表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤松天翔物語 ~転生したら最弱の戦国大名だった!?~  作者: 姫笠
第一章 示された道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/133

第三話 官兵衛の葛藤④

――そのころ。


「はぁ……はぁ……!」

複数の銃弾を浴び、山県昌景が息を切らせつつも前線を睨みつける。

そこへ乱戦を抜けた伝令が、ボロボロの姿で駆け寄る。

「な、内藤昌豊様……馬場信春様……お討ち死にッ!」

「……!」

昌景の呼吸が荒くなる。だが、立ち止まる暇はなかった。

昌景の前に、ひとりの影が、音もなく近づいてくる。

それはまだ少年のように幼い顔立ち。

黒い短髪、軽装の鎧。手にするのはどこにでもある打ち刀。

だが――。

その双眸には人ならぬ光が宿っていた。

目の奥にうごめくのは、生者を拒絶する禍々しき影。

まるでこの世ならぬものが憑依しているかのような、底知れぬ気配が漂っていた。

「……織田家四天王、明智陸。貴様が俺の相手か」

昌景は槍を振り回し気合を入れると、一気に地を蹴る。

「いざ、勝負ッ!」

獣のように跳びかかろうとした、その瞬間――。

「な……!」

昌景の脚が動かない。

視線を落とすと、大地から無数の人骨の腕が伸び出し、彼の両足をがっちりと掴んでいた。


ゾクリ……。


背筋に凍りつく悪寒が走る。


「なっ……なんだこれはァッ!」


恐怖に叫ぶその刹那――。

ひと筋の閃光が、首元を横切った。


バシャァッ!


血しぶきが宙を舞い、昌景の巨体は前のめりに崩れ落ちた。

その眼は、死の間際まで理解が追いつかぬまま、見開かれていた。

少年――明智陸は、一片の感情も浮かばぬ無表情のまま、刀を静かに鞘へと納める。

刃の擦れる澄んだ音が、戦場のざわめきの中に不気味に響いた。

「ここまでは歴史通り。勝負はこれから……」

血と硝煙に満ちた戦場の中で、陸は独り呟く。

その瞳は冷たく光り、誰の目にも映らぬ未来を見据えているかのようだった。

陸は向きを変え、西の空を仰ぐ。

「次は西か……」

低くつぶやいた声には、迷いも揺らぎもなかった。

まるで己の歩む道をただ確認するかのような冷ややかさ。

だが、その足取りがふと止まる。

彼は目を閉じ、ほんの一瞬、戦場の喧騒を忘れるように息を整えた。

まるで遠い昔を懐かしむかのように――。



木の匂いがする小学校の廊下。

まだ背丈も低い少年、明智陸は小さな拳で目元を拭いながら、必死に涙をこらえていた。

「もー、消しゴムとったぐらいで泣くなよー!」

「ほんと、陸は泣き虫だよなー!」

走り去っていく同級生たちの笑い声が廊下に響く。

陸はうつむき、肩を震わせた。

「……ウッ……ヒック……」

そのとき。

軽やかな足音とともに、一人の少女が近づいてきた。

柔らかな声が、涙にくもった視界に降りてくる。

「どうしたのー?……かなしいの?」

顔を上げると、そこには優しく微笑む桃色の長い髪の少女――。

彼女はそっと手を差し伸べ、まっすぐに陸を見つめる。

「おいでっ。おはなししよ?」

その笑顔に、陸の涙は止まり、胸の奥にあたたかな光が差し込んだ。



血の匂いの立ち込める戦場で、明智陸はゆっくりと青空へ手をかざす。

そしてかすかな声で呟いた。


「……待ってて……桜。」


挿絵(By みてみん)



姫路城―当主の間。

「伝令! 急ぎ申し上げます!」

一同が静まる。

「先日、織田家と武田家が長篠にて激突! その戦において、織田家が勝利し、武田家の重臣の多くが討ち取られたとのことです!」

ざわめきが広がる。

「なんと……」

政秀が驚きの声を漏らした。

「あの最強と名高い武田騎馬軍団が……」

武田の騎馬隊は、日ノ本最強と謳われた騎馬軍団である。その圧倒的な機動力と攻撃力は、多くの戦で敵軍を蹴散らしてきた。

それが、敗れたというのか――?

「織田方は、大量の鉄砲を用いて騎馬隊を殲滅したとのこと!」

さらに伝令がそう報告すると、再び広間がどよめいた。

官兵衛は桜の方を見る。桜は黙って目を閉じている。

(……他にどう説明するというのだ。

このような無垢な娘があのような複雑な遊具を考えたり、革新的な政策の発案……ましてや日ノ本の情勢をここまで正確に言い当てるなど……)

官兵衛はにやりと笑った。

(フフッ……これは、面白くなってきたやもしれぬ)

「殿、引き続きよろしくお願い申し上げまする」

桜は一瞬きょとんとしたが、すぐに官兵衛ににっこり笑い答えた。

「え?あ、うん。トランプなら今日もやりに行くよ」

「ハハッ、いえそういう意味では……うん?」

 官兵衛はふと桜の瞳に視線を移す。

 無垢な瞳に奥に一筋の光が揺らいだ。

 それは炎のゆらめきのようでもあり、風にきらめく刃の反射のようでもあり、説明のつかない気配だった。

 不思議と冷たさはなく、むしろごく自然に、桜という少女の内側に溶け込んでいるように感じられる。

 だがその光は、一時だけだった。

 しばらくするとその気配は消え、いつもの天真爛漫な桜の瞳に戻っていた。

(……なんだ、今の気配は?)

官兵衛はその時、桜の瞳に写った気配が何なのか、わからなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ