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【18】謀られたのは


「アースフィアレスト卿、どうか我々に従ってほしい」


そう告げたのは、カスタード王国第三騎士団の副団長だった。


「マイル団長はどこです‼ どうしてこうなるんですか?」


アースフィアレストが叫ぶと、騎士たちの後ろから声が聞こえた。


「マイル団長も、勾留されていますよ。ロアール殿下に……この命令にさからったのでね」


「貴殿は……」


そう言って、割り込むように前に出てきたのは、外交大臣を務める、バーベリアン伯爵だった。

白髪が目立つ濃紺の髪をオールバックに撫で付け、方眼鏡をつけている。細身の身体に黒のフロックコート。

威厳はあるが、どことなく陰気な印象を与える人物だ。


「王太子殿下だと? ロアール殿下がなぜこのような!」


「魔族と……ガラム王国と敵対してもらっては困るのですよ」


「カスタード王国は魔族につく、と? 陛下がそれを許したとは思えない」


「陛下は、身罷みまかられました。……魔剣によって」


「なっ‼」


「アースフィアレスト卿、貴方に王殺しの嫌疑がかかっています」


「馬鹿なっ‼ 俺はやっていない!」


「では、なぜ逃亡し、魔族に剣を向けておられるのですか?」


「それは! マリアを助けようと……」


バーベリアン伯爵は、ステファルノに抱きかかえられ、呆然と成り行きを見つめている真理愛に目をやった。


「……天使ですか。争いの原因にされるのはさぞ不本意でしょうね」


その言葉は真理愛の心に突き刺さった。


「ロアール殿下は、天使族を従属させ、その存在を隠し、本来得られるべき、他国民への恩恵を独占しているエルフ族を非難し、即刻天使族の解放をするよう求めています」


「……それが狙いか」


ステファルノの体が怒りで震えている。真理愛は固く握られた拳をなだめるように包み込むしかできなかった。


――自分が原因で争いが起きてしまう。


「そういうことです。アースフィアレスト卿、大人しく連行されてください」


くっと歪むように笑うとバーベリアン伯爵が手をあげた。


「アースフィアレスト‼ ここは一旦引こう! こっちへ来い!」


ステファルノが叫んだ。


「逃がすかぁ!」


ダーヴィットが、魔法攻撃を放つ。

それを避けながら、真理愛たちの元に戻る。


「ア、アースさん、ミーシェラが、ミ・ミーシェラが……ユノンちゃんも」


「マリア、落ち着け。大丈夫だ」


ステファルノが結界を張り、攻撃をかわしているとザーレッヘの使い魔であるミィミィが、ミミズクの姿で現れた。


「報告でぇぇす! マスタァーはやりとげたのでぇす!」


「よし! じゃあ脱出するよっ!」


ステファルノはそう言うと転移魔法を展開した。


「マリアっ!! 力を貸して!」


ステファルノがそう言うと、真理愛はうなづき握った手に力を込めた。


――みんなを、たすけて――



まばゆい光が辺りを覆い、気が付いた時にはもうそこには真理愛たちの姿は消えていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「逃げられましたか……」


バーベリアン伯爵は、小さく舌打ちをする。

第三騎士団の中にはほっとしたような雰囲気さえただよわせる者たちもいて、それがいっそう苛立ちをつのらせた。


団員たちを撤収させると、壁にもたれていた瀕死のダーヴィットに近づく。


腕を切り落とされ、断面は黒く染まり魔力が流れ出ている。

魔剣が『魔をほふる』と言われる所以だ。ただ切られただけで魔力が流出し、死に至る。


「たす、けてくれ……」


ダーヴィットの赤い瞳がすがるように見つめてくる。


「もう、無理でしょう。貴方は失敗しすぎた」


「ま……だ、だ。まだ、かたきをとってない……家族の、ラシルとキャナの……」


「哀れですねぇ……本当のかたきが目の前にいたのにそれに従ってたなんて」


「な、に?」


「あまりにも可哀そうだから教えてあげましょうか?貴方の家族を殺したのはエルフでも天使でもありませんよ」


「な、んだと?」


ダーヴィットの目が見開かれる。


「貴方の奥様はエルフだったんですって?だから貴方の転移術は魔族で一番なんですね。エルフの秘法ですからね、転移術は」


「そうだ、だから奴ら……エルフ族はラシルを殺した……魔族に秘法をもらした、裏切り者だと言って……あ、あいつらはラシルだけじゃなくキャナまで……まだ2歳だった、のに……」



「エルフは同族を殺しませんよ? そんな事をしたらダークエルフになっちゃいますからね。……結婚までしたのに知らなかったんですか?そんなんだから利用されたのですよ。

天使を手に入れるためにね」


「じゃあ、ラシルとキャナを殺したのは……」


「こっち側の人間、ですね」


「…………」


「可哀そうに。その手で何人エルフを地獄に送ったんです? 奥様の同族を何人ガルフォルノン王に貢いできたんですか? 奥様にあの世でなんて説明すればいいんでしょうかね。気の毒すぎて胸が痛みます」


憐れむような表情で見下ろすバーベリアン伯爵、だが口元が微かにゆるんでいる。


「そ、そんな……お、れはいったい、なんで、いままで……あああああああああ」


魔力を垂れ流しながら、叫び、のたうちまわるダーヴィットを、


バーベリアン伯爵は冷ややかな目で見つめていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



――真理愛たちが転移した先、そこは森の中だった。


「ここは……どこだ」


アースフィアレストのつぶやきにステファルノが応える。



「どうやら、里の近くのようだね」


「里って、エルフのか?」


ステファルノが頷いた。


真理愛は、泣きながら猫になったミーシェラに治癒魔法をかけている。

そばには子供になったミィミィが心配そうに付き添っている。


「マリア、見せて」


「スーさん、えぐ、えぐっ、起きないの……ミーシェラ、う、ぐぅ……目を覚まさないの」


「マリア、落ち着いて」


ステファルノは、マリアをなだめると、ミーシェラを数回撫でて、息を吐く。


「大丈夫、危険な状態は通りすぎてるよ。……獣人はこうなったら元に戻るまで時間がかかるんだ。ゆっくり休ませたら戻るから心配しないで」


「ほんと? ほんとに? ほんとに元に戻る? 絶対?」


「ああ」


「あ、あ、よかった、よかった、よかったぁぁぁぁ~~~」


真理愛はミィミィをぎゅうっと抱きしめながら、子供のように泣きじゃくった。

驚いたミィミィがミミズクに変化してしまいバッサッバッサと翼をはためかせている。


羽にくすぐられ、くちゅん、とくしゃみをした真理愛は、突然何かに気づいたようにとステファルノに向き直った。


「ほら、鼻をかめ」


「ありがとれふ……アースさん」


アースフィアレストから受け取ったハンカチで鼻をかみ、真理愛は聞いた。


「ユ、ユノンちゃんは……」


「ああ、それだったら……」


「ユノンちゃまは、マスターが助けたのでぇす!」


ミィミィが、誇らしげに胸をはる。

ドヤ顔をしてるがミミズクなので今ひとつ伝わらない。


「え? ほんと? ミィミィちゃん」


「ハイです! マスターはすごいのでぇす!」


ステファルノを見ると、彼も頷いた。


「今頃、一足先にエルフの里に帰ってると思う」


「よかったぁぁぁ~」


真理愛はもう一度、ミィミィに抱きつく。するとミィミィは、また翼をバッサバッサとさせて、また真理愛はくちゅん、とくしゃみをするのだった。




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