表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤松天翔物語①  作者: 姫笠
第一章 示された道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/106

第八話 天神山城攻略戦③

宇喜多家本陣。

直家は椅子にもたれかかり、遠く正門前の攻防をじっと見据えていた。周囲には諸将が控え、槍の穂先や旗指物が風に揺れている。

「ふむ……。行長と全登は手こずっておるか」

直家の声は低く、しかし冷静だった。目の端に浮かぶ城門前の小さな点を睨みつけるように見やる。

「竹内久盛は、浦上家随一の武人。二人では荷が重いやもしれぬ。じゃが……」

一拍置いて、直家は薄く吐息を漏らす。

「ここは戦場だ。試合場ではない。……久盛殿、悪く思うなよ」

その言葉には躊躇が混じっていたが、即座に続けた。

「遠藤兄弟を呼べ」

伝令を待つ者が、直家の命に頷き走り出す。陣内では主の決断が瞬時に伝わる。

やがて遠藤の名を告げられた二人の狙撃手が、城門へと向かっていった。


――天神山城・正門前。

土煙が舞い、鉄と鉄のぶつかる音が絶え間なく続く。行長と全登の剣撃をものともせず、竹内久盛は正面に立ち塞がっていた。


挿絵(By みてみん)


久盛は何度も拳を繰り出し、受け流しながら前線に居続ける。だが、草むらから立ち上る異様な殺気にふと気づいた。周囲の空気がほんの僅かに変わったのだ。

「……む!」

その刹那、耳に鋭い破裂音が走った。


パアンッ!


冷たい銃声と共に、一発の銃声が正確に久盛の右足を狙って飛んできた。発射の瞬間、久盛は機敏に反応し、右足を高く蹴り上げて銃弾の軌道をかわす。

だが、戦場に容赦はない。


バアンッ!


二発目の銃弾が、久盛が着地するその瞬間を正確に狙い撃った。空気が裂ける音とともに、肉を抉る鈍い衝撃が走る。


バシュウ!


血しぶきが激しく空に舞い、土と混じって赤い円を描いた。久盛は思わず膝をついた。右足からは血が噴き出し、脛当ても道着も鮮やかな紅で染まる。

「ぬうう……!」

地面を押さえるようにして膝を付いた久盛の背後で、行長と全登が同時に動いた。二人の刃が空を切り裂き、彼の後頚部へと振り下ろされる。


ガンッ、カアンッ!


久盛は膝をついたまま、反射的に両腕を振り上げて小手で二本の剣を受け止めた。刃の衝撃が腕から肩へと伝わり、骨まで響くような痛みが全身を走る。

「わしは……死ぬわけにはいかぬのだ……ッ!」

久盛が呟くと同時に大地が揺らめき、地を這う雷のごとく光が走った。


―武の念術―《地砕衝破ちさいしょうは


久盛の右足が大地を穿ち、地面を砕きながら深々と踏み抜いた。


ドオンッ!!


瞬間、銃弾が貫いた右足の傷口から鮮やかな血しぶきが散る。しかしその痛みすら意志の炎に呑み込まれ、ただ衝撃のみが地を揺らした。

轟音と共に衝撃波が走り抜け、土煙を巻き上げながら行長と全登の身体を宙へと弾き上げる。

「――ッ?」

「なっ!?」

二人の武将が宙に浮かんだ刹那、久盛の瞳が獲物を捕らえた獣のように鋭く光った。


―武の念術―《砕覇轟拳さいはごうけん》!!


光をまとった拳が弾丸のように行長の胸を狙って突き出される。とっさに両腕を交差させて受け止める行長だが、その衝撃は凄まじく、空気を裂く轟音と共に彼の身体が後方へ吹き飛ぶ。土煙が巻き上がり、その中で肋骨の砕ける鈍い音が戦場に重く響いた。

「がはっ!」

口から鮮血を吐きながら地面を転がる行長。

続けざまに久盛は腰をねじり、宙に浮かんだ全登へも拳を振り抜いた。稲妻のような軌道。全登も必死に盾を構えて受け止めるが――


ゴオンッ!!


重鉄を打ち合わせたかのような鈍い衝撃音が響き渡り、全登の身体も放たれた銃弾のように地へと叩き落される。

「っ……!」

土煙を巻き上げて地面に転がり、全身を打ち付けた二人は呻きながらも、よろめきつつ立ち上がる。

その前に立つ久盛の瞳は、痛みも恐怖も呑み込み、確固たる意志の炎を宿していた。燃えさかる闘志が彼の全身から立ち上り、まるで不動明王が地に降り立ったかのような気迫を放っていた。


遠く、天神山城の西側――燃え続ける西櫓の周囲では、浦上軍の兵たちが懸命に水を運び、火消しのために走り回っている。炎の勢いは弱まりつつあるものの、今だ煙がうねり、炎が空へと舌を伸ばしていた。


その様子を、ただじっと見つめる宇喜多直家。目を細め、何かを測るように黙して佇んでいたが、やがて静かに呟いた。

「……頃合いか」

その言葉と同時に、彼はわずかに顎を引いて隣に控える伝令に目を向ける。

「忍び隊に伝えよ。敵本陣は手薄。攻撃を開始せよと」

無駄のない所作で背筋を正した伝令が、「ははっ!」と短く答え、即座にその場から駆け出した。草を蹴る音が一度響いたかと思うと、すぐにその背中は松林の影へと消えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ