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こんぽーざー! 変態と美少女がボカロP目指してみた。  作者: らい
第三章 変態xアキバ=奇想天外
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第三章 変態×アキバ=奇想天外3

「朱翼のやつ、まーた泣きそうな声だったな」

 電話越しに聞こえた朱翼の声は、表面上は威張ってたけど中身は弱々しくて今にも泣き出しそうだったのが分かった。ったく、家でもなんか嫌な事あったのか? すぐ泣く泣き虫な女だなあいつは…………

 朱翼に十万再生する動画を作ると宣言して以降、俺——橘輝はボカロ曲の作曲に取りかかっていた。始まったばかりの学校にろくに通いもせず。

「……まぁ取りかかったは良いがやっぱ機材の使い方が分からないと話にならねーな」

 薄暗い自室。よく馴染んだシャープ鉛筆を手に白紙の五線紙と向かい合ってから既に三時間。

「要は機材が楽器の代わりなんだもんな。未知の楽器を使って曲書けっつ言われてもなぁ…………」

 残念な事に俺にはパソコンで作曲する為の機材に関する知識がほぼ無い。ビビット動画とやらもこの間知ったばかり。パソコンで作った曲を聞いた経験すら薄いんだ。

「やっぱ分析不足か——…… そりゃどんな作品もインプットが足りなけりゃアウトプット出来ねえよなぁー」

 使われている楽器や演奏手段も週末朱翼に教わる迄は謎なんだ。

 正直それ聞いてからじゃねえと音符は出て来ねえのかも。

 こうなればもっともっと動画を沢山見てインプットする他、今出来る事は無い。

「ま、演奏手段のインプットが今はゼロなんだから音符アウトプットできねーのも仕方ねーよな」

 俺は筆を置き、ノートパソコンを棚から引っ張ってくる。

 一応父親のお下がりのを貰ったがパソコンなんて滅多に使わなかった俺は、まずビビット動画に辿り着く迄で苦労した。

「……ま、俺天才だし、一度辿り着けば余裕だけどな! ブックマークって奴もしたから最短距離で移動だぜ!」

 ひゅー流石俺! 殆ど触らないパソコンも使いこなしてるぜ!

 ギラギラとしたビビッド動画のページを開く。

「ま、やっぱボカロキングささかまの動画の中で再生数三十万以下のを探すか……」

 一番人気からテクニックを盗むのは常套手段だ。

 さーてえーとまずはこの検索ボックスをクリックして…………ここにさ、さ、か、ま…………よし、エンター!

 ……————ってあれ? 何にも出て来ないぞ————

「…………あっ、ささらまになってんじゃん……」

 kとlのキーをミスってたっぽい……キーボード打ち込みとかやってらんねえ!

 俺は次こそは正しくささかまと入力し検索する。


「一○五万…………八十三万…………おぉすげえ二○一万……………ささかまクラスになると再生数三十万以下がそもそもすくねえのか……」

 こっちは十万目指してるっつうのに皮肉なこったな!


「再生数三十一万! ……ちっしゃあねえこれで妥協だ」

 三十万以下は一つもなかった。

 ええと、タイトルは…………『願い』

 かなり初期の作品だ。

「まだ売れる前の頃の作品ってとこか」

 まあそれでも三十一万再生なら人気作だ。インプットの対象程度にはなるだろう。

 よし、再生っと…………

 五線紙と鉛筆を手に再生ボタンをクリック。このまま耳コピで採譜だぜ!

「……、あっれーなんか音出ねーじゃん…………」

 おかしいなぁ……昨日は出たんだけど? 俺は音量メーターをかちっとクリックして確認する。

「…………って音量0になってんじゃんか!」

 そりゃあ出ねーわ! ふっ、しかしミスに直ぐ気付くとは俺何やらせても天才だな!

 音量をあげるとヘッドホンに音が流れ————

「うわッ!! 一気にあげ過ぎたー!」

 あぶねえあぶねえ俺の大事な大事な耳に傷がつきそうだったぜ。直ぐさま音量を落とす。

 今度こそ快適に音楽を楽しむ。

 ズクドンズクドン…………

「…………いや、モーツァルトじゃあるまいしこんな薄っぺらい音楽じゃ楽しめねえーかー」

 

 そういえば今日の朱翼、すっげえ怒ってたな。

 俺二日連続あいつの事怒らせちゃったよ。まあどっちも俺は悪くねえんだけど?

 俺はボカロの音楽的な事実を叩き付けただけだ。

 音楽の内容は芸術性に欠けるクラシックの焼き回しだと。

 事実そうだろ。

 この曲だってほら————……

「このコードワークまんまリストの超絶技巧練習曲だな」

 俺は以前インプットした自分図書館の中にあるリストのスコアと今採譜したささかまP作曲『願い』のスコアを見比べてそう呟いた。

 ほら、やっぱりクラシックの焼き回しじゃんか。

 事実を言っただけ。それであいつ怒ったのだから俺は悪くない。


 曲は二番も終盤。残り時間もあと三十秒。

 そんな時だった———…………


「——夢は誰にもバカに出来ないから——」


 俺は何となく気になった歌詞をそう呟いてみた。

「——歌詞いいな、この曲」

 詩と云うのは音楽に載ると途端に説得力を増す。

 俺もヴァイオリンやピアノの為曲よりか合唱曲みたいな歌ものを作曲してる時が一番楽しい。

 ふむ、ボカロの評価出来る所の一つとして歌詞の持つ芸術性を引き出している、と云うのは挙げられるかもしれない。


 夢へ向かってがむしゃらに走る主人公————……

「……俺も作曲家になりたいと初めて思ったときはこんな感じだったなぁ」

 そんな昔を思い出しながら口元を緩めた。

 俺も最初から天才作曲家だったわけじゃ勿論無い。確かに才能はあったが、才能があろうと努力しなければ今の地位を築けなかっただろう。その道のりは今こうして振り返ってみると過酷で辛かったが、輝いてもいた。

 そんな俺の姿と、この曲の歌詞が若干重なった。

 そんな時——ふ、と朱翼の顔が脳裏を過る。


「現実的な実力や性格は兎も角、あいつの日本一のボカロPになりたいって気持ちは本物だったな————」

『——ビビ動で一番にならなきゃいけないのっ!!』

 初めて会った日、そう言われた事を思い出す。

 あん時の朱翼の目はマジだった。透き通ってて綺麗で……それでいて中は萌え上がる炎の如く力強い。あんなに美しい目は見た事が無い。

 あいつのボカロが好きって気持ちは本物だ。


「……だとすると俺————ちょっと悪い事しちまったかな」

 確かに俺はボカロよりベートーベンのシンフォニーの方が芸術的で優れていると思っている。

 だが、誰がどんな音楽を好きになろうとそれをとやかく言う資格は誰にも無い。

 だからあの時の俺はちょっと、うんほんのちょっとだけ言い過ぎた————……の、かも?

 まあいいや! 良く泣いて良く怒る、感情丸出しのガキんちょ朱翼の事だからきっとそんな事忘れてるさ!


「再生終了っと。歌詞は良かったなうん歌詞は」

 俺は再生が終わった動画画面をぼんやり眺めた。

 その時、またしてもちょっと気になる事を発見する。


「——この動画の上を右から左に流れる文字群はなんだ?」

 俺はイラストや動画については全く詳しくない為、動画の画面は今迄殆ど見ずに音楽だけ聞いていたから気付かなかった。

 イラストの上を大量の文字がまるで急流の様に絶え間なく流れて行く。

 なんじゃこりゃ?

『最高でした!』

『gj』

『ここからささかまPさんの伝説が始まったのか……』

『最後感動した!』

『歌詞大好き!』

『ささかまPさんの曲で一番好きです!』

『サビのメロディー綺麗!』


 …………これひょっとしてこれ聞いた連中から集まった感想か?

「すっげえじゃんビビ動! 聴衆の意見を直接作曲家に伝えられんのかよ!」

 俺は思わず一人部屋で叫んじまった!

 これは斬新だ! 捨てたもんじゃねえなビビ動! ちょっと興奮しちまったぜ!

「うん! 作曲家にとって聴衆から意見感想を貰えるのは嬉しいもんな!」

 よし、ならば俺も思った事を素直にささかまに伝えてやるとしよう!


 えーと……この動画の下に設置されたコメントってトコに感想を書けば良いんだな。

「コード進行まんまリストでしたね。オーケストレーションも貧困だし、音も安っぽくて聞くに堪えませんでした。音楽の流れをもっと意識して下さい。縦の響きと横の響きのバランスを考え直しては如何ですか? あと中間部のメロディーはセンス無さ過ぎ。まず音域そこで良いと思ってるんですか?」

 っと!

 よし俺程の人間の意見を聞けばささかまの曲も多少ましになるだろう! うむこれからも存分に精進してくれたまえ、ささかまくん!

 うん、聴衆が直接意見出来るのはいいな! これからも聴いた曲はちゃんと意見してやろう! 作曲者の為だ! うん!

 おっと…………一つ書き忘れた————……


「歌詞だけは良かった」


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