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act.8

 渾名を持つ者は良くも悪くも変人が多い。僕はそんな渾名持ちの中でも数少ない常識人だと思う。


「お前もやっぱり頭がおかしいよな」

「え?何処がですか?」


 思わず、銃を撃つのを止めて僕を変人呼ばわりする人物に正対してしまう。目の前を弾丸が3発掠めていく。


「うぉい!?

 全滅させろよ!」

「あ、すいません」


 残った奴を撃ち殺し、再度向き直る。

 茶髪に金属のチェーンを握る女は笑みを凍らせていた。


「それで、僕の何処が頭おかしいんですか?」

「何処がって、お前……

 どこの世界に型落ちとはいえパワーアーマー着こんだマフィア共を一撃で仕留めるんだ?あぁ?」

「何処の世界って、この界隈じゃ誰だって出来るじゃないですか。

 サヤさんも出来ますよね?」

「いーや、出来ねぇ。

 私は20メートル離れた先に居るパワーアーマーのアイカメラをハジキで撃ち抜くなんて出来ねぇ。しかも、腰撃ちで!」

「僕なんてまだまだですよ。

 お師匠なんか跳弾でパワーアーマーの電源撃っちゃうんですよ?僕にはあんな正確な跳弾技術はないです」


 本当にお師匠は凄い。パワーアーマーの殆どが首の後ろ側にスイッチが付いている。そこを壊せばパワーアーマーは運転停止し、自動的にパワードスーツの拘束を解除してしまう。所謂エスケープボタンであり戦場だと手足とかが千切れたり、その他色々な理由でパワーアーマーを脱がねばならぬ事態の為についているのだ。


「……パワーアーマーの装甲叩き割るだけの技量がないからそう言う小手先の小技を使うんだろうが。

 お前みたいに真正面からパワーアーマーを捻じ伏せる奴なんざ、くるみ子みたいな能力持ちか、全身義体化した奴に対戦車火器持ってる奴ぐらいだよ」

「お師匠の技は小手先の小技じゃないです。

 僕はお師匠のあの技術だけは習得出来ていないんです。見てて下さいよ?」


 新しい弾を入れて脇の壁を狙って撃つ。弾はコンクリート製の柱に当たり、跳弾し、パワーアーマーの背中にあるスイッチ近くに当たる。もう一発少し角度を変えて撃つ。2発目にして漸く当たるのだ。


「お師匠は一発で当てる」

「……そうかい」


 サヤさんはとんだ逝かれ野郎だと小さく呟く。何時か絶対、僕がまともだと証明してやる。

 リボルバーをホルスターに収め、歩き出す。今日の仕事はかなりの高い報酬が出るのだ。これの成功報酬でレーザー弾を買う。


「そういや、くるみ子は最近どうよ?

 ストーカーに付きまとわれて最悪だとかほざいてたが」

「ええ、人形師が最高級の義体にして、お師匠が膝と肘を撃ち壊したんですよ」

「へーその変態はどうした?」

「人形師が治療費未払いだから回収してくれって。

 この前行ったら脳みそを呪術師に売ったって言ってました」


 サヤさんが煙草を咥えると先端を指で弾く。すると煙草に火が付いた。サヤさんも能力持ちでその能力は炎を操る。くるみ子さんの師匠としてピッタリなのだ。そして、サヤさんもヤンキーでくるみ子さんもヤンキー。出来過ぎだろうが。

 僕もシガリロを咥え、火を付ける。

 そして、ヒップショットでリシェコショット。


「何だ急に!?」

「え?いや、ほら」


 ガチャンとアイカメラに穴をあけたパワーアーマーが曲がり角から顔を出して倒れている。


「……お、おう」

「煙草すらゆっくり吸わせて欲しいよ。

 お師匠とくるみ子さん達も難儀してるでしょうね」


 ふーっと紫煙を吐き出す。


「しかし、まぁ、公社の息の掛かっているマフィアに加担してマフィアの抗争に顔を出すってのも世も末ですね」

「我慢しなよ。

 私等は所詮マー……マーセリー?」

「マーセナリーですか?傭兵ですね。

 確かに僕等はワイルドギースですからね。せっせと血を輸出しましょう」

「……わいるどぎーす?血の輸出?どういう意味だ?」


 流石ヤンキー。横文字と歴史に地理も苦手か。


「ワイルドギースは、直訳すれば野性のガチョウ、或いは乱暴なガチョウ。ガチョウは渡り鳥として有名です。そして、傭兵っていうのは根無し草みたいなものですからね荒事を求めて世界を旅するのを掛けたみたいですね。

 因みに、ワイルドギースっていうのは16世紀位のアイルランド人傭兵が名乗っていた傭兵団が起源らしいですよ」

「……そーかい。お前は何でも知ってんな本当に」

「何でもは知りませんよ。知っている事だけです」


 煙草休憩を終えて、リボルバーを両手に歩き出す。


「さて、もう一息ですかね?」


 再度、撃つ。壁を。すると、ギャッと声がする。何だ、生身か。


「生身ならパワードスーツ相手より楽で良いですね」

「そうかい。

 ンじゃ、戦闘は任せるよ」

「ええ、レディーファーストは僕の趣味じゃないんで」


 リボルバーを引き抜いて曲がり角を曲がる。そこには防弾チョッキを着こんだ重装歩兵が倒れている。脇には軽機関銃も落ちてた。おお、怖い怖い。

 これは公社が作った奴だ。

 レーザー弾を発射できる強力な奴でこれ一丁で装甲車ぐらいなら簡単に壊せる。おーこわ、こんなものまで用意しているのか。


「奴等、そんな物まで持ち出してきたのかよ……」

「殺す気満々ですね。

 僕はただの人間なのに」


 リボルバーを手の中で回し、ホルスターに仕舞う。そして、落ちている軽機関銃を手に取り、適当に壁を薙ぐように撃っていく。阿鼻叫喚の叫び声だ。

 3往復程して弾が切れた。銃身は真っ白くなっていた。白熱ってのは正にこの事だ。重たいそれを脇に捨て、愛銃を抜く。


「やっぱり駄目だな、機関銃は。雑だ」


 扉を開けて、中で痛みに悶え苦しんでいるマフィア共に止めを刺していく。可哀そうに。


「ま、自分たちが用意した武器だしね。

 よく言うだろう?殺すつもりなら、自分が殺されることを覚悟しろってさ」

「ホント、アンタはオッかない。

 あ、上に居るかも」


 サヤさんが上を指さすので試しに上に向かって3発ほど撃ってみる。すると、ギャッと叫び声が聞こえ、何かが倒れる音がした。


「凄いですね、サヤさんの能力。

 熱感知ですよね?」

「うん、ま、私はアンタと違って殺気ってのを感じるのは無理だけどね」

「ん~……殺気っていうのはまぁ、あれですよ。

 こう……ん~……こんな感じですかね?」


 サヤさんに思いっきり、分かりやすいように殺気を放つ。殺気の習得は僕も中々に苦労した。お師匠に何度もやられた。

 サヤさんは反射的に後ろに飛びのいて僕に手の平を向ける。僕はそれに両手を挙げてみせた。


「落ち着て下さい。

 今のが殺気ですよ。サヤさんが周りの温度を感じられるように、僕みたいな一般人はこういう小手先の小技で如何にかするしかないんですよ」


 困った事に、と肩を竦めて笑った所で誰かが部屋に入って来る。


「動くな!」


 見れば、ああ、糞。最近わざと会わないようにしていたのに。


「やぁ、アリス。

 君、此処の担当だっけ?」

「私が担当の場所、もう終わったからアンタの様子を見に来たのよ」

「成程。流石、アリスだね。

 僕はまだ、終わってないんだ。すいませんサキさん。僕がおしゃべりばかりしてたせいですね」


 これは不味い。またアリスに小言を言われる。任務をほったらかしてサキさんに鼻の下を伸ばしていたのかしら?とか。ああ、最悪だ。はー……


「ちょっと残りを片付けてきますね。

 5分程待っていて下さい」


 フーッと息を吐いて腰からリボルバーを抜く。


「手を貸そうかしら?」

「いや、お気持ちだけで充分さ。

 ただでさえ待たせてしまうのにこれ以上迷惑は掛けられないよ」

「残りは27人よ?私も行くよ」

「いえいえ。

 本当に大丈夫です。じゃ、行って来ますね」


 手の中でリボルバーを回し、外に出る。廊下に出ればガタガタと上を走る音がする。階段に向かって撃つ。コンクリートの柱に当てて跳弾させると、ギャッと声がして床に倒れる音がした。うん、これで一人。直後、階段からニュッとサブマシンガンが出て来た。馬鹿じゃないか?サブマシンガンを撃って弾き飛ばすとガッと呻き声が聞こえる。そして、その後ろにある柱を撃って撃ち殺す。これで二人。すると今度は手榴弾が飛んできた。破片手榴弾だ。

 この時代でも手榴弾は使われる。寧ろ、より安価に火薬式銃や爆薬が製造可能になり手榴弾は爆竹の様に子供でも手に入る。下手な銃より簡単に手榴弾や地雷が手に入るんだから。


「やれやれ」

「手榴弾よ!?」

「おや?」


 声がした方を見ればアリスが目を見開いていた。


「手榴弾は、直ぐには爆発しない。

 焦った奴から死んでいくんだよ」


 転がってきた手榴弾を足で止めて、階段に向けて蹴飛ばす。手榴弾は丁度踊り場に到達した瞬間に爆発する。


「ね?

 手榴弾は敵との距離に合わせて投げるタイミングを考えないとダメなんだ」


 ま、軍隊じゃ抜いてすぐに投げろと言われているらしいけどね。

 この爆発に乗じて階段を駆けあがり、そのまま二階で体勢を整えていた敵を撃っていく。廊下にバリケードを作り、迎え撃とうという気概は良し。だが、些か遅い。タンスを運んでいた奴の膝を撃ち抜くとバランスを崩して倒れ、タンスの下敷きに。脇に倒れていた死体を見れば手榴弾をまだ持っていたのでそれを回収する。

 お生憎様。

 奥の方に出来ていたバリケードに手榴弾を投げて銃で撃つ。空中で爆発した手榴弾は破片を周囲にまき散らし大勢を巻き込んだ。うーん、理想的な爆発。室内戦で手榴弾は最強。はっきりわかんだね。


「相手は一人だぞ!

 撃て撃て!」


 だが、リーダー格の奴が叫びながら突撃銃を乱射する。おぉ、びっくり。でも、狙いを確りしてないのか銃口がブレブレでこっちには届かない。狙いを定めて銃を撃つ。男は後ろに倒れる。そのまま大の字で倒れるので隣に居た敵を巻き込んだ。

 あーあ、思わぬ誤算だ。ラッキーだね。


「奴は化け物か!?」

「失礼な!僕は普通の人間だ」


 部屋の奥に隠れている敵を撃ち殺す。

 やれやれ。馬鹿なのかな?左手でリボルバーを回し、右手のリボルバーを構える。狙った所に敵の頭が出てくる。うん、ビンゴだ。引き金を引いて右手のリボルバーをホルスターに収める。そして、左手で後続してくる敵を撃ち殺す。

 弾が切れたので近くの部屋に入り、ホルスターに収めたM1858を取り出して輪胴を交換する。新しい輪胴を入れてから外に出る。外に出ると銃口がこちらにこんにちわしていた。元気がよろしい。だが、死ね。殺気を飛ばすと狙っていたマフィアが怯んで銃口をずらした。あーあ、でも、しょうがない。

 そういうもんだ。引き金を先に引いた方が勝ち。つまり、僕が勝ち。焦っても駄目だが、トロイのも駄目だ。焦るな急げって奴だな。うん。

 時間もないし、とっと行こう。命短し恋せよ乙女と言うが、乙女よりも男の方が命が短いんだから急いだ方が良いよね。

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