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【19】エルフの里につきました



森を抜けるとそこはエルフの里だった――


「ユノンちゃんっ!」


案内された部屋のベッドに横たわってるユノンを見て、真理愛まりあは駆け寄った。

まるで人形のように生気がない寝顔に不安がつのる。


「マースタァーただいまなのでぇす」


「むほーっミィミィちゃん、無事でちたか~~~」


「ザーレッヘ先生、ユノンちゃんは……」


「大丈夫ですよ。 マリア嬢、命に別状はありません」


「よかった……」


真理愛がふぅっと力を抜くと、胸に抱いていたミーシェラが「みゃあ」と鳴いた。


「ミーシェラ、起きたの?」


「みゃあ、みゃあ、みゃあ」


真理愛は、ユノンが寝ているベッドの脇にそっと猫の姿のままのミーシェラを横たえた。すると「みゃぁ」と小さく鳴いて、丸くなった。


(早く、二人とも元に戻りますように……)


そう願い、ミーシェラを撫でる。

ひどい目にあった。思い出すと怖くて悔しくて、涙がにじんだ。


「マリア、顔まだ治してないよ」


隣にいたステファルノが頬をそっと撫でる。


(あ、そういえば、殴られたんだっけ)


ステファルノの手のひらから暖かい気が流れ、真理愛を癒していく。


「ここも……切れてる」


すぅっと、唇に指をはわせる

その動きはやけにゆっくりで、丁寧で。


「ス、ス、スーさん?」


「ス、ステファルノ! もういいんじゃないかっ?」


アースフィアレストが頬を赤らめ、憮然とした表情で近づいてくる。


「あら、アースフィアレスト嫉妬は見苦しくてよ」


この場にはいささかそぐわない華美なドレスを着たシュテファーニアの、笑いを含んだ声が聞こえた。


「姉上‼ どうしてここに」


「マリア、会いたかったわ。うふふふ」


「シュテファーニア様! なんで? え! いやっ! そこは、ちょ、うきゃぁ!」


挨拶の抱擁を超えたスキンシップにアースフィアレストとステファルノが狼狽し、ザーレッヘはほっほっほと笑い、ミィミィはなぜか羽をバッサバッサと揺らした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……それで、どうしてここに?」


応接間に移動し、あらためて優雅にお茶を飲むシュテファーニアに聞いた。


「公爵領のお屋敷にはいられなくなったの」


「どうして……あ、ま、さか」


「そう、アースフィアレスト、貴方が陛下を謀殺したという疑いが」


「俺はやってない!」


「ええ、わかってるわ。でもお屋敷にいたら王宮に囚われてしまいそうになって。

エルフの族長が私たちを助けてくださったの」


「そうだったのか、じゃあ他の皆はここに?」


シュテファーニアは俯いた。


「私とお母様は族長のお屋敷にお世話になってるわ。でも、お兄様は貴方が王宮から逃亡する手助けをしたと捕らえられ、お父様は弁明のため王都に残ると」


「兄上と父上が……」


「大丈夫よ、きっとすぐ疑いは晴れるわ」


シュテファーニアはそう言うが、アースフィアレストたちの顔は硬い。


「どうして……アースさんがそんな事したように言われるんですか?」


「そうですねぇ、多分エルフと交流の深いセルラ家から王殺しが出たとなると、エルフの謀略だと結びつける一派もいるでしょうね」



ザーレッヘの推測に真理愛はぎゅ、と手を握りしめた。


「国民を先導してエルフに攻め入る大義名分ってやつか」


アースフィアレストの言葉にステファルノが無言でうなずいた。

ザーレッヘが続ける。


「ロアール王太子殿下は、それを見越してアースフィアレストに魔剣を持たせたことになりますね。

調べたのですが、どうやらカスタード国の王宮では貴方が王女をたぶらかし、勝手に持ち出したことになってるようです」


「なっ、……そうか」


深い息を吐くと、隣に座っていたシュテファーニアがいたわるように、弟の手を握る。


「とりあえず、俺とステファルノはエルフの族長の所に行って、今後の話をしてくる」


「うん、そうだね」


「私も行く」


真理愛が立ち上がると、ステファルノは手で制した。


「ううん、マリアはここにいて。少し休んでた方がいい。ね?」


「でも」


「大丈夫だ」


アースフィアレストは頭を撫でる。


「ザーレッヘ先生、姉上、マリアを頼む」


「はい、まかされましたよ」


「まかせて、うふふ」


シュテファーニアの笑顔に、真理愛は一瞬ビクッと身体を震わせたが、すぐ気を取り直し、アースフィアレストたちが部屋を出ていくのを見届けると、真理愛はザーレッヘに方に向き直った。


「ザーレッヘ先生、私はなぜ襲われたんですか? 天使のせいでこうなったんですか?」


真理愛にしてみれば、不思議でしょうがなかった。『天使が争いの原因になる』と言われたのも心に突き刺さっている。


「ふむ、そういえばマリア嬢はこの世界の天使、というのをちゃんと教えてませんでしたね」


「はい、天使がエルフ族から派生した種族だというのはスーさんから聞きました」


ザーレッヘが「ふむ」とうなずくと、変化の術を解いた。


「え? ザーレッヘ先生、ええええ?」


そこにいるのは、若返ったザーレッヘ先生だった。ヘアスタイルは変わっていないが髪の毛は銀髪、瞳は緑色に変わり耳が大きくとがっている。


「先生、エルフだったんですか!?」


シュテファーニアにも大きく目を見開いている。


「ミィミィのマスターはカッコイイのでぇす!」


ミィミィがバッサバッサと羽を広げている。


「他言無用でお願いしますね」


そう言っていたずらっぽく片目をつむる彼の表情は、いつもと変わらない。


真理愛とシュテファーニアは無言でうなずいた。


「さて、じゃあ戻しますか。この格好はどうも落ち着きません」


ザーレッヘは外見をいつもの人族のそれに戻すと、ゆっくりと語りだした。



「昔話をしましょう――はるか昔、500年以上も前、エルフ族の一人が突然変異で異常に高い魔力を持って生まれてきました。

ゼーラと名付けられたその男は人族のように丸い耳を持ち、金の髪と紫の瞳をもち非常に美しく高い魔力と見た目の違いから同族から『天から授かった神』と崇められ畏怖され、彼は常に孤独でした」


口調は優しく、だが悲哀を帯びていて、真理愛はこれから聞く話が楽しいものではないことを確信した。


「仲間がほしくなった彼は一部のエルフ族を眷属とし、同じ能力と、金の髪と紫の瞳を彼らに与えました。それらがエルフ族の人々に『天使族』と呼ばれるようになったのです。彼らはその力で世界中の人々を癒し、救い、希望を与えました。


……天使の力はとてつもない、マリア嬢もそれはわかりますね?」


「はい、ものすごいチートだと思います」


「チート? まぁとにかく……その力は善にも悪にも使えます。だから私たちエルフ族はそれを悪用されぬよう、守ってきたんです」


真理愛はうなずいた。


「時がたち、やがてその中の一人のネフィリアという天使がゼーラを愛しました。が、彼女は振り向いてくれないゼーラへの当てつけに魔族の男の誘惑に堕ち、交わってしまう」


「そんな……」


「その魔族は天使の魔力を取り込み、強大な力を手に入れました。

天使たちを次々と殺め、ゼーラすらほふろうと手にかけましたが、結局ゼーラによって封印されます。


エルフは魔族の男と交わったネフィリアを「堕天使」と断罪し、ネフィリアは自害しました。ゼーラはそれを悲しみ、その後残った天使たちを連れて姿を消し、誰も見た者はいません。そのうち……天に還ったと噂されるようになりました」



「…………」


「エルフ族に天使族はもう、とっくにいなくなっていたのですね」


シュテファーニアが息を吐き出すようにつぶやいた。


「それじゃあ、私は……」


「貴女は、ネフィリアの妹、リリアナ。

……この地に残された、たったひとりの天使なのです」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



アースフィアレストとステファルノが長老の屋敷に向かい、会議の間に通されると、そこにはエルフ族の長老と族長、その息子と数人の幹部がテーブルについていた。


「帰ったか、ステファルノ」


父親の言葉に、頭を下げるステファルノ。


「さて、やっかいなことになったの」


長老とおぼしき年老いたエルフが、白銀の長いあごひげを撫でている。


「カスタード王国ロアール王太子殿下は、天使族の解放を要求しています」


ステファルノが固い口調で報告すると、周りの空気がザワリと揺らいだ。


「……それはできんな。いろいろな意味でも」


族長が深くため息をついた。


「ガラムの王と同じことを言うてくるとはなぁ」


長老の言葉に幹部のひとりの声が続く。


「通じてる、ということか?」


「しかし、確かガラム国とカスタード国は30年ほど前、紛争があったと聞きます」


幹部たちの言葉に「ふむ」と長老はうなずき、アースフィアレストを見た。


「確かに。その時は我がエルフ族がそなたの一族に加担して勝利をおさめたはずじゃ」


いきなり話をふられ、アースフィアレストは姿勢を正す。


「はっ、聞き及んでおります。その際に父は、代々我が家に伝わる剣をエルフ族によって魔剣にしてもらい、魔族に勝利できたと」


「ふむ、そなたの父の家系は大昔にエルフと血がつながっておる。だからこそ、親子ともに魔剣を扱えるからの。手を貸してやった」


「我が一族が、ですか?」


「知らんかったか。一度でもエルフの血が人族に入ると、その縁は切れぬ。

どんなに薄まろうとも、な」


アースフィアレストは納得したように深くうなずいた。


「さて、30年前カスタード王国は当時の魔王を討伐し、ガラム国には新たな王が立った。ガルフォルノン王だな。噂によると即位から年をとらぬと聞くがまぁそれはいい。

問題はロアール王太子殿下じゃ。話が本当ならカスタード国王陛下は彼の手によって暗殺された事となる。そうまでして、エルフ族を攻め、天使様を要求してくるとは度し難いことじゃ」


「失礼します! 長老殿」


扉を開け、エルフの見張り役が中に入ってきた。


「なんだ、今は大事な会議中だぞ」


幹部がたしなめると、長老は手で制した。


「よい、何事じゃ」


「それが、森の近くで死にかけの魔族が……」


「魔族だと? 何者だ」


「ダーヴィット・マステマと名乗っています」





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