないほどに天才だと。先生は2丁の古いリボルバーで戦う。

 両手で目に見えない速さで銃を撃つのだ。瞬きする間に的に当たってる。


「先生、今日はリボルバーじゃないんですね」


 隣で私の新しい小銃を眺めている先生に尋ねる。何時ものリボルバーも腰に吊るしているが、後ろの腰に2丁の自動拳銃を提げているのだ。


「うん。

 リボルバーにはサプレッサー付けられないからね。ゾンビは音に反応するんだ」


 だからマリーの銃にもサプレッサーを付けたんだよ?と私の小銃の銃口に付いた丸い筒を触る。

 これが付くだけで銃声がひどく抑えられるのだ。バスンと凄い鈍い音になるだけだが、離れた場所から撃たれればこのバスンは殆ど銃声と分からないし、音も響かない。


「それに、今日は殺すのが仕事じゃないからね。

 然程大きな銃撃戦はしないよ」


 先生はそう笑うと小さな葉巻を咥えた。パパが吸っていた奴よりも小さい。前にそれを指摘すると、先生は困った顔で君のパパはお金持ちだったからねと肩を竦める。

 パパの吸っていた葉巻は高いらしい。


「でも、マリーには最低でも敵の一人は殺してもらうからね」


 先生は何時も通りの口調で告げた。

 先生は怒らない。失敗しても、決して怒らない。それが逆に怖い。他の先生、くるみ子さんやアリスさん、パックさんは私が危ない事をしたりすると怒るが、先生は決して言わない。銃口を覗いても、危ないよと言うだけなのだ。

 他の人なら間違いなく怒鳴る。でも、先生は怒鳴らない。

 君はこんな事も分からないのかという顔をし、一から説明してくれる。それが堪らなく恐ろしい。


「お前の作戦は?」


 私達の向かいに座るスーツの眼鏡を掛けた男の人が先生を睨み付けながら聞いた。この人は嫌いだ。


「こんなお使いに作戦を立てるのかい?」


 先生は驚いた顔をした。

 先生は作戦というものを考えない。正面から堂々と向って正面から堂々と帰ってくる。決してコソコソしない。紳士は胸を張って歩く者だと先生は教えられたと言う。

 だから目に見える邪魔者は勿論の事、目に見えない場所にも気を配れと言う。足元天井壁の向こう。何処に何があるのか常に考えて歩くのだと。


「作戦もなくどう戦うつもりだったのだ?」

「どう戦うも何も、作戦ってのは相手が僕等と同等以上に知能がある連中に使うんだよ?

 相手は動く死体だ。力押しで負ける。数にも劣る。作戦は相手に知能があれば使えるが、知能が無ければ意味がない」


 先生はまるで見聞きした様に告げた。


「先生はゾンビと戦ったことあるんですか?」

「戦った事は無いけど、ゾンビと戦う知識はマリー達よりもある。

 まぁ、通用するのかは知らないけど」


 なんだそれは、と眼鏡の人が言った。


「マリーと、言ったか?」

「……はい」

「お前の先生は随分と、バカだな」

「先生はバカじゃないです。

 先生は貴方よりもずっとずっと強いです」

「こらこら、マリーあんまり言うと失敗した時が恥ずかしいじゃないか」


 先生は困った様に笑うと小さく溜息を吐いた。


「確かに、僕はそこら辺の奴等よりも強い。だが、僕より強い奴は一杯いる」

「例えば、誰ですか?」

「そうだな。

 言うまでもないけど、お師匠やくるみ子さん。分野は違うがパックもそうだし、誠に遺憾ながらうちの同居人もそうだ。本当に遺憾ながらね。出来るならば、認めたくないね。あれが僕より上って言うのは」


 先生は不愉快そうに眉を顰め、それから肩を竦める。ふと、視線を感じる。そちらを見るとアリスさんが凄まじい眼力で私を見ていた。その眼には私の事を聞きなさいと書いてあった。


「アリスさんはどうですか?」


 私はアリスさんの期待に応えることにした。


「アリスかい?」


 先生は振り返ってアリスさんを見る。アリスさんは慌てて顔を背けていた。


「アリスは優秀だよ。

 マダムのお墨付きだ。お師匠もアリスを褒めていたしね」


 僕もそう思うよ、と先生が笑う。その時、乗っていた車が止まる。

 見ると真っ白な建物が目の前にあった。巨大な建物で外観はシンプルな直線の線で作られている。


「着きましたよ」


 運転をしていたのは雪城さんという人だ。動きやすい服装で、膝と肘にガードを付け、腰にはナックルダスターをぶら下げていた。


「じゃ、行こうか」


 先生はそう言うと一度だけニッコリ笑い、それから真顔に戻って外に出た。先生のお仕事モード。先生の周りは一瞬で冷たくなる。

 背筋が寒くなる。

 ライフルの背負い紐を通し、槓桿を引いて安全装置を掛けた。


「僕が前を行くから、コッホは殿で、アリスはユキシロさんの護衛を。マリーは後衛で僕の援護をお願いね」


 先生は歩きながら告げた。

 自動拳銃を腰後ろに差して、気負った様子も無く歩いて行く。私は初めての実戦という事で酷く緊張する。アリスさんや眼鏡の人も大分顔を引き締めていた。皆、私よりプロなのだ。

 くるみ子さんは気持ちの切り替え、スイッチをイメージしろって言っていた。


「此処から先、ゾンビが居ますのでご注意下さい。

 もう一度、確認します。貴方達は私を研究所のウイルス研究部へ届け、対抗ワクチンのサンプル及びデータ回収の支援をしてもらいます。

 ゾンビに噛まれた場合、直後には問題ありませんが感染1〜2時間程で発熱と体のダルさ、3〜4時間程で猛烈な飢餓感、5〜6時間程で堪え様のない空腹に襲われ、7時間程で全ての理性が無くなり空腹を満たす為にあらゆる肉を食べようと考えます」

「噛まれなきゃ良い話だ」


 眼鏡の人が余裕ぶって見せる。


「中に生存者や味方は?」

「いません。

 我々だけです」


 先生の質問に雪城さんは告げる。それから質問はないか?と全員に聞くが私を含め誰も無かった。


「それでは、行きましょう」


 雪城さんは頷いて、扉の脇にあったタッチパネルに手を翳す。

 すると、扉が音も無く開き扉の前に一人の男が立っていた。敵だ。慌てそうになるのを堪えて安全装置を外し、構える。

 そして、サイティングをして引き金を引いた。

 バスンと鈍い音がして、男は頭を弾けさせた。男は力無く倒れ、先生は腰後ろに両手を回して上着とコートを跳ね上げながら自動拳銃を取り出した。


「ナイスショット。

 積極的に行こう」

「はい!」


 先生に褒められた。嬉しい。

 先生の後ろを5メートル程離れて続く。先生は両手に自動拳銃を持っている以外は何の気負いもなく歩き、通路に立つゾンビの頭を正確に素早く、一切の躊躇いも無く撃って片付けていった。

 私の出る幕はない。


「早く来てください」


 未だ外で固まっている3人に告げると、3人は慌てて私達の後について来た。

 アリスさんも眼鏡の人もサプレッサーを付けていない。


「アリスとコッホは極力撃たないでね」


 ゾンビが寄ってくるから、先生は振り返って告げた。

 それから私は先生が指名したゾンビを撃って歩く。あまりにゾンビが固まってる場合は迂回し、雪城さんのナビで研究所奥に進んで行く。


「何か、つまんないね。

 空き缶撃ってるみたい」


 研究所の真ん中辺りまでやって来た時に先生が告げた。


「貴方が強過ぎるのです」


 後ろにいた雪城さんが不満そうに告げる。


「楽できて良いじゃない」


 アリスさんは銃を抜いているものの、引き金に指を掛けず、もっと言えば構えてすらいない。


「よし。

 これからはマリーが先頭に立ちなさい。君もこの道で行くなら索敵ぐらい出来る様にならないとね。

 お師匠までは行かなくても、僕程度には敵を見付けて素早く撃つ事ぐらい出来ないと」


 そのお師匠は先生の索敵と射撃には敵わないねと言っていたのを、先生は知らない。お師匠は先生に厳しいのだ。


「さ、やってみて」


 先生は私の後ろ回る。

 私はオフセットのドットサイトに構えて先生の真似をしてみる。


「違う違う。

 小銃は流れる様に構えて狙って撃つんだよ。貸してごらん」


 先生に小銃を渡す。

 先生は斜めに銃を構えて歩く。そして、ゾンビがみえた瞬間には弾が出て、弾着を確認せずに次のゾンビを撃っている。

 銃口が空中をハエのようにヒューンと動きその間に弾が出る。


「ね?簡単でしょう?」


 はいと渡されたが多分無理。アリスさんや眼鏡の人を見ると眉を顰めていた。

 2人でも難しい様だ。


「先生は二丁拳銃の時もそうやってるんですか?」

「え?うん。

 大体頭辺りに構えて撃つんだよ。拳銃なんか特に楽だよ。腕の直線上だからね。しかも自動拳銃だし」


 腕振るだけで倒せるから凄い楽と先生は笑う。


「自動拳銃ってやっぱり凄いよね。

 撃ちやすいし、反動も低い。僕も此方に変えようかな?」


 ロマンが足りないけどね、と先生は言うと私の襟首を掴んで引き戻した。


「コラコラ。

 足元注意だよ?このレーザーは何かな?」


 先生が振り返り雪城さんを見た。


「警報ですね。

 まだ生きていたとは」


 雪城さんが驚いた顔をしていた。

 先生はフムと頷き、私を脇に下ろすと雪城さんに完全に向いた。張り詰めた緊張感が唐突に現れる。何処から出たのか、見るまでもなく先生だ。


「ふと、思ったんだけど君はゾンビウイルスに完全に適合出来ているのかい?」


 先生の質問に雪城さんは一瞬止まる。嫌な予感がしたので小銃を構え様としたら先生に銃身を掴まれた。


「こらこら。

 ゾンビになってないんだから撃っちゃ駄目だよ」

「……気が付いていたのですか?」


 どういう事だろうか?

 全員、先生を見ていた。


「気付いたのか?って言えば嘘になるけど、君は実に怪しい。

 ESPじゃないし、銃は勿論、剣や鈍器を持たないで素手で戦う。事前にウイルスの恐ろしさを説いておきながら素手による格闘は、些か考えられないよね」


 先生は雪城さんが握り込んでいるナックルダスターを見遣る。


「私は孤児でした」


 雪城さんは何かを観念したように、少しシュンとしながら話し始めた。

 主観での話で、要領を得ない。私は然程頭が良くない。周りの、アリスさんや眼鏡の人は憐憫な目を向けていた。多分、彼女が自らの可哀想な生い立ちを語り、実験に参加したと言う話をしたのだと思う。

 多分。先生を見ると、先生は毛ほども興味ないという目をしながら顔を顰めていた。先生は本当に情が薄い。好きな人すらも良くわからない。

 アリスさんが先生の事をあれこれ聞いてくるのに対して、先生はアリスさんやくるみ子さん、エマさんに関する質問はほぼしてこない。

 唯一することと言えば、エマさんに風呂と食事に睡眠をちゃんと取る様に言伝を頼む事くらいだろう。

 先生にエマさんだけ心配するのは好きだからか?と聞いたら笑われた。曰く、エマさんが死ぬと先生の銃や武器、私の武器を完璧に手入れしてくれる人がいなくなってしまう。またエマさんも女性なのだから身嗜みや美容等にも目を向けるべきだと言われてた。

 先生とはそういう人なのだ。

 全員から共通で出されている極秘の宿題は先生の意中の相手を探って来いというもので、これに関しては面白半分だろう。


「つまり?」

「えっと……」

「僕は、君が今すぐにゾンビになるのかどうかを知りたいんだよ。

 君の過去には同情を禁じ得ないが、今はどうでもよい。君はそこ等のゾンビ同様に僕等を襲うのかどうかを知りたいんだよ」

「それは無い……です。

 私は適合者です」


 雪城さんの言葉に先生はなら良いと頷き、最早興味を完全に失っていた。

 先生は私の背中をトンと叩く。


「さ、早く行こう」


 先生が問題ないと断じたのならそうなのだろう。

 私も銃を構えて歩く。取り敢えず、先生の言葉通り流れる様に構える。


「さっきから上半身だけで撃ってるけど、辛くないの?」

「え?」

「貸してごらん」


 もう一度小銃を貸すと先生は先程と同様に銃を撃つ。

 何が違うんだろう?


「奴の足元を見ろ」


 腕を組んで考えていると眼鏡の人が告げる。なので、先生に頼むともう一度見せてくれた。

 成程。


「あぁ!わかりました!」

「じゃ、どうぞ」


 先生から銃を借りて先生の動きを再現する。

 しかし、足元を大きく動かしていくので、足が縺れる。


「足腰の強化だね。体幹を鍛えよう」


 先生はそう笑うと、交代ねと前に出た。

 きっと後を歩くのに飽きたのだろう。鼻歌を歌いながら前を歩いていく。先生はやっぱり凄い。

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