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第4章 疑惑〜19〜

第4章 〜19〜


※展開は非常にデリケートな方向へ向かいます。


会議室での聴取のシーン

事態は望まぬ方向へ。


引き続き、アンガーマネジメントよろしくお願いします。

 誹謗中傷は、許されざる行為だ。


 颯希は、高原が罰せられるのは本意ではない。

 ただ、自分以外にも同様の被害を受ける人が居たとすれば、それは食い止めなければいけない。

 そして、仕事の邪魔をする嫌がらせ行為、特にデータ消去などは、言わずもがな、あるまじき行為だ。

 このような行為を放置する事、これもまた許されない事だ。


「会社としてはな、高原。ここは毅然と行くぞ」

「はい…」

「データ消去については、徳永さんも目撃してはる。あとは、このメモな。筆跡を照らし合わせたら、誰が書いたか分かるんや」


 そう言うと、松浦は少し溜めた。自身の部下がやらかした行為である事から、部長としても何らかのペナルティを受ける事になるだろう。

 松浦も、心中穏やかではないのだ。


「高原、この証言をもって、懲罰委員会にかける事になる。日向の意思とは無関係に、お前がやらかした行為についての判定が下される事になるからな!」


 松浦のこの言葉を受けて、高原は深くしな垂れた。しかし、泣いているように見えて、実は笑っていた。


 しばしの沈黙の後、高原は口を開いた。


「部長、日向は昔から女みたいな奴なんですよ。女装とか化粧とか、女やから、しゃあないんですよ」

「何っ!?」

「だからぁ、男の仕事やってる事が間違いなんすよ、ヒヒヒ…」


 吐き気がした。

 颯希の息は、徐々に荒くなっていく。

 その様子を見た松浦は、救護室から常在の看護師を呼んだ。


 高原の“あらぬ言葉”に堪りかねた太田が、珍しく眉をつり上げた。


「お前! 何ちゅう事言うねん!」


 少し怒鳴ったが、すぐに言葉を落ち着かせた。


「日向はな、男として入社して、男として一生懸命働いてるんや」


 太田は高原の言動に憤りを露わにし、颯希を気遣うつもりでそう言った。しかし、この言葉に颯希は、逆に大きな違和感を感じた。


 ―男として…?

 男なのだから、当然じゃないか。ここで「男として」という言葉を使うのなら、太田課長も自分のどこかの部分を女性のように見ているのか?

 じゃあ、自分は一体何者なんだ?

 確かに、幼少の頃は女の子のように育てられ、幼少期の友達といえば莉玖。女の子だった。

 だけど小学生の頃からは、「男なのだから男らしくあれ!」と父親からいつも言われていた。

 自分は男なんだ。男なんだよ!


「うわぁっ!!!」


 短く、かつ大きな叫び声を上げた直後、颯希は崩れ落ちた。

 呼吸がどんどん速くなった。

 吸っても吸っても、体内の酸素が足りない気がした。

 意識が少しずつ遠のいて行く気がする。


 ドアが開き、看護師・福本の甲高い声が聞こえた。そして同時に、聞いたことのない男性2人の声がした。


「ゆっくり、ゆっくり…ゆっくり息を吐きましょう」

「大丈夫ですよ。充分吸ってるので、吸った分をゆっくり吐いていきましょう」


 男性2人の声が、そんな風に聞こえた。

 おそらく救急隊員なのだろう。


「楽にしましょう。胸、釦外しますよ」


 程なくして、その救急隊員と思しき1人がそう言ったように聞こえた。

 颯希は反射的に胸を押さえ、これを拒否した。


 ―ん?


「あ、いいですよ。そのまま行きましょう。良いですか? 抱えますから、力を抜いて…はいっ!」


 救急隊員に抱えられ、階段を下った颯希は、そのままストレッチャーに寝かされ、救急車に乗せられた。

 課長が同伴者として乗り込むため、名乗りを上げたが、松浦が彼を止めた。


「徳永さん、乗ってもらえます?」

「分かりました」

「これが日向個人のスマホ。たぶん緊急連絡先入ってるはずや」


 松浦と徳永のやり取りが聞こえた颯希は、救急車の中から小さな声で、何度も1人の名前を言った。

 緊急連絡先ではなく、脳裏に浮かんだその人の名を。


 ―莉玖…。莉玖…。



 救急車は、京都伏見救急センターへと向かい、走り去った。


「太田さん…あとで話しましょう」

「分かりました」


 そして、残ったもう1人。高原は、初めて見るこの事態に、さすがに顔を強張らせていた。


「お前、明日絶対休むなよ! 日向には休んでもらうけど、人手が足らんから、補うつもりで来なさい。部長命令や」


 高原は、強張った顔はそのままに、松浦の命令に声も出せず、ただ顔を縦に振った。


 その後、松浦と太田は会議室に戻り、高原はB室作業へと戻らされた。

読んでいただき、ありがとうございます。


社内で受けた誹謗中傷。

加えて、重要データの損失。

もう冷静ではいられないのは、語らずともお判りいただけますよね。


しかし、各人の言葉に注意してみて下さい。

颯希の心の中で何が渦巻いているのか。

それはもっと奥深いものなのかな?っていう部分を、この回で私は伝えようとしています。

ここまででも随分長いストーリーではありますが、実はここから大きく動いていく事になります。


是非注目して下さいね!

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