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こんぽーざー! 変態と美少女がボカロP目指してみた。  作者: らい
第三章 変態xアキバ=奇想天外
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第三章 変態×アキバ=奇想天外2

「そこっ!! 音程が五セント低いだろ! 譜面通り弾け! もう一回!!」

 私は無心になってヴァイオリンを構える。

「違う違う違う! 何度言えば分かるっ!! そこはクレッシェンドからのフォルテ!  何の為の記号だ! そんな弱々しい音じゃベートーベンが泣くぞ!」

 ベートーベンの前に私が泣きたい。

「違うと言ってるだろう! もう一度!」

 何が違うんだよ……!

「そっちはアクセントだ! 譜面を守れ!」

 演奏者は譜面の奴隷じゃねえだろ…………!


「————お父様」

 私はか細くも深い声でそう呟く。

「なんだ」

 しかし腕を組みまるで私に目を合わせようとしない。私の出す音には散々ケチ付けて来る癖に私の声には興味が無いようだ。

「譜面に書かれた事はやらなくちゃいけないの?」

「当たり前だ。譜面に書いてある事を再現すれば良い演奏になる様に作曲家は書いているのだから。お前も一年間作曲を学んでみて分かって来ただろう」

 ——生憎紙に書く作曲の授業は眠くて聞いてませんよ。

「お前は譜面に書かれた事を再現すれば良いんだ。プレイヤーの仕事はそれ以外にはない」

「——じゃあコンピューターにやらせれば良いじゃん」

 私は重くずっしりした声でそう言い放つ。

「今のDAWソフトだったらこれくらいの曲完璧に演奏してくれますけど」

「アクセントを人間が聞いてアクセントに聞こえる様に演奏出来るのは人間だけだ」

「——そう云う事が言いたいんじゃないッ!」

 私は弓を乱暴に振ってそう答えた。

「フォルテなら大きく、ピアノなら小さく! なんで譜面に書かれた制約の中でしか音楽を楽しめないの!? だからクラシックは嫌いなんだよ! 束縛された自由の無い音楽! 譜面の中だけで音を楽しむなんて私には出来ない!」

「それが音楽だ。お前にも分かる時が来る」

「——来ないッ!!」

 私は父の目を目一杯睨む。

 目頭が熱くなる。血の味。勢い余って噛んだ下唇から出血したのか。

「私はもっと自由に自分の音楽を表現したい。譜面と云う鎖に繋がれたクラシックにはもう飽き飽き!」

「——譜面の無い音楽、ボーカロイドという奴ならばお前の音楽を表現出来るとでも言うのか?」

 父は私の鋭い眼差しをものともせず視線は逸らして来ない。

「ええそうよ。少なくともクラシックよりはよっぽどね!」

 すると父はようやく視線を逸らす。

 一息溜め息をついてから体をほぐし、興味無さげにぼやく。

「椿に勧められボカロとやらを一曲聞いてみた。が、あんなものは芸術性がなく音楽も薄っぺらい低俗な人間が聴く音楽だ。」

 ————ッ! どいつもこいつも高々数曲でボカロ語りやがって————

「言ってみればクラシックの焼き回しだな。教養のあるお前達が聞く様な物ではない。現にあんなものさえ聞いていなければ椿は事故に遭わずに————」

「もういい」


 もう分かった。

 間違ってるのは私じゃない——父と————輝の方だ。

 ろくに聞きもせずに芸術性、音楽性、クラシック音楽の焼き回し。

 こう言って分かった気になってるだけ。


 クラシックには最大にして暗黙の了解がある。

 ——譜面の指示に従う事

 これを破った演奏は評価されない。文字通りクラシックの常識————……


 私はこれが大嫌いだった。


「譜面の傀儡(マリオネット)はもうご免だから」

 薄らと視界の端で父の影を捉えながら私は出口に向かう。

「朱翼、お前は自分の人生を某に振るうつもりか? 折角プロの音楽家の娘に生まれたのにそのメリットを————」

 あーあ、こんなふうに思っちゃってるから大人は嫌いなんだ。

 経験を積んだ自分は正しいとか思ってその価値観を子供に押し付ける。子供の事なんか考えてくれやしない。それが大人。

 私は父の言葉を遮るように部屋の扉を閉じた。



「クソ親父もクソ輝も何も分かってないのに私の事——ボカロの事馬鹿にしやがって!」

 無駄に広い私の自室————

 真っ暗なその部屋で私はベッドへダイブした。枕から香る柔軟剤の香りに身を任す。

「あっ……ヴァイオリン持って来ちゃった…………」

 何やってんだか、私。

 ごめんなヴァイオリンちゃん…………君は何も悪くないのにな。

 私の怒りと愚痴ををいつも聞いてくれる私のヴァイオリン。私にとってこいつは芽衣に続いて二番目の親友だ。

 一度立ち上がり窓から差し込む月明かりだけを頼りに机を目指す。

 丁寧にヴァイオリンの本体と弓を置き、代わりにスマホを手に取る。

 そこに付いてるちょっと高級なSANY製のイヤホン(重低音がかなりシビれる)を耳に入れて再びベッドへダイブ。

 適当にシャッフルしたが出て来た曲はボカロ

「……そりゃボカロ以外は入れてないからな当たり前か」

 曲名は『願い』

 私の敬愛するビビ動トップのP——ささかまPさんの隠れた名曲。

 私が初めて聞いたボカロ曲でもある。

「わっ……こんな気分の時にこれ聞いたらまた泣いちゃう…………」

 世界最高のロックスターを目指す田舎の主人公。楽器を持っていない彼はエアギターで練習をするのだがそんな姿を村の子供達は馬鹿にするのだ。そんな主人公だったが誰になんと思われようと俺はロックをやり続ける!と最後に宣言する。

 そんな歌詞だ。

「今の私……この主人公に似て来たかも。周りに馬鹿にされてるのに……それでも懲りずにボカロを聞いてる」

 だって好きなんだもの。芸術性がなかろうとクラシックの焼き回しだろうと、好きなもんは好きなんだ。……なんかここだけ切り取ったら初恋の女の子みたいで笑っちゃう。

 私は恥ずかしさを拭う様にふ、とこの曲を初めて聞いた一年前を思い出す。



 ボカロ研究部を作ろー!

 そう言うお姉ちゃんに無理矢理イヤホンをはめられ聞いたのがこの曲。

 この曲との出会いが私の人生を変えた。

 詞っていうのは音楽の上に乗るとこんなにも説得力を増す。

 私は曲を聴きながら曲の世界を夢想した。

 ——私はこの子みたいに誰かになんと言われようとこれが好きだ!って言い切れる物があるのだろうか?

 無理矢理やらせられた音楽。

 無理矢理入らされた学校。

 お姉ちゃんに勧められて手に取った癒しの時間。

 どれも私が私の手で勝ち取った物ではない。

 ——私は一体何者?

 誰かに進めと言われた道を進む。

 そんなんだった私はこの主人公に一目惚れならぬ一聞き惚れした。


 ボカロ研究部じゃ部活新設の許可が出なかったから『電子音楽研究部』に名前だけ変え、私はそこでひたすらにボカロを漁った。

 ボカロには決まりなんて無い。

 自分の好きだって思う音楽を作る。

 それをネットにアップする。

 それを聞いて評価する。

 誰でも作れて誰でも聞ける。

 ボカロは全てが自由だ。

 ——譜面の指示に従う必用はないのだ


 私はそんなボカロの魅力にどっぷりハマった。

 そしてそれから一年経った今でははっきり言える。


 世界一のボカロPになるのが私の夢だと!


「夢は誰にもバカに出来ないから、か…………この一文、私大好き」

 なんでバカ輝もバカ親父もボカロをバカにするんだよ!

 クラシックなんて制限だらけのつまらない音楽なのに、高尚な感じだからっていい気になっちゃって…………。


「わっ!」

 唐突な着信に私は思わず声を上げた。音楽聞いてる時に着信があると音楽の方は中断されるから地味に嫌。

 誰からだろ……その名前に私は若干驚いた。

「えっ…………橘輝?」

 何で私の番号知ってる訳?

「…………ちがうよー、猫被ってる時にノリで教えたじゃんかぁ…………」

 あー何やってんだろー私のバカ…………

 でもあいつも私の事もう特に好きな訳ではないだろうに何故今電話なのだろう。

 ……まさか部活の時私を怒らせた事を今更謝るつもりだろうか?

 まぁかけて来た理由は分からないが、嫌々仕方なしにそれを取る。

「……もしもし」

『おー朱翼か』

 ……やっぱ取らなければ良かった! こんな時にコイツの能天気な声なんか聞いたら更にイライラするじゃない!

「何の用なの」

『今週末の日曜空いてる?』

「は?」

 やっぱ謝る電話じゃないんかい! まあそんな奴じゃないって分かってたけど!

『いややっぱなんだーDAWっつーの? パソコンで音楽作るやり方を無知な状態だとどうやって曲書いたら良いのか分からなくってなー』

「は、はぁ……」

 それからもいつも通りのムカつく口調が電話越しに聞こえてくる。

『だからもし今週末の日曜暇なら一緒にそういう機材とかソフト売ってる店行って色々レクチャーして貰えないかなーって』

「……まぁそういう事なら空いてるし良いけど」

『お、まじ!』

 機材の使い方が分からないと曲が書けない、か。

 まあ確かにお姉ちゃんも一通りはそういうのは分かってたし、無知だと書けないのかも。

「場所は秋葉原が一番豊富だからそこ集合ね」

『おう、話が早くて助かるぜ! じゃあ午前十時駅前なー』

「はいはい、それじゃーまたあし————」

 ——プチッ

「………………」

 ツーツーツーツ————————…………

 言葉の途中で切りやがった! 地味にうざい! もーなんなの!


「はぁーでも音楽機材の買い物か…………久しぶりだなー」

 一年前始めたばっかの頃はそれこそ毎日の様に音楽機材屋に通ってたけど最近は秋葉に行く事自体そんなに多くなかった。まぁここは東京とはいえ郊外だから結構時間もかかるし用が無いと行きにくい。

 輝と一緒とはいえ地味に楽しみ————…………

 んん? 輝と一緒——————………………?


「ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええ!」

 こ、こ、こ、こ、こ、これって…………!!

 も、も、もしかして—————————ッ!


「デートって奴じゃないですかッ!?」

 ……しかし初デートがあの変態とか私も灰色の青春過ごしてんな!

「えぇー。……で、で、デートって一体どんな服着ていけば…………」

 私は部屋の灯りを付けてクローゼットの前に立つ。

 私の持ってる全ての服がしまわれた場所。

 右から制服、本番用の衣装、パジャマ……


 ——あれ、私って恐ろしい程私服持ってない…………!

「か、買いに行った方が良いのかな…………」

 ——って何を私は熱くなってるんだ! 相手を思い出せ! あの変態だぞ!?

「あんな奴に見せるだけならこの中学の頃買ったちょっと子供っぽい奴でも…………」

 その時脳裏に浮かぶアイツの言葉…………

『朱翼って内面お子様なら私服のセンスまでお子様なんだな(笑)』


「だめだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!」


 アイツに馬鹿にされるのだけは絶対にぜっっっっっっったいに嫌だッ!!

「仕方ないっ! お姉ちゃんにメールして…………」

 私は直ぐさまスマホに手を伸ばす。

 お姉ちゃん私服かして、っと——……

 よし、送信!

 ……しかし直にメールが送信出来ない。

 ちょっと待つけど送信出来ない…………

 あ、そうだった…………

「今のお姉ちゃんの病室電波遮断なんじゃん…………」

 直接会いに行かないとダメだ…………

 私は脳内でお姉ちゃんとの会話をシュミレートする。

『デートの服貸してくれない?』

『……ほう我が妹よ、誰とでいとするんじゃ?』

『……輝、だけど』

『はっはっは! そんな事だろうと思ったぞ! お姉ちゃんは君達がお似合いだと…………』

 これもだめだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!

 メールなら兎も角、勘のいいお姉ちゃんに直接会って最後迄輝とデートするとバレずにデートの服だけ貸してもらうのは不可能…………


 芽衣に借りるって手もあるけど……芽衣に知られるのもなんかやだし、そもそも……

「あの子と私だと色々サイズが違うからなあ……主に身長と…………胸が」

 はぁ————……

 てか、なんで私輝とのデート如きでこんな悩んでる訳?

 そうだよ、持ち合わせの服で…………

 ——ってこれ最初に戻ってるし!


「も——————!! どーすれば良いわけ————————っ!」


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