表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤松天翔物語 ~転生したら最弱の戦国大名だった!?~  作者: 姫笠
第二章 西国の覇者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/133

第二話 東播磨の領主―別所家⑥

三木城、城下町――。

 夜の闇をまとったように、煙が低く立ち込めていた。

 ぼろ布で全身を覆った桜と善助は、互いに目を合わせながら周囲を警戒する。

 焼け落ちた家屋からは、まだくすぶる火が赤い舌を伸ばしており、瓦礫の隙間からは黒煙が立ちのぼる。

 道のあちこちには倒れ伏した領民の姿があり、動かぬ者も少なくなかった。

 風に乗って焦げた木の匂いと血の臭いが入り交じり、息をするのもつらいほどだった。


 通りに面した古びた長屋。その開け放たれた戸口から、切羽詰まった女の声が漏れ聞こえてきた。

「おやめください!…どうかおやめください!」

 桜と善助は顔を見合わせ、胸騒ぎを覚えながら恐る恐る戸口に近づき、室内を覗き込む。

 中では二人の織田兵が粗暴な態度で女を取り囲んでいた。床には麻袋に入った山芋が数個転がっており、それを兵が蹴飛ばしながら怒鳴りつける。

「この山芋は何だ!? 米一粒に至るまで、食料は残らず差し出せとの御布令…知らぬわけではあるまい!」

 女は青ざめた顔で両手をすり合わせ、必死に言葉を紡ぐ。

「おたすけを……どうかおたすけを……」

 彼女の傍らには、痩せ細った四歳ほどの男の子が横たわっていた。顔色は悪く、力なく息をする姿―。

 女はその小さな体を庇いながら、涙で濡れた声を張り上げた。

「この子は病弱で…栄養がなければ生きられませぬ。どうか、この芋だけは…どうかお見逃しを…」

 しかし織田兵は吐き捨てるように怒鳴る。

「ええい、知るかそんなこと! 貴様らが食い物を隠し持つと、俺たちが罰を受けるのだ! 言い訳など聞かぬ!」

 そして仲間に目配せすると、にやりと口角を歪めた。

「二度と同じことをしないよう…お灸を据えてやらねばならんな」

 一人の兵が腰から棍棒を引き抜き、ゆっくりと振りかぶる。

「ひっ…ひいいっ!」

 女は咄嗟に男の子へ覆いかぶさり、背を丸めて小さな命を守ろうとした。

「よく反省せい!」

 怒声とともに棍棒が振り下ろされる、その瞬間――

 キインッ。

 鋭い金属音が空気を裂き、次いで閃光が走った。

 バキッ! ゴスッ!

「が…は…!」

 悲鳴を上げる間もなく、兵の体が大きく弾かれ、土間に崩れ落ちる。

 チンッ、と小気味よい音を立てて刀身が鞘へ収まった。

 そこに立っていたのは、ぼろ布をまとい、目を光らせた善助であった。

 桜は慌てて室内へ駆け込み、親子の傍に膝をつく。

「だいじょうぶ? 怪我はない?」

 恐怖に震えていた女は、目の前の二人が助けてくれたことを悟り、畳に手をついて深々と頭を下げた。

「ありがとうございます…ありがとうございます…!」

 桜はその肩にそっと手を置き、優しく微笑む。

「きっと助かるから。もう少しだけ、頑張って」

 そう告げると、二人は倒れた織田兵の体を引きずり、警戒を怠らず通りへと出ていった。

「う…ううっ…!」

「重い……」

 桜と善助は力を込め、兵を路地裏まで引きずり、荒い息を吐きながら地面へ寝かせた。

 すると――。

 路地裏の薄暗がり、その脇に一人の男が倒れていた。

 痩せ細った体は骨と皮ばかりで、頬はこけ、唇は干からびている。衣服はぼろぼろで、あらゆるところに膿のにじむ傷が走り、そこから湧いたうじが蠢いていた。はえが群がり、ぶんぶんと不気味な羽音を立てている。

 だが、その胸はかすかに上下していた。まだ、生きている。桜は駆け寄り、その上半身を抱きかかえた。

「しっかりして…!」

 男の濁った瞳が、うっすらと開かれる。

「助けに来て、くれたのですか……」

 桜は必死にうなずく。

「そうだよ。もう大丈夫だから」

 男は震える唇を動かし、消え入りそうな声でつぶやいた。

「よかった……長治様……ずっと、信じておりました……」

 桜は一瞬、言葉を失い、唇をかんだ。

「あなた方は……長治様の、配下の方でしょうか……?」

 善助が口を開きかけた。

「いえ、わたしたちは――」

 だが桜はそれを遮り、静かにうなずいた。

「うん、そうだよ」

 男の瞳が一瞬だけ光を取り戻す。

「よかった……長治様は、やはりわれらを見捨ててはおられなかった……」

 桜は必死に言葉をかける。

「長治様は、あなたたちを見捨てたりしない! 必ず助かるから……だから、もう少しだけ……がんばって」

 男の頬に、安堵の色が浮かんだ。

「ああ……よかった……ああ……よかっ……た……」

 その声は次第に弱まり、やがて途切れる。

 桜の腕の中で、男の胸の動きはゆっくりと、そして完全に止まった。

「……」

 桜は唇をかみしめ、抱きとめたその身体をそっと地に横たえた。

 指先から伝わる冷たさに胸が締めつけられ、肩は小刻みに震えている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ