第4章 疑惑〜18〜
第4章 〜18〜
誹謗中傷と迷惑行為はエスカレート。
颯希、そして上司が、遂に動く。
※アンガーマネジメントよろしくお願いします。
「ひ〜な〜た〜リーーーダッ!」
どうせろくな話じゃないはずだ。
無視するつもりはないが、月末の集計に集中したい颯希は、聞こえないふりをした。
「リーーーダーーーーッ!!」
返事のない颯希の顔を、高原は覗き込むように見た。
「はい、何でしょう?」
仕方なく返事をする。
迷惑な行為は、徐々にエスカレートしている。
「あ!」
「えっ!?」
「す〜みませ〜ん…」
手を付いた指先が、10キーに触れた。
入力中の計算式に無関係な数字が打ち込まれ、挙句にエンターキーを押されてしまった。
「ごめんごめん。不可抗力。なっ」
「お前ぇ……」
「悪かったって。早よやり直さな、時間ナンボあっても足らんやろ?」
「ほな、要件先に言うてぇや」
「いや、別に…今日は何してるんかな〜思ただけぇ〜」
キレる前に颯希は、社内携帯電話を手にする。
「あ、すみません、主任。日向です」
高原は、主任と聞いてそそくさと去って行った。
休憩室では、何やら騒ついている様子が窺えた。
話の中心に居るのは、高原だ。
「そうなんすよ。不可抗力に対して、すぐに主任に電話するんすよ」
「そんなん、ひと言注意したらええだけやん」
「でしょう?」
そこに現れたのは、徳永だ。
徳永は見ていた。というより、同じB室に居るのだから、彼の態度が見えない訳がない。
「高原、ちょっと来なさい」
「何すか?」
「話は会議室でしよう」
徳永に率いられて会議室へ向かう高原。彼の顔は、どことなくニヤニヤ笑っているようだ。
誰もいない工場内を抜け、階段を上がり、会議室のドアを開けた。
「何すか?」
そこに居たのは、神崎ではなく太田だ。颯希も同席している。
そしてその横には、松浦部長が居た。
「これ、高原の字やな?」
「違います」
「同じ事、書いてみぃ」
松浦が手に持っていたのは、小さなメモだ。それは、作業中に臨時従業員の手から手へと渡り、真面目で心優しい金山の元へと回っていた。
書けない。
書ける訳がない。
無理もない。同じ字体なのだから。
「これは誹謗中傷として処理したらええのか? ん? 高原!」
「……」
高原は、その場で下を向いて黙り込んだ。
メモに書かれた内容、それは…
『この職場に女装癖のある男が居ます。だ〜れ?』
「ひ…」
「ん?」
「日向とは言うてませんけど…」
そこに、颯希が口を開いた。
「この前、女子トイレ指差して、『お前、こっちやろ』って言うたよなぁ」
「でも、このメモは日向とは言うてへん」
ここまで来て、尚も言い逃れようとする高原だが、その理由は他でもない。
「誹謗中傷は、場合によっては懲罰の対象になる。日向は同僚がそうなってしまうのが嫌で、ここで謝罪してもらえばいいって言うてこの場を持ってくれたんやぞ」
どんな憎い奴であっても、懲罰にかけられるところなど見たくはない。
しかし、この事態に対しては、颯希自身も言いにくい事があったのだが。
そして高原は、ここぞとばかりにその話を切り出す。
「此奴、でもSNSに女装して歌ってる動画上がってるんすよ」
しかしこの言葉に対し、会議室に居るメンバーは、皆冷静だ。
「上がってるねぇ。誤解を招く行為っていう事で、日向も反省しとる」
「は?」
「話した。女子の格好で路上やった事」
颯希は、既に話していた。太田に呼ばれたその日、全てを。
自身が女性っぽい事は、否定するつもりもない。他人から見てそう言われるのなら、きっとそうなのだろう。
それは、悪い事なのか?
その容姿や声、ちょっとした仕草の女性っぽさ。そして、ギターと歌の上手さ。
鴨川美化運動と題して始めた路上ライブに、颯希の容姿その他特徴が華を添えた。
八坂署・西田は、颯希が女性っぽくなる程集客力が上がる事に気付き、颯希自身もそこに乗っかった。
「事実関係は、そういう事や。警察も絡んでる事案や。ただまぁ、女装って言うと変なイメージを持つ人も居るから、誤解を招く事は止めるように言うた」
「八坂署にも確認取った。担当の西田さんっていう方は、悪ノリが過ぎたって謝罪しゃはった。なぁ、高原…」
松浦は、腕を組んだ。そして、少し溜めてから言った。
「日向は誰も傷付けてへん。寧ろ、日向の歌で幸せになった人も居るらしい。もちろん会社ではこれを肯定する訳ではないけど、人に幸せをもたらす行為については、正直褒めたいところもある」
それに対し…
「高原なぁ、日向はお前から、ずっと嫌がらせ受けてるってな」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「何をどう待つねん? お前、さっきも日向の仕事邪魔して、集計データ消去したやろ!?」
「その時点でな、ほんまは懲罰に値する行為や。それを日向は…」
「もういいっ! もういいっす!!」
高原は追い詰められた。
逃げ場を失い、自身の行為から自滅への一途を辿った。
その様子を横目に、颯希は呟いた。
「もう…遅いねん…」
読んでいただき、ありがとうございます。
冒頭の高原の行為、皆さん憤りを感じられたでしょうね。
こういった迷惑行為って、ある所には実際にあるようです。
ほんと困りますね。
対する颯希の反撃。
度重なる行為に即座に対抗せず、上司へ報告という形を取ったのは賢明…
なのですが……




