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act.7

 さて、昼を食べ終えてマガトがマリーを連れて行ってしまった所から話は動き出す。




「それで、くるみ子くんの用件は何かな?」




 コーヒーを啜っているくるみ子さんにお師匠は視線を向けた。




「話が早いな。流石、シェリフ」




 くるみ子さんが一枚の手紙を差し出した。




「読んでみてくれ」




 手紙を開いて、お師匠にも分かるよう読み上げる。




「君は実に美しい。


 君を欲しい。その耳、鼻が欲しい……何ですかこれ?」


「多分、先程の宇宙人君が置いていったこの事件に関係あると思うよ」




 お師匠がグロ画像を再びテーブルに置いた。


 グロ画像は目を抉られたり、鼻を抉られたり、頭皮ごと髪を持っていかれた女性と思しき遺体が写っている。死体の抉られている箇所は皆バラバラである。




「彼女たちの特徴はみな、金髪らしい」




 お師匠の言葉にくるみ子さんを見る。




「私の髪は染めてるだけですよ?」


「さぁ?私もそこまでは分からないよ。


 だが、彼或いは彼女の目標はクルミ子君だという事は決まってるようだ」


「それでクルミ子さんの依頼はこの変態を捕まえる事ですね?」




 僕の言葉にクルミ子さんは頷いた。




「私一人じゃオーバーキルしそうなんで、アキに手伝ってもらおうと思ったんだよ」


「構いませんよ。


 僕で良ければ幾らでも」


「お礼は弾むぜ?」




 何でも言ってくれとクルミ子さんが言う。




「では、僕とデートして下さい」


「ははっ!


 なら今度、美味いラーメン屋見つけたら食いに行こうぜ。シェリフは?」


「ふむ。私としては何もいらないのだがね」


「それじゃ私の気が収まらないんだ」


「なら、アキの面倒をこれからも見てやってくれ。


 一人前ではあるが、それだけだ」




 お師匠の言葉に肩を竦める。


 やっぱり、お師匠には敵わない。




「アキは十分以上にやってますよ。


 あのアリスですら未だにトゥワイスの事務所で助手見習いなのに、アキはもう一端の事務所まで構えてる」


「いえいえ、僕だってまだまだお師匠の名前で仕事をもらってるようなものです」




 クルミ子さんの擁護にニヤける頬を隠しながら謙遜する。




「師匠の名前使ったって良いだろう?」


「確かに、恵まれた環境を全て活用するのも手ですが、生憎、僕も男の子。


 どうせなら自分の名前で食べて行きたいんですよ」




 僕の言葉にクルミ子さんは呆れたような顔をし、お師匠は少し目を見張った。




「男子三日会わざれば刮目して見よと言うが、正にその通りだ。


 自ら驕らず、日々精進。素晴らしいね」


「幸いな事に身近に自堕落の頂点みたいな奴がいるので反面教師にしてますよ」




 同居人を思い浮かべると、お師匠は明臣院君かと納得していた。




「さてはて、どうしたらこの変態を捕まえられるかな?」


「人形師に協力を頼んでみますか?」


「ふむ。彼は素直に協力してくれるだろうか?」


「あれはあれで、別次元の変態だからなー」


「聞くだけ聞いてみましょうよ」




 マスターに代金と礼を払い、店を後にする。


 人形師、彼、いや彼女なのか?体を何個持つ全身義体の人物でロボットや人造人間を作り、それを手足のように従え、戦場に出れば圧倒的な防御力と数で敵を押す。戦い方や戦術は平凡であるが、不死身の体と無尽蔵な人形により彼、或いは彼女は有名なのだ。


 人形師は表通りに店を構え、人造人間は勿論、所謂ロボット関連の販売、買取をやっているし、義足や義手、義脳等の施術も行っている。




「ふー……」




 店に入るには些かの勇気が必要だ。僕が未だに彼、或いは彼女と言う存在を掴めていないからかもしれない。


 お師匠とクルミ子さんは大した緊張等はしてない様だ。




「じゃあ、行きますか」




 扉を開けて中に入る。




「いらっしゃいませ」




 中に入るとメイド服を纏った女性が深々と頭を下げる。関節は全て球体で彼女が人造人間あるいは全身義体と一瞬でわかる。


 同時に頬には01と薄っすらと刺青の様な物が描いてあったのでこのメイドは人間ではなく人形であるとわかった。




「人形師は居るかな?」


「はい。


 お呼びいたします」




 メイドは一礼すると奥に入っていった。店は実にシンプルで落ち着いている。まるで老舗の病院や薬屋を思わせる懐かしくも陳腐な佇まいをしていた。


 暫くすると奥から褐色の肌にヤギの様な黒い角を生やした一人の少女が現れた。




「クカカ!


 どうしたトゥーハンド?それにシェリフとバタピーでは無いか!珍しい組み合わせだな」




 魔族みたいな少女は真っ黒な甲冑を身に纏い、腰にはロングソードを提げていた。彼女が人形師である。その証拠に頬には薄く00とナンバーが記されていた。




「バタピー言うな!


 アンタに少し頼みがあって来たんだよ」


「ほう?ワシに頼みとは?」




 人形師はニンマリ笑ってくるみ子さんを見る。




「それは僕から話すよ」


「ふむ?」




 人形師はまぁ、座れと接客スペースのソファーを指差すと、メイドに茶を出してやれと告げる。


 人形師に礼を言ってソファーに腰掛け、再度目の前の少女を見た。




「この前の青年はどうしたんだい?」


「アレか?あれは完熟も出来たし、今度は近接戦闘と電子ハッキング強化の義体を作ったんじゃ!


 アレと組み合わせれば最強よ、クハハハ!」


「その喋り方と笑い方がその義体のベースプログラムなの?」


「如何にも!


 この義体のモチーフは魔王!尊大かつ強大で、可愛らしい!ギャップ萌えだ!」


「前の義体とその義体、二人いたらすごく賑やかになりそうだね」




 僕の言葉に人形師はフムと顎に手を当てて、確かにと頷いた。




「ではこうしよう。


 二人には恋人のプログラムを入れて、アレが近くにいる時は尊大さは幾ばくか抑えよう」


「それが良いよ。


 それで、本題に入るけど、くるみ子さんそっくりの人形を一体作ってくれないかな?」


「バタピー人形を?


 構わんが本人がいる前でダッチワイフを依頼するとかどんなプレイじゃ?」




 くるみ子さんは顔を真っ赤にさせて右手に帯電し、お師匠は大笑い、僕はため息を吐くしかなかった。




「違うよ」




 くるみ子さんに抑える様告げ、事のあらましを話す。




「あー、最近噂になっとる奴か。


 アヤツの事ならワシ知っとるよ」




 おっと、事態は急展開。まさかの知り合いが知ってたパターン。




「どんな奴だ?」




 くるみ子さんが尋ねると人形師はにこやかな顔で右手を差し出した。




「何だよ、この手?」


「金じゃ、金。


 情報屋でも知らん情報じゃぞ?金になるならワシだって売る。金を寄越せ」




 イカれてても商人か。


 くるみ子さんは仏頂面で札束をポンと投げた。脇にいるメイドがお茶を出してからそれを調べ10万ですと告げる。




「ま、そんなもんで良いか。顔見知りだしの」




 クカカと人形師は笑うと、奥から何やらファイルケースを持って来て机の上に置く。




「ソイツの個人データじゃ」


「君が個人データを持っているということは、改造を?」




 お師匠がファイルを開く。




「うんにゃ、ちと違う。


 奴は頭がイカれてての、自分を理想のアリスにしたいとか何とか言ってな、何やら剥ぎ取った人間の体のパーツをいっぱい持って来てワシにくっつけて欲しいとか言って来たのだ」


「はぁ?なんだそれ?」




 くるみ子さんが意味分かんねぇという顔でお師匠の広げるファイルを覗く。僕も中を見れば、一人の痩せこけた気持ちの悪いバーコードハゲが写っていた。




「ヤクでもやってんのか、コイツ?」


「さぁ?


 取り敢えず、ヤツの持ってきた生ゴミは処分してワシの作った義体パーツでヤツの指示通りのア・リ・ス・を作ったんじゃがな」


「この変態も大概だが、君はそれを超えるね」


「だって面白そうだったんだもの」




 全く悪びれて無い所が人形師だ。




「それで?


 君に勝手に全身義体化された変態はどうなったのさ?」


「大激怒して金も払わずに出て行った」




 信じられん奴じゃ!と人形師は憤慨しているが、僕個人としては人形師に同情はできなかった。




「で、このアリスは何処に居るんだい?」


「クカカ!


 そんなもんは知らん」




 あっけらかんと人形師が言う。




「と、言いたい所だが、ワシは自分の作った作品には確りとGPSを取り付けて位置が分かるようになっておる」


「うわ、万が一にも義体化する事があったら此処では絶対頼まねぇ」




 くるみ子さんの言葉に同感だ。




「位置を教える代わりに奴を生きて捕まえてきてくれ。


 捕まえてきてくれるなら居場所をタダで教えやるぞ」


「まだ金取る気か、守銭奴め」


「その阿呆のせいで金が無いのじゃ」


「だろうね。


 んー、手足もげてても?」




 全身義体相手に五体満足で捕まえるのはかなり難しい。




「まぁ、しょうがないか。


 それぐらいなら目を瞑ろう」


「じゃ、交渉成立だ」




 お師匠が人形師からデータを貰い、それを端末に落とす。




「今は……ほう、私の記憶が正しければくるみ子君の家に居るんじゃないかな?」




 お師匠が僕とくるみ子さんに端末を見せる。確かに、僕の記憶でも地図が示す場所はくるみ子さんの家だ。




「あの変態野郎っ!あたしの家にもう来てるのか!


 ぶっ殺してやる!」


「殺しちゃだめですよ?」


「取り敢えず、行ってみるかい?」




 肩を怒らせて出て行くくるみ子さんに僕とお師匠は続く。


 10分ほど歩いてくるみ子さんの家に着くが、目標は移動していない。僕はリボルバーを抜いて輪胴を開く。お師匠も同様にハンマーを解放して輪胴をチャーっと回して見せる。そして、手の中に一回スピンさせると、ホルスターに収めた。


 お師匠はM1851リボルバーだ。M1851アーミー。44口径だから当たれば凄まじい威力だ。ダーティーハリーも使ってる。




「此処で捕まえたいですね」


「そうだね」


「ぜってーぶっ殺す!!」




 くるみ子さんは扉を蹴破ろうとしたので、お師匠と二人で慌ててくるみ子さんを止める。




「アキ。君はくるみ子君を。


 私が行こう」


「僕も行けます」




 流石にこの程度の敵に後れを取るほど未熟じゃない。




「違う違う。


 君は強くとも、くるみ子君はそうじゃない。彼女の護衛さ」


「私だってやれる」




 くるみ子さんが憤慨したように告げる。




「ふふ、残念ながら君はあの変態には勝てない。


 スペックだけ見ても公社の最新モデル義体の1.5倍の能力を持っている。しかも、人形師はあの変態の脳を弄って義脳化しててね。


 元の体と同じ以上に使える。いやー恐ろしいね」


「うへー……公社の最新モデルの義体より強いとか」




 人形師は本当に優秀だ。公社が命を狙っていた訳だ。優秀過ぎる。




「公社の最新モデル義体ってのはどんだけ強いんだ?」


「ケイ素系宇宙人の最新モデルパワーアーマーとステゴロで戦っても余裕で勝てるらしいよ。


 私は見た事ないから分からないけど、聞いた話ではそのパワーアーマーを着たケイ素系宇宙人の小隊は敵宇宙人の大隊を壊滅させたらしいよ」




 くるみ子さんは難しい顔をして僕を見た。




「お前、それ本当に倒せるのか?」


「倒せるんじゃないですかね?


 僕自身、正直パワーアーマー倒すの苦手ですけど」




 肩を竦めると、お師匠が笑う。




「やれやれ。


 アキのあの腕を持って苦手ときたか。じゃあ、私はパワーアーマーを倒せないんじゃないかな?」


「お師匠は綺麗にパワーアーマーを殺すじゃないですか。


 僕はああも上手く出来ませんよ」


「……そういう事にしておこう。


 そろそろ行くよ」




 お師匠は扉を開けて中に入っていく。


 僕はくるみ子さんと共に扉の前で待機。暫くして、パパパンと音がしてお師匠が出て来る。




「やれやれ、結局こうなったよ」




 お師匠は酷く残念そうに肩を竦める。




「野郎!」




 くるみ子さんはそのまま中に入って行き、僕も後に続く。部屋に入るとくるみ子さんの匂いがした。静かに深く深呼吸。


 微かに人工血液の匂いがした。甘い香りだ。




「この変態野郎が!!」




 そして、くるみ子さんが思いっきり何かを蹴飛ばす音がするのでリビングに向かえば両手足の関節から血を流した少女の腹を蹴飛ばしていた。




「ああぁぁあぁあっぁぁあああぁああぁああぁあああ!!!!!」




 変態は何やらそんな声を上げながら頭をガタガタと痙攣させている。何だこの状況?




「ほら、くるみ子さん。


 それ、さっさと人形師の所に持っていきましょうよ」


「ハッハッ!


 糞が!」




 そして、思いっきり頭を蹴飛ばし、首が変な方に曲がっていた。あーあ。まぁ、義脳化してるから死なないんだけどね。取り敢えず、さっさと持って行って依頼終了としよう。

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